テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
朝。
「神崎、おはよ。」
「……っ、お、おはよ。」
「?」
冴が首をかしげる。
「どうした?」
「いや、何でもない!」
(……名前呼ばれただけじゃん。)
昨日までなら、普通だった。
なのに。
「神崎。」
「……!」
また呼ばれる。
「な、何?」
「これ。」
冴がノートを差し出す。
「昨日のプリント。」
「あ、ありがとう。」
「どういたしまして。」
それだけ。
本当に、それだけなのに。
(……心臓うるさ。)
-–
「お前さ。」
後ろから颯太が声をかけてくる。
「朝から挙動不審すぎ。」
「してない。」
「してる。」
「してないって。」
「石川に話しかけられるたびに固まってるぞ。」
「……。」
奏斗は何も言えない。
「昨日、好きだって自覚したんだろ?」
「声大きい!」
「はいはい。」
颯太が笑う。
「恋愛初心者。」
「うるさい……。」
-–
昼休み。
「神崎、一緒に食べよ。」
「うん。」
いつものように向かい合って座る。
冴が弁当を開く。
「今日、卵焼き入ってる。」
「……。」
「どうした?」
「いや。」
「食べないの?」
「食べる。」
奏斗は卵焼きを口に入れる。
(……普通だ。)
冴と一緒に昼ご飯を食べる。
昨日までと何も変わらない。
なのに。
「神崎。」
「ん?」
「今日、なんか変。」
「……。」
「ずっと俺のこと見てる。」
「え!?」
「違った?」
「……違わない。」
「なんで?」
奏斗は答えに困る。
好きだから。
なんて言えるわけがない。
「……見たかったから。」
「?」
「……なんでもない。」
冴は少し不思議そうな顔をした。
-–
放課後。
二人で帰る。
「今日さ。」
奏斗が口を開く。
「うん。」
「俺、変だった?」
「少し。」
「やっぱり?」
「でも。」
冴は笑う。
「嫌じゃない。」
「……。」
「むしろ。」
「?」
「ちょっと嬉しい。」
奏斗の足が止まりそうになる。
「……なんで?」
「分からない。」
冴も少し照れたように笑う。
「神崎に見てもらえるの、好きだから。」
「……。」
今度こそ。
奏斗は完全に黙った。
「神崎?」
「……ちょっと待って。」
「何?」
「今、心の準備してる。」
「何の?」
「……石川の発言に慣れるための。」
「?」
冴は笑った。
「変なの。」
「誰のせいだよ……。」
-–
駅に着く。
いつもの別れ道。
「じゃあ、また明日。」
「……うん。」
冴が手を振る。
奏斗も手を振る。
そして。
少し歩いてから、奏斗は立ち止まった。
(……。)
今までと何も変わってない。
でも。
自分の気持ちを知ってしまっただけで、世界の見え方が少し変わった。
冴の声。
笑った顔。
名前を呼ばれること。
一緒に帰ること。
全部が嬉しい。
「……好きって。」
奏斗は小さく呟く。
「こんな感じなんだ。」
-–
その夜。
スマホを見る。
冴からメッセージが届いていた。
『今日は楽しかった。明日も一緒に帰ろう。』
奏斗はしばらく画面を見つめる。
そして。
『うん。楽しみにしてる。』
送信。
数秒後。
『俺も。』
返信を見た瞬間。
奏斗はベッドに倒れ込んだ。
「……無理。」
枕に顔を埋める。
「好きな人からの『俺も』、破壊力高すぎる……。」
でも。
口元は笑っていた。
-–
翌朝。
教室。
「おはよ、神崎。」
「おはよ。」
昨日までより少しだけ素直に。
奏斗は笑った。
そして心の中で思う。
――この気持ちは、もう隠さなくてもいいのかもしれない。
ただ一つ。
まだ伝える勇気だけが、足りなかった。
-–
第41話 おわり
次回・第42話「伝えたい」
ある日の帰り道。
奏斗がいつものように冴と歩いていると、冴が突然、
「神崎に、言いたいことがある。」
と言う。
「……何?」
冴が立ち止まる。
そして――
「俺、神崎のこと……」
そこで言葉が止まってしまう。
二人の距離が、今までで一番近づく。
コメント
1件
第四十一話、読みました!「好きだと気づいただけで世界が変わってしまう」感じ、すごく伝わってきました。冴くんの「俺も」に「破壊力高すぎる」ってベッドに倒れ込む奏斗くん、可愛すぎます…! 何も変わってないのに全部が特別になる、このもどかしくて温かい空気感が大好きです。次回の「伝えたい」、もう待ちきれませんね…!
P フォロバ102% 低浮上
182
りともと
449
猫下僕
47