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br視点
「…」
「どうしたの、ご機嫌ななめ?」
ベッドでスマホを見ていると、横で寝ていた女が声をかけてきた。馴れ馴れしく僕の肩に体重をかけてくる。
たった1回ヤっただけなのに恋人気分になってるみたい。
てかこの女名前なんだっけ。いやどうでもいいか、抱き心地悪かったし。
「んー?なんでもないよー」
テキトーに返しながらスマホを触る。
まぁたしかに、機嫌が悪いのはそうかもしれない。
…最近、きんときからの連絡が来ない。
この間の呼び出しだって、用事があるって断られた。いつもなら用事より僕のことを優先して来るのに。
そろそろお金に余裕がなくなってきた。
きんときはどういうつもりなのだろうか。
この関係を辞めたいって言い出すのかと思って、それを阻止するためにデートに行ってやったっていうのに。
インスタのDMもかれこれ1週間は返信がない。
フツフツとお腹の底が煮えたぎっていくような感覚がする。
「なにみてんのー?」
女が僕のスマホを覗いてくる。
勝手に覗くなクソ女。
とにかくイライラして、このイライラを抑えるためにベッドサイドに置かれたタバコに手をのばす。それと同時に女が声を上げた。
「あ、この子知ってる!」
「は?」
女の言葉に耳を疑う。
スマホに表示されてたのはきんときとのトーク画面だった。
「きんときくんだよね? 」
「そーだけど」
「ウチらの中で話題になってたよ?」
「…なんで?」
「なんか、1年の子と仲良いんでしょ?」
「1年の子…?」
僕が聞き返すと、女が自身のスマホを触った。
「なんだっけ?シャーなんとかくん。えっとー…あ、この子!」
女が出してきたのはサークルの集合写真。
指差す先には、シャークんの姿があった。
「相当仲良いみたいなんだよね。ウチの友達が先週の水曜だかに2人きりで水族館行ってるの見たってー」
「は…?」
「カップルかよって感じじゃなーい?」
先週…きんときが僕の誘いを断った日だ。
口に咥えていたタバコに火をつける。
「へぇ…」
面白いこと聞いちゃったな。
sm視点
久しぶりのバイト先。
風邪で体調を崩してしまっていたから、ここにくるのは1週間ぶりだ。
迷惑をかけてしまったお詫びとして持ってきたお菓子を片手に、店のドアを開ける。
「あ、おはようございます」
ドアを開けるなり、そう声をかけてきたのはきんときだった。
顔にはニコニコと笑顔を浮かべており、なんだかフワフワとした雰囲気を纏っている。
…珍しい。こんな元気な姿を見るのは久しぶりな気がする。
少しの疑問を抱きながら、スタッフルームへ行く。
誰もいないスタッフルーム。
店長は不在の様だから、紙袋だけ机の上に置いて、置き手紙を書いた。
コルクボードに貼られたシフト表を見る。
どうやら、今日はきんときと2人きりらしい。
今日は…たくさん喋れるだろうか。
そんなことを考えながら制服に着替える。
少しだけ、気分の高揚を感じながらドアを開けた。
「…暇だな」
「ですね」
今日は比較的客が少なく、空き時間が多かった。
やることはほとんど終わらせて、時間を持て余していた頃。
「あ、スマイルさん」
きんときが何か考えついたかのように声を上げた。
ニコニコと笑顔を浮かべるきんときに首を傾げる。
「カクテル、作ってもいいですか?」
…え?
「カクテル?」
「別にいいが…」
俺の言葉を聞いた途端、きんときはカウンターに入っていった。
急にカクテルなんてどうしたんだろうか。
…恋人に出すための練習か?それこそあのBroooockとかいう男に?
いやそんな馬鹿な…
俺が固まっている間にも、きんときはニコニコしながらカクテルを作っている。
…なんだ。この喪失感は。
先程で高揚していた気分が一気に下降していくような感覚。
きんとき。
お前は俺にとって何なんだ?
体を渦巻く感覚に疑問を抱きながら、俺は布巾を手に取った。
コンコン
「!」
スタッフルームで作業をしていると、ドアをノックされた。
「スマイルさん」
手を止めると、ドアの向こうからきんときの声が聞こえてくる。
「なんだ?」
「カクテルできたんで、飲んでくれませんか?」
(俺が…?)
きんときの言葉に少し驚きながらドアを開けると、変わらず上機嫌そうなきんときが立っていた。
「上手くできたんで」
きんときはそういうと、カウンターに入っていく。
それを追うように、俺もきんときのちょうど向かいの席に座った。
カコン、
座るなり、俺の前にグラスが置かれた。
「…これは?」
「ジュテームです。綺麗な色でしょ?」
目の前に置かれたグラスに注がれたのは、紫色のカクテル。
中に入った氷が照明に反射してキラキラと輝いていた。
「…なんでこれを?」
恋人に出すための試作品を俺が飲めってことか?
俺の質問にきんときはニコッと爽やかな笑顔を浮かべながら答えた。
「スマイルさんの目の色と一緒だから」
「っ…」
「絶対美味しいんで、飲んでください」
きんときはそういうと、俺の隣の椅子に腰掛けた。
キラキラした目で俺の顔を覗いている。
「…」
その目に押され、カクテルに口をつける。
グラスを持つ指先は少し震えていた。
「どうですか?」
「…悪くない」
「よっしゃ!」
俺の言葉にきんときは嬉しそうに笑った。
店内のラウンジミュージックが2人の間に流れる。
体に染みこんでいくかのようなこの店の雰囲気に、俺は既に飲み込まれてしまっていた。
ここで働いて3年。
ただのバイトでしかなかったこの仕事が、楽しみだと思うようになったのは、いつからだろうか。
思考を巡らせると、自身の想いと事実が、心の中で鎮座していた疑問と結びついていくような感覚がした。
…分かってしまった。
あの疑問の正体が、
俺は…
「スマイルさん、」
しばらく沈黙が続いたあと、きんときが声を出した。
「…なんだ」
「話したいことがあって、」
体が少し強張った。
前にもこのようなことがあったからだ。
震える手を隠すようにテーブルの下へ持っていく。
やがて、きんときが意を決したように声を出した。
「この前、ここにきたギザ歯の男、分かります?」
「ギザ歯…?」
Broooockという男に気を取られていたが、思い返すと確かにそんな男がいたような気がする…
頷くと、きんときは少し気まずそうに声を出した。
「シャークんっていうんですけど…その…その子と、この間、ご飯行ってきて…」
きんときの頬が紅く染まる。恥ずかしそうに髪を耳にかけた。
…なんとなく嫌な予感がした。
「その子に…こ、告白、されちゃって…」
「っ…」
「まだ返事はしてないんですけど…」
「その告白、受けてみようかなって…」
「…は?」
kn視点
言ってしまった…
いざ口に出すと、告白された事実を実感して、更にドクドクと心臓が跳ねる感覚がした。
スマイルさんの目が大きく見開かれる。
暖色の照明に照らされると、やっぱり綺麗な顔をしているな、と思った。
あの日の夜。
『え…?』
俺が聞き返す前に、シャケは俺からパッと離れた。
『…おやすみ』
シャケはそれだけ言って、来た道を走って行った。
シャケの言葉の意味が分からないほど、俺は阿呆ではない。
だからシャケの言葉を理解した途端、今までにないくらい頬に熱くなった。
シャケのことは好きだ。でもそれは後輩として。
…正直、恋愛対象としてなんて、意識したことがなかった。
「でも、シャケに告白された時も、嫌ではなかったし…俺もシャケと話すの好きだったから…」
今まで意識していなかったけど、シャケと付き合うのもありかもしれないと思った。
「…それに俺、Broooockのことで色々迷惑かけてきたじゃないですか」
「…」
「Broooockのことを吹っ切れるいい機会かもなって」
きりやんに告白されたことを伝えたら、泣いて喜んでいた。
電話越しに号泣するきりやんに、今までたくさん振り回してきたことを思い出して、ここまで悩ませてきたのかと申し訳なくなった。
「そのカクテル」
スマイルの手の中にあるカクテルを指差す。
「今までたくさん迷惑をかけてきたんで…そのお詫びです」
スマイルさんは何も喋らない。
「…そうか」
それだけ呟いて、少し俯いた。
髪に隠れて表情が読めないが、スマイルさんの顔に感情が出ないとこなんていつものことだから別に気にしない。
でも、
少しでもいいから喜んでくれてるといいな。
コメント
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物語の流れが本当に綺麗で大尊敬です 🥹💖 繋がりも違和感が全くなくて 読みやすい文章でした 💞 毎度次の展開が気になってしまって 通知が楽しみです 💓💭 今回も神作ありがとうございます 🐇🩷