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「リディア‼︎ あぁ、良かったわ。無事で、本当に」


広間に入るや否や、クロディルドは歓喜の声を上げた。リディアはゆっくりと前へと歩みを進め、玉座の少し前で止まった。


「お久しぶりでございます、クロディルド様」


リディアの只ならぬ雰囲気にクロディルドから笑みがスッと消え、険しい表情に変わる。そしてリディアの後ろにいるディオンを睨みつける。


「そうね、リディア。積もる話もあります、再会の挨拶はまた後程致しましょう。……それよりも、何故罪人である彼が一緒なのかしら」


側に控えていたエクセルへと言葉を投げかける。


「それは……」

「彼は私の愛する夫です。私の側にいるのは自然な事で、何等おかしい事はありません。それに罪人などと……いくらクロディルド様でもその様な物言いは赦せません」


エクセルが躊躇う中、リディアはその声を遮った。


「夫……あらまあ、少し会わない間に随分と面白い冗談を言う様になったのね。リディア、貴女はこれから王妃となるのよ? その様な世迷言を……」

「彼女は王妃にはなりませんよ」


その時、マリウスが広間に入って来た。久しぶりに見る彼はやはりまるで変わっていない。ニコニコと場違いな笑みを浮かべている。


「マリウスっ……」

「何故なら彼女は、女王になるのですから」


彼のその言葉に広間にいた臣下等は一気に騒めき出す。


「それに罪人は母上、貴女だ。前国王を暗殺させ、事実を捻じ曲げたままセドリックを国王の座に就かせた」


そう言うとマリウスは自分の侍従等に、臣下等へと証拠となる資料を配らせた。


ーーどう言う事だ⁉︎


ーーここに書かれているのは事実なのか?


ーーヴェルネル殿下の実子……。


ーー確かにセドリック様とマリウス様はハイドリヒ様とは似ていなかった……。


ーーそれに他の側妃は一人たりとも身籠らなかったが……。



臣下等が口々にそう話す中、視線が一身にリディアへと集まる。リディアは臣下等によく見える様に顔を見せてやった。瞳を見開き、見据える。堂々とした立ち振る舞いに息を呑む者も少なくない。


「初代、女王陛下……」


誰かがそう呟いた。すると一人の初老の臣下がリディアへと正式な礼をとり、跪いた。それを合図の様に次々とリディアへと膝を折る。最後の一人が跪いた時、クロディルドは持っていた扇子を床へと叩き付けた。


「貸しなさいっ! こんなの出まかせよ‼︎」


マリウスの手にしていた資料を引ったくりその場に破り捨てた。


「リディア、貴女はマリウス達に騙されているのよ! 賢い貴女なら分かるでしょう⁉︎ 何をしているの! 誰かこの不届き者達を捕らえなさい‼︎」


クロディルドの悲鳴に似た叫び声が広間にこだまする。だが誰一人動こうとしない。


「何をしている‼︎ 母上がこう申しているんだ! 早くしろ‼︎」


これまで傍観し玉座に座っていたセドリックは徐に立ち上がり、怒声を上げる。だがそれでも誰一人微動だにしなかった。


「兄上、貴方は最後までクロディルドこのひとの傀儡なんだね。……残念だよ」


マリウスはそう言いながらリディアへと目配せをする。リディアは静かに頷く。するとマリウスは右手を上げ合図をした。


「何をする⁉︎ 私はこの国の王だぞ⁉︎ こんな事をしてただで済むとっ離せっ‼︎……マリウス、貴様っ」


兵等がセドリックを拘束し、引き摺り下ろす。


「エクトルっ、何とかしなさい‼︎ 聞いてるの⁉︎」


クロディルドはエクトルに掴みかかるが、彼は冷めた目で見下ろすだけで黙り込んでいた。


「クロディルド様。貴女はセドリック様とマリウス様をハイドリヒ国王陛下の実子と偽り、陛下すら暗殺をしてセドリック様を玉座に据えた。そして私を王妃にする事で後継を産ませその罪を消し去ろうとしましたね。私の義兄であるディオンに罪を擦りつけ、殺そうともしました。罪は確りと償って頂きます。……私の義父を殺したことも含めて」


まだ喚き散らしていたが、セドリック同様クロディルドは拘束され引き摺られる様に連れて行かれた。


「さあ、リディア嬢」


マリウスに促されるが、二の足を踏む。するとディオンが肩に触れそっとリディアの背を押す。彼を見上げると笑っていた。その事に酷く安心感を感じた。


リディアは前を見据えて、背筋を正すと跪く家臣等の間を優雅に歩いて行く。玉座の前で立ち止まり振り返ると……。


マリウス、エクトル、シルヴィ、フレッド……ディオン、彼等がリディアを真っ直ぐに見据えていた。


これまでの日々が走馬灯の様に頭を駆け巡る。リディアは少女の様に変わらぬ笑みを浮かべ、玉座にゆっくりと腰を下ろした。





ーー正に、数百年振りに女王が誕生した瞬間だった。


後にリディアは、二人の男子を産み長子が成人すると同時に玉座を退き余生をとある古城で愛する人と過ごした。その日々は幸せであったと言う。









私だけに優しい貴方

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