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黒馬たちが猛然と駆け出した。
甲板は異空間に変貌し、地平線が歪む。暗黒の闇がレースコースを縁取り、空には血のように赤い月が浮かぶ。
主は必死に黒馬の手綱を握る。馬の体温が熱い。息遣いが荒い。
(これはただのレースじゃない……試されてる)
悪夢の化身たちは騎手を飲み込もうと牙を剥く。
ウィリアムは余裕の笑みを浮かべながら、悠然と黒馬を駆る。
詩音は――笑っていた。
「ははっ、はははは! なんだこれ、楽しすぎるだろ!!」
彼女は手綱を放り投げ、ナイフを片手に前の騎手たちに襲いかかる。
薬の影響で視界がぶれ、幻が混ざるが、それがむしろ心地いい。
「おいおい、どこ行くんだよ? 先頭は私だろ?」
彼女は馬を飛び降り、前方の騎手にナイフを突き立てた。
「アハハハッ! ナイトメア・ダービーってそういうことかよ!」
騎手の体が闇に溶け、馬だけが疾走を続ける。
ウィリアムはため息をついた。
「……やれやれ、ルール無用か。」
だが、葵は笑っていた。
「ルールなんて、誰が決めたのかしら?」
彼女の指先が動く。
その瞬間、コースの地面が変化した。
巨大な白い門が出現する。
門の向こうは、騎手たちが最も見たくない”悪夢”の世界。
「さぁ、次はあなたたちの番よ。」
門が開く――
そして、それぞれの”地獄”が始まった。