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フォロワー様400人記念「後ろ姿の君へ」の、アフターストーリーになります。いつも本当にありがとうございます。
明確な終わりは決めておらず、個人的にも1つのこんなエンドがあるかな、と思いながら書きました。他に解釈する参考にしていただけたらと思います。
世界観を壊したくないよという方はお避けください。
◻︎◻︎◻︎
ねえ、ワカイ。久しぶりに欲しいものが出来たんでしょ?
✕✕を頼りなよ。今までも、そうだったじゃない。
大丈夫、任せてよ。万事上手くやるから。
◻︎◻︎◻︎
夏のあの日から藤澤の傷が日に日に増えていることに、大森は気付いていた。少し痩せ、顔はやつれて、シャツから伸びる腕は痛々しい紫や赤黒さで染まっている。それに伴いメイクや衣装がどんどん分厚くなっていく。どれも完治すること無く上書きされているのかいつまでも消えることは無かった。
流石に周りも異変に気が付かないほど疎くない。だがその話題に皆が触れようとすれば、声も瞳も藤澤とは思えない程冷たくなり明らかに異質な雰囲気だった。あの大森でさえ顔を顰められ部屋から追い出された。
ただ一人、若井を除いては。
メンバーの一人である彼は唯一傷に触れても何も言われなかった。そう、文字通り何も言われなかったのだ。痛いだとか何してるのだとか、そういう会話も本当に何も無かった。
傀儡になった様に、彼は無表情でひたすら触られているだけだった。
対照的に若井は嬉々としてわざわざ生傷を撫で回した。
この異様過ぎる2人に大森はいい加減苛々していたし、焦りも覚えていた。仲間外れにされる事がそもそも得意でないのに、メンバーが傷だらけという重大なことに首を突っ込めないのも益々彼を苛立たせた。更に大森は藤澤に対して密かに恋心を抱いていたのだ。想い人の辛そうな顔なんて見ていられない。急いで忙しいが合間を縫って話し合える日を探した。そこで解決するつもりだった。
でも、3人で会議するため集まる前に藤澤は壊れた。
大森は信じられなかった。ただひたすら、棺に入った彼の、最後に見た時より増えた鬱血痕をなぞるしかなかった。表情は穏やかで、死んでいるにはあまりにも美しかった。
若井が居なくなったのに気づいたのは葬式の後だった。大森はてっきり、あまりのショックで立ち会えなかったのかと思っていた。
でも彼の家には、もう既に家具も何も残っていなかった。業者に尋ねると、随分前に次の家が決まってないのに引っ越して行ったそうな。
秘めていた本能を解き放ったように、彼は消えてしまったのだ。もう一度皆の前に現れる事も無かった。
ふと、1人残された大森は自室で写真立てを見ながら思う。彼の中に居た、「何か」は役目を果たしたのだろうかと。写真の中で息をしている彼の瞳はいつも通りだが君に触れていた時はまた温度が無かったな、と。
ぽっかり空いた穴を撫でるように、彼らに優しく触れる。支えている指が震える。少しホコリが乗ったガラスに雫が数滴落ちた。
「俺は、いつなら、間に合ったんだろう…」