テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
その日は綺麗に晴れていて。
僕は教室でぼんやりしていた。
(……ちょっと、しんどいかも)
朝から少し身体が痛くて、頭がぼんやりしていた。お母さんは忙しそうに仕事の準備をしていて、僕を見て「大丈夫?」って訊いてくれた。平気なフリしてたのに。
「うん、大丈夫。熱もなかったし」
嘘だった。多分熱はあると思うけど、測ってもいない。いつも忙しいお母さんに心配をかけたくなかった。
「何かあったら、すぐに保健室に行くのよ?」
何度もそう言いながら、お母さんは仕事に行く。その少し後に、僕も学校に行く。
なんとか食べた朝ごはんが重い。
「ちょんまげー? ドッジ行くぞー?」
キングの声がする。そっちを見たら、みんなが僕を見てた。
つい最近、僕はキング達の仲間になった。ずっと憧れていたグループの仲間になれて、でも少しだけ罪悪感もあって。遊んでいるうちはそれも薄れて、ただ楽しかった。
でも、今日は動けない。
「……うん」
それでも、一回でも断ったら、もう仲間に入れてもらえないかもしれない。それだけは嫌だった。だから、僕は立ち上がってみんなのところに行こうとして──
バターンッ
「うわっ、ちょんまげ!?」
派手に転んだ。
「ちょ、何やってんだよ」
キングが笑う。
「あはは……」
ぼんやりしてたから、机に足を引っかけちゃった。痛む膝と手を払って立ち上がると、みんなが笑ってる。
良かった、嫌がられてない。
そう思ってたら、急に腕を引っ張られた。
「ほら、保健室行くぞ」
そう言ったのはターボーで、なんだか怒った顔をしている。どうしたんだろう。いつもはこんな時には、キングと一緒に笑ってるのに。
「え、大丈夫だよ」
僕はそう言ったけど、ターボーはムスッとした顔のまま、僕の膝を指差す。
「血、出てるじゃん」
確かに、ちょっと擦りむいたから血が滲んでる。ちょっとだけだけど。
「あー、ほんとだ。ちょんまげ、絆創膏もらってこいよ」
貧ちゃんもそう言ってくれて、キングは「じゃ、先行ってるぞ」と駆けていく。
「ターボーも、先に行ってて。絆創膏もらったら、僕も行くから」
ターボーは僕の腕を掴んだまま。顔はやっぱり怒っていて。
「行くぞ」
それだけ言って、保健室に僕を連れていく。
「あら、どうしたの?」
先生が優しくそう訊いた。僕は膝の事を言おうとしたら。
「先生、こいつ熱がある」
ターボーはそう言って、僕を先生の目の前に押し出した。
「……あら、ほんとね。羽立くん、ちょっとベッドで寝ていてね。お家に連絡するから」
先生はそう言って出て行って、保健室には僕とターボー二人だけ。
「……どうして、分かったの?」
ターボーは出て行かない。静かな時間に耐えられなくて訊いてみると、ターボーはムスッとしたまま言った。
「見りゃ分かるだろ」
「そうなの?」
「……仲間、だからな」
ターボーは怒ってるけど、僕はその言葉を何度も心で繰り返す。
仲間だから。
僕、ちゃんと仲間になれたんだ。
「だから、ちゃんとしんどい時は言えよ。お前、遠慮ばっかしてるから」
ターボーはそう言って、保健室にあった絆創膏を僕の膝に貼ってくれる。ついでみたいに、先生の机にあったペンで何か描いた。
「何、これ?」
「どうみても猫だろ。いいからさっさと寝ろ」
ベッドに入ると、ターボーもベッドに座る。一人にならないように、側にいてくれる。
……ありがとう。
頭は痛くなってきて、身体もしんどいのに。
言葉には出来なかったけど、僕はとっても幸せだった。
はるき
454
ハイハイ
30
はるき
69
ゆっくり目を開けると、薄暗い天井が見える。いい匂いがして、ここが僕の家だとぼんやりと思う。
「おかあ、さん……?」
呼んでみると、出てきたのは大きな男だった。
「目、覚めたか?」
「……ターボー」
そうだ、僕はもうあの頃の子どもじゃない。今日は朝から体調が悪くて、会社には行ったものの、ターボーに捕まって家まで強制帰宅になったんだった。
思い出しながら起き上がると、くらりと目の前が回って、大きな手にがっしりと掴まれた。
「無理すんな。まだ熱があるんだから」
「ん……」
また横にされる。懐かしい思い出と同じように、今の僕も体調を崩してる。だから、あんな事を思い出したのかな……?
「ほら、たまご粥くらいなら食えるか?」
ターボーがお椀を持ってくる。いい匂いの正体はこれだったみたいだ。身体を起こしたら、一匙すくってフーフーと冷まし、僕の口に入れてくれる。
「美味しい」
「おー、もっと食え」
少しずつ様子を見るように、ターボーは僕にお粥を食べさせてくれた。ただ、ずっと表情はムスッとしてる。あの頃みたいに。
「ターボー、怒ってる?」
お粥を半分くらい食べてから、僕は意を決して訊いてみた。ターボーはしばらく口を尖らせてたけど、やがて僕の頭を強く撫でる。
「無理しすぎなんだよ、お前。自己管理くらいしっかりしろ」
「……ごめん」
社会人としてもっともな事を言われて、僕も反省する。でも、ターボーは怒ったままの顔で、それでも声は優しくて。
「お前が辛いと、俺も辛い。だから、ちゃんと俺を頼ってくれよ」
僕を心配してくれている。それが痛いほど伝わってくる。
「……さっきね、小学生の時の夢を見たよ」
そう僕が言うと、ターボーは首を傾げる。
「ん?」
「僕が熱出たの黙ってた時も、ターボーは気付いてくれたね。仲間だから」
「……そんな事も、あったっけ」
もうずっと前の記憶。それでも、それは僕には大切なもので。
「……ターボーが僕の事すぐに気がつくのって、仲間だから?」
そう訊いてみると、ターボーがようやく笑った。
「大好きな恋人だから、だろ」
ああ、やっぱり幸せだ。
頭痛は引いてきて、身体も少し軽くなってきた。もうすぐ熱も下がるだろう。
今なら言える。あの頃に置き忘れてきた言葉を。
「ターボー、ありがとう」
「どういたしまして」
ターボーに撫でられながら、僕はその心地よさにそっと目を閉じた。
コメント
1件
うわ、これ……心臓ぎゅってなった。小学生の頃の「仲間だから」っていうターボーの言葉が、大人になって「大好きな恋人だから」に変わってるの、構造としてすごく好きです。過去のエピソードが今の優しさの裏付けになってて、同じ行動なのに意味が深くなってる。ターボー、ずっと無理するタイプの主人公を見抜いて守るポジションなんだなあ。設定の積み重ね方がおしゃれでした。