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左手で窓ガラスを拭き終えたヨウは、溜息交じりに折れた右腕を見下ろした。指先の感覚はしっかりとしている、授業が終わってから、もう一度回復薬を打った。明日には痛みも引き、今週中には完治できるだろう。二週間後に控えた光輪祭の二回戦には、問題なく出場できるはずだ。

ヨウは振り返る。アリティアの広い室内には、アリティア、シジマ、サイ、ヨウを含めて四名がいる。部屋の主であるアリティアは椅子に腰を下ろし、ネイルにヤスリを掛けている。シジマはアリティアの着替えなどを整理整頓し、サイは床を掃除している。

「サイ?」

モップを持ったまま、サイは先ほどまでヨウが磨いていた窓の外を見ている。目の焦点が合っておらず、ヨウの呼びかけも聞こえていないようだ。

「サイ!」

ヨウは強い言葉を投げかける。サイはハッと我に返ると、手にしたモップを落としてしまった。

「あっ、ヨウ。……なに?」

サイは今朝から調子がおかしかった。昨日、光輪祭の後、サイは精密検査を受けたまま、医務室で一晩を過ごした。ヨウが登校したとき、すでにサイは教室におり、何をするでもなくぼんやりと壁を見つめていた。終始元気がなく、話しかければちゃんと受け答えをしていたが、授業中もぼんやりとすることが多かった。

「サイ、どうしたんだ? 何処かおかしいのか?」

昨日、サイは眉間に弾丸を受けた。電気ショックを与えるパルス銃で、殺傷能力は無いとは言え、その威力は身をもって知っている。当たり所が悪ければ、何らかの後遺症が残っても不思議ではない。

「サイ、調子が悪いなら医務室に行った方が良い? 連れて行こうか?」

シジマが心配そうにサイの顔を覗き込む。サイは引きつった笑みを浮かべると、シジマの視線から逃げるように顔を背けた。

「いや、大丈夫だよ。…………ただ」

「ただ?」

サイは言い淀んだ。そして、伏し目がちにアリティアを見た。

「あの……、アリティア先輩」

「なに?」

呼びかけられ、アリティアはネイルに息を吹きかけると、窓に手を向けて自然光でネイルの具合を確かめた。まるで、サイのことなど意識にない様子だ。

そんなアリシアを見て、サイは小さな溜息をついた。

「どうして、アリティア先輩は僕を選んだんですか?」

呼吸が止まった。ヨウは、自信の無い眼差しをアリティアに向けるサイから、傲岸不遜な表情を浮かべるアリティアへと視線を移した。

「ん~……?」

気のない返事を返したアリティアは、胡乱な眼差しをサイへと向けた。冷たい、凍えるような眼差しに、ヨウは自分の心臓が握りつぶされるような感じがした。

「先輩……」

ヨウはアリティアの雰囲気から、彼女の口から紡がれる言葉が予測できた。彼女の口を止めようとするが、それよりも先にアリティアの口が動いた。

「別に、選んだ理由なんて無いわ。ヨウと一緒にいたから、それだけの理由よ」

「それだけ……ですか……?」

「そう、それだけ。ヨウの隣にいたから選んだだけ。それ以上でもそれ以下でもないわよ」

サイの落胆が見て取れる。彼はがっくりと肩を落とすと、隣で何もできないでいるシジマにホウキを渡した。

「サイ!」

ヨウの言葉を無視し、サイは走ってアリティアの部屋から出て行ってしまった。

「サイ! シジマ、これ頼む!」

ヨウはシジマの持つホウキの柄に雑巾を投げると、サイを追って部屋から出た。アリティアの横を通り過ぎる際、ヨウは彼女を睨み付けるが、アリティアは横目でヨウの視線を受けて、可笑しそうに鼻先で笑うだけだった。

アリティアの部屋を出たヨウは左右を見渡す。数名の生徒が行き交う中、サイは走って左手の廊下を真っ直ぐ進む。幸い、サイの足は遅く、手を怪我しているヨウでも見失う事は無かった。丁度、エレベーターに乗った所で、ヨウはサイを捕まえた。

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