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_これは、妖精発足から間もない頃の話。
所属人数がまだ4人であった頃の話だ。
魔法少女解放運動、それ自体はかなり昔からポツポツも起こっている。
脅迫まがいな魔法少女への勧誘。
魔法少女の不透明な死因や処刑理由。
遺族の元へ遺品しか返されない事実。
…細かい例を挙げたら、1時間程度じゃ収まらないくらい長々と話すことになる。
しかし、それらの運動は必ず徒労に終わる。
魔法少女という兵器に並ぶ力を有する魔女機関に対して一般市民のデモや運動が何か影響を与える訳がないからだ。
『_国家魔法少女機関に天誅を』
そんな最中に突如として発足された妖精と呼ばれる組織は、そういった魔女機関に恨みを募らせる人々にとっての光になっていた。
素性もわからぬ、たった5名の…国家叛逆を企てる、愚かなテロリストグループ。
『_魔法少女に救済を』
その全員がシスターのような姿をした、 魔法少女と同等の存在であり、その素顔は黒いベールによって隠されている。
「一部にはコアなファンがついている正体不明の集団、果たして正義か不義か…よし」
入力した文章を確認してから「修正点はありませんね」と満足そうに笑う彼は、魔法少女に関する情報を専門に扱うWebライター。
知名度が高いとはお世辞にも言えないものの、物事を俯瞰的に考え、その正鵠を射た文言に深い敬意を抱きファンになる者も多い。
基本的には先に述べたような魔法少女解放運動を行っていた者達で構成されたファン層に、彼は呆れながらも不満はなかった。
「さて、今回は…」
「貴方がこの記事を書いたWebライター?」
「…ッ、誰ですかっ!?」
書いている内容が内容なだけに、魔女機関に目をつけられる可能性も考慮して住居は一箇所にとどまらず、各地のボロボロな安アパートを転々としていた。
ボロボロの安アパートとはいえ、それなりにしっかりした防犯設備のあるアパート。
彼は、心のどこかで自分が殺されることはそう無いだろうと鷹を括っていたのだ。
「…私を殺すつもりですか?」
「あらら…もしかして、勘違いしてる?」
いつの間にか自室の扉の前に立っていたその少女は、くすくすと柔らかく笑いながら彼に少しずつ歩み寄った。
「それ以上近寄らないでください!」
「そんなに警戒しないで、私達は貴方の求める答えそのもの…今日は取引をしに来たの」
ふと、少女の素顔を覆い隠す、長くふんわりとしたベールがレースの手袋をつけた細い指によって持ち上げられる。
「あ、あなた…もしかして……!?」
彼の驚きに満ちた声に、美しい顔の少女は人の良さそうな笑みを浮かべて笑った。
そして、人間を魅了する妖精の如く魅力的で繊細なその声で言った。
「私は妖精の1人」
「ようせい……えっ、妖精…!?」
「改めましてこんばんは、ライターさん。私は、そうだなぁ…せっかくだし、今はミネちゃんって呼んでね」
突然の情報量に目を白黒させながらどうにか頷くと、自らを養成の一員でありミネちゃんと名乗るその少女は1枚の紙を手渡した。
滑らかな質の良い紙に書かれた内容は、とても簡単なことばかりだった。
妖精が集めた魔女機関の裏に隠された秘密に関する情報を、同サイトの会員限定ページにて書き記すこと。
そして、その代わりに差し出されるのが妖精に関するちょっとした情報と、衣食住…それから命の保証。
「…命」
「残念ながら、裏の情報なんて流したら向こうも黙ってはいないだろうから」
「……本当に、真実を教えてくれますか?」
「必ず、約束します」
彼は、打って変わって潤んだ瞳の中に憎悪を滲ませた顔で少女を見上げた。
「私の友人は…義務で魔法少女になりました」
まだ10にも満たない頃の事だ。
泣いて嫌がる友人を脅し、丸め込み、魔法少女なんかにして…そして……
「義務で魔法少女になってすぐ、義務で戦った悪魔達に殺されたのです…」
彼がどれだけ命を危険に晒してでもこれまでWebライターとして活動してきた理由のすべてが、そこにあった。
「国家魔法少女機関をどうするのですか」
「潰してみせる」
淀みなく言い切ったその少女の美しいアメジストのような瞳を見つめる。
数秒後、彼はその取引を受け入れた。
これが、後に妖精の5人目となる男。
魔女機関にもその名は知られているが、その姿は未知であり、誰も知らない。
情報を主に取り扱い、魔女機関の秘密を告発し続けている妖精。
執行人の1人。
その男の名を…近海の鯖、という。
閑話休題
先日の新人魔法少女とその家族の処刑事件から、世間はにわかに騒がしさを増していた。
100年ほど前に比べれば多少落ち着きはしたものの、未だネット社会である現代において、世間の声はSNSに集約される。
つまり何が言いたいかというと…
「魔女機関、マタ炎上シテル…」
ネット上でサンドバッグのように言葉で殴られている様子は何だか哀れだが、肝心の魔女機関が微塵も気にしていないようでは、こちらも哀れむだけ無駄というもの。
…散々な言われようだが、魔女機関がいなければまず最初に死んでいくのはコイツらのような、力を持たない有象無象だというのに。
「『ドッチモドッチ』…ネェ……?」
力を持っていながら、無駄に魔法少女を処刑に追い込んでいるだけの妖精と、その力を強引ではあるものの国民のためにと強制する魔女機関…果たしてどちらが正しいのだろう?
…これは本当にどっちもどっち、なの?
「……」
実際に魔法少女として感謝もせずのほほんとただ生きているだけの国民を守っている身からすると、そんな魔法少女を甘言で誘惑するだけ誘惑して、惑わされた子を保護するでもなくみすみす死なせているようでは、まるで悪魔と変わらないのでは?
…なーんていう風に思えてならない。
だからこその妖精なのか、とかなんとか皮肉のひとつやふたつを言いたくなるもの。
「無駄ナンダヨ…」
そうやってこの数100年間機能してきた。
今更、その仕組みを壊せるわけがない。
どうにもならないことに向き合ったって、それは思考停止している人と変わりない。
だって、変化を起こせないから。
何も…変えられないから。
「…ラダオクン…会イタイ」
こういう夜は無性に会いたくなる。
こんなドロドロした場所とは無縁な、平和そのもののような穏やかなあの声を聞きながら、柔らかなクッションと暖かなブランケットに身を委ねて眠りたくなる。
「……連絡シタイナ…迷惑カナ…?」
昨日が金曜じゃなければよかったのに。
そうすれば、今日もまた学校で会えたかも知れなかったのに…
「…」
休日は義務もお休みだから、何もする事がない…何となくゲームをして。何となくお昼寝をして。
「ツマンナイ…」
今日含め2日間もらだおくんに会えない…いや、月曜は魔女機関に招集がかけられているから正しくは3間日だ。
会えない期間が長すぎる…寂しい。
「ラダオクン……」
家族はいる…が、全員機関の人間だ。
俺の監視目的で出来上がった、擬似家族。
ニセモノの、上部だけの、冷たい家族。
だからこそ…幼少期の俺にとって、らだおくんがどれだけ太陽のような存在だったか。
「…」
らだおくんがいなければ、今頃すべてが嫌になってゲームのラスボスのように自分の的は全員殺す、みたいなやつになっていたかも。
それが妄想で済めばいいけど…
できちゃうんだから、恐ろしい話だ。
「キメラ、新しい力の調子はどうだ」
事実の扉が突然開いたかと思えば、姉役の若い職員が書類を手に俺を見下ろしていた。
釣り上がった目元は淡々とした性格から感じる冷たさに拍車をかけている気がする…
「……普通」
「問題がなければそれで良い。その力は解釈によって様々な使い方ができる…月曜は訓練になる。今のうちにしっかり休め」
「…ン」
キメラ。ずっと変わらない、俺の呼び名。
『変な呼び方だね』
『…コノ呼ビ方、キライ……』
『じゃあ、俺が名前をつけてあげる!』
『名前…?』
あの頃が懐かしい。
らだおくんは俺よりも「お兄さんだから」と笑って、俺の名前を考えてくれたのだ。
結局いい名前は思いつかなくて、悩みに悩んだらだおくんは、俺に好きな色を聞いた。
『色…ジャア、緑色…トカ?』
あの時、本当は緑色じゃなくて、らだおくんの綺麗な目のような鮮やかな青色が好きだと言いたかった。
『よし、それなら名前もみどりにしよう!』
『…ミドリ』
でも、あの時言ったのが緑色で良かったと今の俺は心から思っている。
大好きな色を大好きな人に名前にしてもらえた…とても、とてもとても幸せな瞬間。
『そう!みどりの好きな色が緑だから!』
『…!』
あんな、居心地の良い時間だけが永遠に続けば良かったのに…
ベッドに仰向けで寝転がったままの俺の周りにはアルミでできた四角い塊が空き缶と共にたくさん転がっている。
美しい過去との差は歴然だった。
「…」
アルミ製の空き缶を1つ手に取り、力を込めると…瞬きする間にアルミ缶が四方から圧をかけられて四角い塊になった。
脱力した手から滑り落ちた塊が床に落ちてゴトン、と鈍い音を立てる。
またひとつ、塊が増える…その様子が、自分に力を奪われる魔法少女達の姿に重なって見えた気がした。
「圧迫ノ力……俺ガ生キテイルセイデ…遺族ニ会エナイ魔法少女ガ、今モ増エ続ケテル」
この存在自体が…俺の罪の象徴だ。
目の前が揺らぎ、俺は思わず両手で顔を覆ったまま唇を噛み締めた。