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——ある罰ゲームの顛末——
「……は?」
テキサスのその一言で、その場の空気が凍りついた——いや、正確には「凍りつく」という表現は適切ではない。なぜなら、その場にいた他の州たちの表情は、凍りつくというより「一斉に崩壊」したからだ。
カリフォルニアはサーフボードを取り落とし、アラスカは無表情のまま固まり、ニューヨークは「Fuhgeddaboudit」と呟いて目を逸らした。そして(なまえ)は——。
「……ぷに?」
(なまえ)は首をかしげた。右に45度、完璧な角度で。欠損した中指と小指を除いた左手の三本指で自分の唇をトントンと叩きながら。
「テキサス ばっきゃにいちぁん……ちゅちゅ?」
「そういうことだ、小娘。」
テキサスはカウボーイハットのつばをぐいと押し上げた。その顔には、得意げな——いや、むしろ「仕方なく」というニュアンスの方が強い——表情が浮かんでいる。
「罰ゲームだ。ルールはルール。お前、さっき『ワイ……でけるやし!』って言って、テキサスのステーキを一人で食い尽くすって宣言したよな?」
「……うみゃやし!」
「で、三分でリタイアした。」
「ぱら……はちきれりゅ……」
「そして、『めんねぇ…ワイ……まけりゅ…』って負けを認めた。ならば罰ゲーム。テキサスのルールでは、負けた者は勝った者の言うことを一つだけ聞かなきゃならねぇ。」
テキサスはニヤリと笑った。その笑顔には、悪意ではなく「西部の掟」という名の頑固な公平さがあった。
「で、俺は『(なまえ)とちゅちゅする』って罰を選んだ。異論はあるか?」
異論はあった。
(なまえ)以外の全員が。
しかし、その場にいた誰もテキサスに「異論」を唱えられる者はいなかった。なぜなら——
「異論があるなら、俺と勝負しろ。ルールはルールだ。」
——テキサスにとって、「ルール」とは「テキサスのルール」のことだったからだ。
***
その日の午後、テキサスの広大な牧場の一室。
(なまえ)は大きなベッドの端にちょこんと座っていた。白いフリルのワンピースの裾が、膝上でひらひらと揺れている。右腕の断面が少しだけ震えているのは、緊張なのか、それとも単に部屋の冷房が効きすぎているからなのか。
「……さみぃ。」
(なまえ)が小さく呟いた。
「もうすぐ暖かくなる。」
テキサスはベッドの向かい側に立っていた。カウボーイハットは脱ぎ、ブーツも脱いでいる。しかし、その存在感は全く衰えていなかった。198cm、115kgの巨体は、138cmの(なまえ)にとっては「動く壁」のようなものだ。
「……ちゅちゅ、しなくちゃ、いけにゃい?」
(なまえ)が上目遣いに尋ねた。閉じているはずの両目が、なぜか「うるうる」しているように見えるのは、テキサスの錯覚だろうか。
「ああ。」
テキサスは短く答えた。
「……でも、ワイ……ちゅちゅ、しゅきぢゃにゃい。」
(なまえ)が左手で自分の唇を押さえた。欠損した中指と小指がないため、その仕草はどこか間の抜けている。
「……きらい?」
テキサスが尋ねると、(なまえ)は深く——本当に深く——考え込んだ。左手の三本指を顎に当て、「えとぉ……えとぉ……」と呟くこと数秒。
「……きらいぢゃ、にゃい。」
「ならいいだろ。」
「でも……ちょっぴり、こわい。」
「ちゅちゅが?」
「……ばっきゃにいちぁん が。」
テキサスは一瞬、言葉を失った。
「……俺が?」
「だって……おっきいやし……こわい。」
(なまえ)の言葉は単純だった。テキサスが「大きい」から怖い。それだけだ。
テキサスは深く息を吐いた。そして——
「わかった。」
——そう言って、床に座り込んだ。
198cmの巨体が、体育座りをするように。床に座り、(なまえ)の目線の高さに合わせるために。
「……これで、どうだ。」
「……ちっしゃくなった?」
「なってねぇよ。でも、少しはマシだろ。」
(なまえ)はじっとテキサスを見つめた。閉じている目で。そして——
「……うん。ちょっと。」
——そう言って、少しだけ口元を緩めた。
***
「……よし、やるぞ。」
テキサスが言った。床に座り、(なまえ)と向き合って。
「やるにゃ……」
(なまえ)は覚悟を決めたように、左手をぎゅっと握りしめた。欠損した指がないので、その拳は「三本指のちっちゃい拳」だった。
「……ルール、きめる。」
(なまえ)が突然、真剣な顔で言った。
「ルール?」
「うん。ワイ……ちゅちゅ、ゆるす。でも、いじょー……しゃないで。」
「……いじょー?」
「いじわる、ってこと。ばっきゃにいちぁん……ちょっとこわいから、やさしくして。」
テキサスは一瞬、目を見開いた。そして——
「……わかった。」
——珍しく、素直に頷いた。
「やさしく、する。」
「……しんじりゅ?」
「テキサスの男に、嘘はねぇ。」
(なまえ)はもう一度、じっとテキサスを見つめた。そして——
「……わーた。」
——そう言って、ゆっくりと前に進み出た。
***
(なまえ)はテキサスの膝の上に乗った。大きな膝は、(なまえ)にとっては「ちょっとしたステージ」のような広さだった。
「……おっきい。」
「ああ。」
「……ふわふわ。」
「……それは、俺の腹だ。」
テキサスの腹は、確かに筋肉でがっしりとしていたが、その上には少しばかりの脂肪も乗っていた。(なまえ)はその感触を確かめるように、左手でぺちぺちと叩く。
「……うみゃ?」
「うみゃじゃねぇよ。腹だ。」
「うみゃ。」
「だから違うって。」
テキサスは仕方なさそうにため息をついた。しかし、その目はどこか優しかった。
「……じゃあ、やるぞ。」
「……うん。」
(なまえ)は顔を上げた。テキサスの顔が、すぐそこにある。
——大きい。本当に大きい。
(なまえ)の心臓が「どきんどきん」と鳴った。これは、気持ちいいのとは違う。もっと、なんというか——
「……おばけぇ…」
「まだちゅちゅしてねぇぞ。」
「……こわいの、ちゅぎゃう。きもちわるいのと、ちぎゃう。でも……こわい。」
(なまえ)の説明は相変わらず支離滅裂だった。しかしテキサスは、なぜかその意味を理解した。
「……わかった。じゃあ、こうする。」
テキサスは自分の手を、(なまえ)の小さな頭の上に置いた。そして——
「お前が、『もういい』って言うまで、近づけねぇから。」
——そう言って、自分の顔を少し後ろに引いた。
「……え?」
「『やぁや』って言うまで、待つ。これがテキサスのルールだ。」
(なまえ)はぱちぱちと(閉じた目を)瞬かせた。そして——
「……やさしい?」
「ああ。」
「……テキサス ばっきゃにいちぁん、やさしい。」
「……うるせぇ。」
テキサスは顔を背けた。耳の先が、ほんのり赤い。
(なまえ)はその様子を見て、にひっと笑った。
そして——自分から、前に進んだ。
***
ちゅちゅ。
それは、まるで「ぷにぷに」という擬音語を具現化したかのような、柔らかい感触だった。
(なまえ)の小さな唇が、テキサスの少し乾いた唇に触れる。
一瞬。
ほんの一瞬の接触。
「……んにゅ。」
(なまえ)が顔を引いた。そして、自分の唇を左手で触れる。
「……ぷにぷに やし。」
「……ああ。」
テキサスも、自分の唇を触れた。
「……で、終わりか?」
「……ワイ……やぁや、って、ゆってにゃい。」
(なまえ)が言った。
「……もいっかい?」
「……お前がいいなら。」
(なまえ)はもう一度、前に進んだ。
今度は、少しだけ長く。
——ちゅう。
「……んむっ。」
(なまえ)が目を閉じる(常に閉じているが、さらに閉じる)。その顔は、怒っているのか、照れているのか、それとも単に何も考えていないのか、判別が難しかった。
「……どうした。」
「……なんでも、にゃい。」
(なまえ)はぶんぶんと頭を振った。そして——
「……テキサス ばっきゃにいちぁん、ちゅちゅ……うまい?」
「……は?」
「ワイ……しゅきぃって、ゆわれりゅと、うれしい。でも……テキサス ばっきゃにいちぁん、しゅきぃって、ゆわにゃいやし。だから……ワイ……どーやって、かんがえりゃ、いいか、わからにゃい。」
テキサスは深く——本当に深く——息を吐いた。
そして——
「……美味い。」
——そう言った。
「……え?」
「俺は、美味いって言ったんだ。テキサスの男に、嘘はねぇ。」
(なまえ)は数秒、固まった。そして——
「……うみゃ?」
「ああ。」
「……ワイ……うみゃ?」
「ああ。」
「…………にひっ。」
(なまえ)は、満足そうに笑った。
その笑顔を見て、テキサスは——なぜか、自分も笑っていた。
「……で、どうする。もう一回やるか?」
「……やる。」
(なまえ)は答えた。
「……でも、こんどは テキサス ばっきゃにいちぁん から。ワイ……ちょっと、さみぃから。」
「……わかった。」
テキサスは、自分の大きな手で(なまえ)の小さな頭を包み込み、そっと——本当にそっと——自分の方に引き寄せた。
「……目、閉じろ。」
「……ずっと、とじりゅ。」
「……そうだったな。」
そして、もう一度。
今度は、本当に優しく。
テキサスは、(なまえ)の唇に自分の唇を重ねた。
***
その後、その一部始終を隣の部屋から覗いていたカリフォルニアが「Dude…マジでエモい…」と呟き、アラスカが「……寒いから帰る」と無表情で去り、ニューヨークが「Fuhgeddaboudit…これ、罰ゲームだろ?」と頭を抱えたことは、また別の話である。
そして——
「……テキサス ばっきゃにいちぁん、また ちゅちゅ しゅる?」
「……お前、罰ゲーム終わったぞ。」
「でも……ワイ……もっと うみゃ って ききたかったやし。」
「………………」
テキサスは、長い沈黙の後、こう答えた。
「……明日、また来い。」
「……うん!」
(なまえ)は満面の笑みで——いや、常に閉じている目でどうやって「満面の笑み」を表現するのかは不明だが——頷いた。
その夜、テキサスは一人でカウボーイハットを深くかぶり、牧場の柵に寄りかかって呟いた。
「……ちっせぇな、あの小娘。……でも、悪くなかった。」
遠くで、オオカミの遠吠えが聞こえた気がした。
——それは、テキサスの心の叫びだったのかもしれない。
【了】