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クラスメイトに新しく死神が加わってから、数日。
それは教室での、亜矢の親友・美保との会話から始まった。
「ねえ、亜矢ってグリアくんの事が好きなの?」
その言葉に、亜矢は思わずブっと吹き出しそうになった。
いや、別に何かを飲んでいる最中ではないのだが。
「ち、違うわよ! 何言い出すのよ美保!?」
亜矢の反応の大きさに対し、美保はキョトンとしている。
「だって、いつも一緒にいるじゃない? 今日も朝、一緒に登校してたみたいだし……」
(一緒にいるんじゃないの、あいつが付きまとってるだけ!)
と心の中で本音を叫ぶが、これ以上、事情をややこしくしたくないと思った。
「ホ、ホラ、あいつはあたしの隣の部屋に住んでいるじゃない? だから、行きも帰りもたまたま一緒になる事が多いだけよ!」
焦って早口になりつつ、それらしい理由でごまかした。
だが、美保はそれを聞いて満面の笑みを浮かべたのだ。
「そっか、じゃあ安心!」
えっ、と亜矢は美保の顔を見返した。
「安心って何よ美保?」
「うん、決めた! 美保、グリアくんに告白するわ!!」
「…………」
亜矢は目を見開いたまま固まっている。
言葉が出ないというか、驚きの次に感じたのは大きな不安。
「美保……あいつは、やめといた方がいいわ……」
「え〜何で? あんなにカッコいい人、今までに会った事がないもん!」
確かに、グリアは一見すると普通にカッコイイだろう。
だが、亜矢が知る彼の正体、内面は鬼や悪魔に近い。
そもそも彼は人間ではないのだ。
色々考えても、彼に近付いても何事も良い方向に向かう訳がない。
第一、自分がそうなのだ。
(はぁ……でも、本気なのよね、美保は。どうしよう……)
親友の事を応援したいのは確かだが、これ以上死神に関わらせたくない。
説得した所で、美保がグリアの事を諦める性格でない事も知っている。
複雑な気持ちを胸に、気合いいっぱいの美保に向かって亜矢は作り笑いをした。
「ねえ、美保の事って、どう思う?」
「ああ?」
昼休み、亜矢はグリアに単刀直入に聞いてみた。
わざわざ人気のない所を選んで、亜矢とグリアは並んで座り、昼食。
相変わらず、亜矢にパシリさせて買わせたおにぎりを頬張りながら、グリアは気の抜けた返事を返した。
「ホラ、いつもあたしと一緒にいる、髪の長い……」
「ああ、あいつな。そいつがどうした?」
こんな事を聞いて、余計なおせっかいだって解ってる。でも—。
「いえ、どうしたっていうか……」
亜矢はそこで言葉を詰まらせた。
だが、グリアはそんな亜矢の心を読んだのか、僅かに目元が笑っている。
「あいつもなかなか美味そうな女だと思うぜ?」
「な、なに言ってっ……!!」
「だから、魂の話だって。なーに前と同じ反応してんだかなぁ、ハハハ!!」
「〜〜〜〜もういいわっ!!」
くだらない事で振り回され、本気で怒る気も失せた。
亜矢はフイっとそっぽを向いた。
そのまま、二人は沈黙。
いや、おかしい。
こんなに不自然な沈黙が続くなんて。
グリアは、いつも隙さえあれば亜矢をからかうような言動を起こすのに。
亜矢はふと、視線をグリアの方に向けた。
おにぎりを食べ終えたグリアは座ったまま顔を少しだけ伏せ、鋭い視線だけは上に向け、どこか虚空を見つめていた。
「どうしたのよ、あんたらしくない」
「嫌な感じがすんだよ」
「え?」
「どうやら、面倒な奴が来ちまったかもな」
グリアの言葉の意味が解らず、でもどこか真剣な顔のグリアに、亜矢も何故か緊張した。
「あんた以上に嫌な感じがする人なんていないと思うけど?」
いつものお返しとばかりに亜矢は皮肉を込めて言ったが、グリアの表情は変わらず。
「てめえ、今日の口移しはタダじゃ済まさねえぞ?」
「ちょっ! 変な事したら噛むからね!?」
「へえ、オレ様に勝てると思ってんのか?」
口調だけはいつものグリアだった。
そして、下校の時間。
帰り道が一緒なのだから、不本意ながらいつも隣にグリアが歩いているのだが、今日はどうした事かグリアの姿がない。
何か今日のグリアはいつもと違うなぁ、と亜矢は少し不思議に思ったその時、前方に、制服姿に銀の髪。見慣れた後ろ姿があった。
(なあんだ、あいつ、先に歩いていたのね)
別に無視して歩き続けてもいいのだが、今日のらしくない彼の行動が気になり、小走りに前を歩く背中を追った。
「死神、今日はどうしたのよ一体……」
亜矢はそう言いながら彼の横に並び、顔を覗き込むと……
こちらに顔を向けたのは、グリアとは違う、穏やかな眼をした少年。
ちょっと驚いた様子で眼を丸くしていたが、すぐにクスっと笑いかけてきた。
「ボクは死神じゃないよ?」
亜矢は、あっ! と思って足を止めた。
同時に、グリアに似たその少年も立ち止まる。
「ご、ごめんなさい、人違いだわ」
それにしても、この水色の髪、透き通るような青い瞳、白い肌。
グリア以外にも、こんな不思議な外見を持ち合わせる人がいたとは。
後ろ姿だけを見れば、グリアと見間違うのは無理もない。
しかも彼は、亜矢と同じ高校の制服を着ているのだ。
「君、亜矢ちゃんだよね?」
その突然の言葉に、亜矢は驚きと共に我にかえった。
「えっ? どうして、あたしの名前……」
「ボクは近々、君と同じ高校に通う事になるから、よろしくね」
「え、ええ……」
亜矢は力の抜けた声で返したが、彼の馴れ馴れしいとも言える口調も不思議と気にならない。
「じゃあ、また」
そう言うと、少年はゆっくりと歩き出し、道を曲がって行った。
亜矢はその場で立ち止まったまま、彼の通った道を見つめていた。
(転校生って事かしら?)
それにしても、すでに制服を着て歩いていたのはどういう訳か。
ふと、少年の立っていた足元に白い羽根が一枚落ちている事に気が付いた。
だが、それは空気に溶け込むように、ゆっくりと消えていった。
コメント
1件
うわっ、第3話でいきなり美保がグリアに告白って言い出して、亜矢の気持ちがすごく伝わってきた…!親友を守りたいけど、グリアの正体を言えないもどかしさ。しかもグリアの「美味そうな女」発言には笑ったけど、その後の「面倒な奴が来た」って真剣な顔と、最後に現れた水色の髪の天使…もうこの伏線が気になりすぎる!死神と天使、どういう因縁があるんだろう。白い羽根が消える演出も美しくて、次の話が待ち遠しいです!