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第2話「体育館」
扉をくぐった瞬間、凛太の鼻をついたのは、ワックスの匂いと、土埃。
闇に慣れていた目が、急に明るい光へ曝される。
そこは――地下なのに異常なほど広い体育館だった。
天井は見えないほど高く、照明は白色に煌々と輝いている。
バスケットゴール。跳び箱。マット。
そして床には、白いセンターラインが延びている。
「なんだ……ここ」
凛太が呟いた瞬間、スピーカーが再び鳴った。
『ステージ2へようこそ。
ルールは簡単。
“投射のトキヲ”が投げるボールに当たらず、最後の1人になること。
最後の1人になったときにだけ、出口の扉が出現します。』
直後、あちこちに散らばる影が動いた。
凛太以外の5人の参加者だった。
同じように混乱し、怯え、互いを警戒している。
「おい……あんたも来たのか」
「ああ……気づいたらここで……」
名前も知らぬまま、互いに頷き合う。
そのとき。
体育館の端、非常口の扉がゆっくりと開いた。
そこから、背の高い影が体育館に入ってくる。
● “投射のトキヲ”
身長は2メートルを超える。
体は細長く、腕だけが異様に長い。
肩から指先まで、しなるように曲がり、地面に届きそうだ。
汚れたジャージ。
笑っているのか泣いているのかわからない、無表情の面。
その手には――真っ白なボール。
そして、低い声でつぶやいた。
「……プレイ、ボール」
その瞬間、トキヲの肩がブレる。
腕が全て“鞭”のようにしなり、
轟音とともにボールが床をえぐった。
床板が抉れ、木片が飛び散る。
「なっ……!」
「避けろ!!」
五人の参加者が散り散りに走り出す。
凛太も反射的にマットの裏へ飛び込んだ。
トキヲはゆっくりとした足取りで歩き出す。
しかし腕だけは尋常ではない速度で動く。
投げられるたびに床が陥没する。
体育館の床は、既にクレーターだらけだ。
● トキヲの能力
一度、彼は床のある一点を指さした。
その瞬間。
床のその部分だけがコンクリートのように硬化した。
「硬く、する……? なんで……?」
理由はすぐにわかった。
その硬い床に向けて、トキヲは不規則に回転するボールを投げた。
ボールは大きく跳ね、物理法則を無視した軌道で曲がり、参加者の1人の顔面を直撃した。
「うあああああッ!!」
叫び声とともに、男はの頭吹っ飛び、壁に叩きつけられて動かなくなる。
体育館に、死の気配が濃く漂った。
● 凛太の逃走
「マズい……!」
凛太は跳び箱の影に隠れつつ、他の参加者の動きを観察する。
誰も協力などできない。
視線が合えば、むしろ互いに“囮”にしようと距離を取る。
トキヲは歌わない。叫ばない。しゃべらない。
ただ淡々と投げる。
また1人、肩を砕かれ、転がる。
残り3人。
凛太は別方向に走ろうとした瞬間、トキヲが真っすぐにこちらを向いた。
「……っ!」
トキヲが指で床を示す。
そこが硬化する。
そして、ボールを――
“不規則軌道”に変えた。
凛太は跳び箱の陰から飛び出す。
ボールが跳ね、壁に当たり、天井すれすれをかすめ、凛太の真横へ落ちてくる。
「ッ!!」
間一髪で転がって避けたが、腕に木片が刺さり血が滲む。
痛みよりも恐怖が勝る。
● 生き残りは二人
気づけば、他の参加者は全て倒れていた。
残るのは――凛太と、金髪の女性だけだ。
少女は震えながらも、トキヲをにらみつけて叫ぶ。
「こっちを見ろよ!!」
囮になろうとしている。
「おい、やめろ! 一緒に――」
だが少女は笑った。
涙を浮かべながら。
「いいから……走れ……!」
次の瞬間。
鈍い音と共に少女の体が後方へ吹き飛ぶ。
壁に叩きつけられ、ピクリとも動かなくなった。
「……っ、嘘だろ……」
凛太だけが残った。
● 扉の出現
トキヲは歩みを止める。
そして決まり文句のように呟く。
「……ラス……ワン」
すると、体育館の中央に、古びた鉄の扉が現れた。
「これが……次の……」
だが距離は遠い。
そしてトキヲは最後の投球の構えを見せた。
腕がゆっくり後ろへ引かれていく。
しなる。
歪む。
振り抜かれる――!
「うおおおおおッ!!」
凛太は全力で走った。
ボールの破裂音。風圧が背中を裂く。
扉まであと3歩。
足がもつれる。
「届けッ!!」
叫んで、扉へ飛び込んだ。
背後で、ボールが扉に当たり金属がひしゃげる音が響く。
だが扉は閉まり、静寂が訪れた。
真っ暗な空間に倒れ込み、凛太は荒い息を吐く。
「……次は、どこだ……」
暗闇の中、冷たい声が響く。
『ステージ3へようこそ。
どうか、戻れますように――』
・つづく