テラーノベル
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「煌、君は……、おかしくなっちまったのか?」
「本当のことなんだよ、全部! 三周目の時に殺されて、また夏がリセットされた。 今は四周目で……、正直、もうオレだけじゃどうすりゃいいのかサッパリなんだ」
「…………夢でも見たのだろうと跳ね除けたいところだが、君がラヴェンダーのことをそこまで深く知ることのできる情報元は私くらいしかいないだろう。それにその顔……、全部が虚妄や幻という訳ではないようだしね」
オレにとって野崎は、権能という危険な不思議に巻き込んだ恨みの対象であり、それと同時に……、あまり認めたくはないが、オレを取り巻く環境への苦悩、その理解者とも言える。
世間一般でいう”友達”の関係からは随分と違う、狂った繋がり。
しかし、だからこそ頼れる相手でもある。
「それで、君を殺したっていう男のことだけど。 そいつ本人が言っていた通り、ラヴェンダーじゃあないだろうね。 背格好に口調、何もかも違う。 だけど……、緑ネオンのマスクをつけた奴なんて『少数派』の集まりで見たことがない。 恐らく『分派』の奴だろうね」
「『分派』のやつがオレに何の用なんだ?」
「『分派』。 彼らは『廃棄物』と名乗っている。 ディオの件で彼らから恨みでも買ったんだろうよ」
「『少数派』と『廃棄物』……、何が違うんだ? どちらも権能が使えるテロリスト集団だろ?」
「主義主張の違いさ、君は気にしなくていい。 下手に関わるとすぐに死ぬよ。 『少数派』は君を保護し、監視する姿勢だけど、『廃棄物』は違うみたいだからね」
オレはラヴェンダーを追っていた。
だが……、追われているのはオレの方だった。
『廃棄物』、緑のネオンマスクの男。
奴の正体を解明しなければ、仁達にも危険が及ぶ。
「分かっているのかよ? 煌、君は覚悟しなくちゃいけない。 どうせまた友人を守ろうとするんだろう? ならば最善手は友人から距離をとる事だ。 このまま大切なものを身近に置いておくと、それらが血を浴びる羽目になる。 君の血か、その男の返り血かどうかはわからないけどね。 友人から離れて、殺人を覚悟しろ。 命を狙われるというのは、そういうことだ」
この夏はもう、終わってしまった。
永遠のループに巻き込まれて、青春の夏は終わった。
それが今、はっきりと理解出来た。
「ハア、面倒なことになった。 仕方ない、私もどうにか出来ないか試行してみよう。 ラヴェンダーの権能を受けてしまった限り、その病を解毒するのはかなり何度が高い。 最悪、奴から強引に仮面を剥いで権能を解除させるしかないかもな」
「ネオンマスクの男はどうする?」
「どう仕様もない。 そいつの正体を探ろうにも情報が少なすぎる。 それにまた殺されるようなことになっても、どうせまたループするんだろう? 死なないなら痛いのくらい我慢しなよ」
「お前……、オレの話信じてないだろ!」
「くく、冗談さ、冗談。 私を無限ループなんてファンタジーに巻き込んでくれた仕返しだよ。 ネオンマスクは直々に足で探すしかないね」
「……思ったんだが、オレが殺されたあの日、あの時、あの場所。 あそこに行けば……、またネオンマスクに会えるんじゃねえか?」
「成程、確かにね。 その男と会った日がいつか憶えているのかい?」
「ああ。 あの日は確か――――、」
8月 13日 15時頃 公園
「……来ないな、本当にここで合ってるのかよ?」
「間違いねえって、暑いのはわかるけど我慢してくれよ、ここは。 そろそろここを通るはずだ」
「そう言ってもう二十分経つ。 わざわざ君だけベンチで待たずとも、こっちの木の陰にいてもいいじゃあないか」
「そうはいかないんだよ」
オレは直射日光を受けるベンチ。野崎は近くの木陰だ。
通話を繋いで、ワイヤーレスのイヤホンで会話するのはネオンマスクを油断させるためだ。
三周目のあの時、オレは奴とすれ違ったりして顔を見合ったわけではない。こちらの存在に気がついたのも、接触してきたのもあちら側からだった。
しかも、猛暑で茹でられていたオレの脳みそを信じるのであれば、奴は風と共に突如として立ち現れた。
権能だ。奴はこちらを見つけて、どんな手を使ったかわからないが、背後に寄ってきたのだ。
ならばオレがやるべきは、同じ日の同じ時間に一人でいるところを見せつけることだ。
あの日と同様に、奴の方から近づいてきてもらう。そこを野崎と共に囲んで事情聴取だ。これが最も確実な接触方法、情報取得の手口になる。
「それとラヴェンダーについてだけど、姿をくらまし続けている。 何度か『少数派』の集まりに出て探したが、どうやら8月に入ってからというもの、誰も彼を見ていないらしい」
「そっちで見つけられないなら、現状じゃこれ以上探る方法がないな……」
「…………その、気になることをひとつ聞いてもいいか? 煌がつけてるそのイヤホン、糸もないのにどうやって私の声を聞いている?」
「ワイヤレスイヤホンも知らないのか?」
「ワイヤーレス、文字通りか。 ワイヤーがあった方が良くないか? 糸がないと電話してるかどうか、傍から見ても分かり辛いし。 何より美的じゃない。 近未来的なフォルムは良いが、糸の部分は外界遮断を証明する象徴的な――――」
「おいこんな時にやめろよ。 通話してるとバレたら寄ってこなくなるかもしれないだろ、あんまり喋らせるな。 お前はそういう話になると我を忘れがちで――――、」
会話を遮るように吹き込んできたのは、あの突風だった。
反射的にベンチから立ち上がり、風の上流を向く。
そこには、あの男が立っていた。
「みぃーつけた。 神無月、煌クン」
斜め切りパッツンの黄緑色が入った前髪に、襟足を刈り上げたボブヘアの垂れ目の男。
高身長を包む、薄手のマウンテンパーカーに、下は足首までぴったり隠したランニングウェアを着用するスポーティな装い。
膨張と収縮を繰り返すピンク色の風船噛夢。
間違いない、あの日の男だ。
「なんだー、そんな目で見てくるってことは、やっぱり僕のこと探してたんだね」
「……ああ、待ってたぜあんたを」
オレが合図なんかを出す必要もなく、木陰から鉄仮面の野崎が飛び出した。
手に握った赤い斧を振りかぶって飛びかかる。
「……『そして誰もいなくなった』」
男を狙ったはずの血の斧が空を斬る。
奴は……、突風を起こして途端に消えたのだ。
「チッ、『引力』で気付かれたか……!」
「おい、本気で殺すつもりかよ!? まだ何の話も引き出してねえだろ!」
「殺すつもりはない! 槍斧は側部を使えばハンマーのような鈍器にもなるんだよ、それくらい考えているさ私は!」
「だからっていきなり権能で殴らなくたっていいだろ!」
「……仲間割れ? なんか見苦しくない?」
声の音源は背後。
あのネオンの仮面をつけて、彼はいつの間にかそこに立っていた。
「誰かと思えば……、野崎、海舟クンかな? あ、女の子だったっけ? まーいっか、二人とも一緒に見つかるなんて楽で嬉しいし」
「君……、『廃棄物』か?」
「んー、なんかそんなカンジの名前だったと思うけど、忘れちったなー」
「ふざけているのか?」
「ううん、ホントホントー。 まあいいじゃん細かいことはさ。 前座とかそういうの、鈍っちくてダルいし、さっさとやろうよ。 その為に僕のことを探してたんでしょ?」
ネオンの男はそう言って、パーカーから両指いっぱいのスーパーボールを取り出した。
「……やるよ、煌。 ぶっ叩いて仮面を剥がす。 話を聞くのはそこからだ」
「どいつもこいつもすぐ臨戦態勢……、仮面持ちってのは喧嘩っ早い奴しかいねえのかよ!」
「君もその一員のはずだろ? これを使え」
野崎は左手で仮面を引っ掻き、爪の出血で六角を描いて実体化させた。
横手でフリスビーのように投げてきたそれをすかさず受け取る。
「『爆弾作り』、打盾。 精々、その身を守ってみせろ。 まぁでも、どうせ死んでもループするんだし、そこまで気張る必要ないかもな」
「冗談言ってる場合じゃねえだろ」
「もうおしゃべりは済んだ? ボコボコにされる準備はオーケー?」
他に手があるならそうしたい。
だがこうなってしまったら……、もうやるしかない。
野崎と手を組み、ネオンの仮面を剥がす。
敵なら最悪だが、仲間となれば心強い。それが野崎だ。
こいつとなら盾ひとつだろうと上手くいく、そう思えちまうんだから不思議だ。
「仮面持ち同士の争いなんて毎日起きてる。 そこまで珍しいことじゃない。 ようこそ、煌。 我々の日常へ」
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