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時は第三次世界大戦。
アメリカ対ロシアの軋轢から生まれたこの核戦争。
その1番の被害者は、カナダとイギリスであった。
世界会議という建前で開かれた、アメリカ側諸国のみで集まる少数会議が終わった。
参加国は、アメリカ・日本・カナダ・ドイツ・イタリア・オーストラリア・ニュージーランド。
ほとんどの国は核反対声明により中立を保ち、自国の安全を第一に動いている。
日独伊は敗戦国という立場で、無理やり参加させられていた。
加豪NZは、情報機関・防衛・経済面で米国への依存が大きく、完全な中立を選ぶことが難しかった。
Five Eyesの中では、唯一イギリスが参加していない。たとえアメリカに怪しまれて攻撃される危険性があっても、核を支持しない姿勢は一貫していた。
「カナダ、ちょっといいかい?」
すぐ帰ろうとしたカナダに、アメリカは声をかけた。肩をびくりと震えさせるカナダ。
「な、なに…?」
カナダはイギリスから完全には独立しないでいる。イギリス国王を共通の国家元首にしており、その結びつきは強い。だからこそ、アメリカから警戒されているのだ。もっともカナダは、そのことを承知している。
カナダが怯えたように俯く。
「顔、怖いよ…」
その言葉に、アメリカは表情を変えることはなかった。昔は綺麗だった彼の青色の瞳は、濁っている。
国の化身の身体には、”国そのもの”が現れる。日に日に逞しくなって、日に日に傷が増えていくアメリカの身体に、カナダは恐怖した。
他の国も、面倒ごとに巻き込まれないようにと、そそくさと会議室を後にした。
アメリカはカナダの肩に手を置いて、不気味な笑みを浮かべて言った。
「俺の第51州になってくれよ」
カナダは珍しく、アメリカの手を振り払うと、キッとアメリカを睨みつけた。その目には涙が浮かんでいる。
アメリカは振り払われた手とカナダを、順に見つめた。
カナダは何も言うことなく、逃げるように会議室を出ようとしたが、アメリカは逃すはずもなかった。
カナダのシャツを掴み、そのまま首を掴んで押し倒した。
「う”っ」
大粒の涙を流すカナダ。しかし、アメリカを睨みつける視線は変わらなかった。
アメリカは無表情で呟いた。
「どうして逆らうんだい?君は俺の弟じゃないか、悩み事は聞いてくれよ」
カナダは首を掴まれ、顔を横に振れない。
アメリカは構わずに続ける。
「君ん家を俺の核実験場にしたいんだ。どうせ土地も有り余ってるだろ?」
カナダは涙を止められない。核の力に溺れ、抑制が効かなくなっている兄の姿を見て、何もできない己にすら絶望している。
「住民は心配するな!人口も少ないし、アメリカに移住してしまえばいい。同じ国になればビザも国籍を新しく取得する必要もないぞ」
俺にしてはかなりいい提案なんだぞ、とアメリカは笑顔になった。
カナダは息ができず、意識が飛びそうになりながらも、自分の首を絞めているアメリカの腕に爪を立てた。
「痛っ!何をするんだい、おとなしく俺の言うことを聞く君はどこへ行ったんだよ」
アメリカは悲しそうな顔をしながら、カナダの首を絞める力を一層強めた。
「ッ…!」
カナダはとうとう意識を飛ばしてしまった。
カナダが目を覚ますと、薄汚い天井が視界に入った。
手足が妙に重い。動かすと、ジャラジャラと鎖が合わさる音が部屋に響いた。
起き上がって周りを見渡すと、大量のガラクタがあった。いや、ただのガラクタなどではない。
自分とアメリカが共有してきた、思い出のガラクタだった。
(物置だ…)
カナダはそう直感した。いつの日か、アメリカが片付けられないとよく言っていた物置。
柱に縛り付けられた手足を動かそうとしたが、可動域が狭すぎて、足を捻った。
痛みに悶えながらも、カナダはなんとか逃れようと、鎖を精一杯の力で引っ張る。
しばらく年月が経ったのち、カナダは出ることを諦めた。
自分も、アメリカの思い出の一部、つまり”過去”になったのだ、と。
体は痩せ細り、アメジストのように美しい目も、白く濁った。火傷の跡が浮かび上がり、痛々しく皮膚も引き攣っている。
周りには、吐瀉物の匂いが漂い、慢性的な吐き気がカナダを襲う。
コメント
1件
うわ、重い…。国家擬人化って設定、最初は「へえ」くらいだったけど、アメリカの狂気とカナダの絶望が生々しくて息が詰まるよ。特に「思い出のガラクタ」の中に監禁されて、自分ごと過去にされる感覚が胸に刺さる。プロローグからこれだけ引き込まれるのはすごい。続き、気になるなあ。