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温度が人肌を超えていたような猛暑が過ぎ去り、最早身震いがするほど気温が低くなっていた今日この頃。
季節はもう冬になっており、僕らを包む風はとても冷たいものであった。
まぁ、僕は寒さなんて感じれないけれど。
◆
久しぶりに万葉に会った。
寒さで鼻や耳を真っ赤にして白い息を吐いていて、当たり前だけれども彼が人間であることを再認識させられる。
人間は脆い生物なのだから、それを自嘲して部屋にこもって居れば良いのに。そうは思うもののあの万葉が大人しく室内に居るなんて想像できない、解釈違いだ。
やっぱり元服を終えたにしては低い背丈と高めの声はなにか、こう、脳にくるものがある。なんというか、じわりと溶けていくような。そんな感じ。
まあ僕に脳なんて無いから思考プログラムなんだけどね。
「….ふふ、随分と久しぶりでござるな」
「….そうだね。前あった時は….3月程前かな。」
「ああ、そうか…..もうそんな経ってしまうのでござるか、時が過ぎるのは少々早すぎるやもしれぬ。」
にこりと僕に笑いかけた彼の顔はお日様みたいに暖かい笑顔で。ひゅー、と冷たい風が通るのにそんなのも気にさせないくらい、暖かい。
なにか変化は無いかとか聞いたけれども特に変わったことも無く万葉自身も大きな怪我もしておらず胸をなで下ろした。
前会った時となにか違うかと言えば….そう、服装。
乗せてもらっている船の船長とやらに貰ったらしい、スネージナヤ製と思われる白いコートを身に着けていた。
前世の僕も、スネージナヤ…本部に身を置くことが常だったので彼と同じ作りのコートに腕を通した事がある。
正直、厚めの布一枚で何が変わるのか、とは思う。
稲妻にはんてん等はあれど、それは外に来ていくには少々勇気のいる、あくまで在宅用だった。そんな中、外に着る…スネージナヤ製の上着を初めて着たらしい万葉は、コートが珍しいのか若干そわそわしながら歩いていた。
普段達観していて落ち着きがありすぎる程の彼のそんな姿は実に微笑ましいものだった。
「…それ、そんなに珍しい?」
「うむ、初めて身に着けるもの。というのもあるのだが、顔は風が当たって冷たいのに体は、こー、と?のお陰で暖かいのが不思議に思うのでござるよ。」
「…………….ヘエ。….僕は、寒暖差を感知する機能がないからわからない。けど…」
いや、コートの発音、なんだそれ。かわいすぎだろ
人一倍風に敏感な彼はそんなことも気にするらしい。頭に風が当たるの、寒いのか。
寒さからか、鼻を真っ赤にして前を向いている万葉の胸ぐらを掴んで、立ち止まらせてから僕の方に引き寄せる。
「っほ、ろうしゃどの…?」
軽く混乱している彼の襟巻きを手にとって、後ろに回されて余っている部分をもう一週巻きつける。
「寒いんだろ」
「…う、む…」
「…、」
「…過保護、でござるな」
ぐるぐると万葉の首元を完全防御状態にしていると万葉がボソリとつぶやいた。
「は?」
急にへんなことを言われて思わず、視線を合わせてしまった。夕焼け色の瞳がじっと此方を見つめている。何も言われず見つめ合うのは、
少々…いや結構恥ずかしかった。気まずさを誤魔化すように視線を落とすと今度は不満そうな声があがった。
「何故視線を逸らすのか」
「…なら君も急になんでそんなこというんだ」
「気に触ったでござるか」
「そ…、ゆんじゃ、ない、けど…」
君と目線を合わせるのが恥ずかしい。
なんて、…そんな生娘みたいなこと、言えないじゃないか。
「何が、過保護なんだ」
「いつも拙者のことを必要以上に心配するであろう?」
「…別に、そんなじゃない。これくらい普通だろう」
「そこまで心配の音をさせておいて過保護と言わずなんというのであろう?」
「…っ、辞めればいんだろ」
縋るように掴んでいた万葉の衣服からすぐに手を離して万葉から距離を取るように小走りで歩く。すると万葉から「あ!待たれよ!」なんて反応が遅れたような声が後ろから聞こえた。
ぱたぱたと音を立てて近寄ってくる万葉の方を軽く振り向きながらじとりと睨む。
「そういうことではござらぬ!」
珍しく声が大きい万葉に驚く。
ぱし、と腕を掴まれて止まざるをへなかった。
「じゃあ、何。」
「ただ…」
「…」
「ただ、拙者を見てくれなかったのが気に入らなかっただけでござる」
なんで、なんでこんなキザな言葉が出てくるんだ…
ぎゅうぅと胸が締め付けられる感覚を悟られぬよう無愛想に振る舞おうとしても、出たのは頼りない声だけだった。
「…あ、っそ、」
こんな些細な…万葉のたった一言に触発されるように顔が赤くなっていくんだ。
苦し紛れに返事したのはやっぱり万葉にはバレバレだったらしい。
今度は僕が立ち止まらせられて両手を握られる。
「次は、きちんと見てもらおう。」
万葉に委ねた僕の手が、万葉の手と絡んで恋人繋ぎ、と言われるものになった。
稲妻の楓を思い出させる朱色の目がしっかりと此方を見る。
どうせ、次の瞬間には「愛している」とか歯が溶けそうなくらい甘ったるい言葉を言うんだ、君は。
「お主を誰よりも、世界でで一番愛している…放浪者殿。」
案の定言われた言葉に、くらくらと目眩がしてくる。顔に熱が集まるのがよく分かる。
やるなと言われた手前、もう視線を逸らすなんて出来なくて、僕は茹でだった顔を見られたくなくて、ため息を付きながら万葉の肩に顔を寄せて、抱きついた。
「…きみと居ると、あつすぎる…」
「ふふ、お主は熱さを感じないのであろう?」
野暮なこと言うな、と言いたがったが今の僕には言い返す気力すら無くて。
万葉のせいで焼けてしまいそうなほど熱くなった顔を冷やそうと身体中エラーが起きていたのだった。