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kurara
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片手が強く握り込まれている事に漸く気付いたのは、若井の声が画面越しに届いた時。
「ほんとはこんな時間に付き合わせたくないし早く寝て欲しいんだけどさ。」
開いた掌には、痛みと共に爪の跡が残っていた。
その手を見下ろしながら意味も無く握ったり開いたりして。
「でも時間が欲しかったから。元貴と話す時間。」
画面の向こうから僅かな衣擦れの音。
その音が実感させる。
この場には居なくとも、確かに彼は居るんだと。
今この瞬間だけは、”独り”ではないんだと。
現実は残酷なもので、それを実感する事で得られるのは安堵だけじゃない。
もうずっと独りにはなりきれないんだと言う事実が胸の奥を重く沈ませる。
優しい彼を付き合わせてしまうんじゃないかという恐怖。
なんて、もう随分付き合わせてしまっているだろうけど。
「…そっか。」
ベッドの上に座ったまま、返事はやっぱり上手く返せそうにない。
上辺だけの言葉でも気の利いた言葉を返せたらと思うのに。
こうも重くかさばってしまった気持ちを抱えているとそれすら上手くこなせそうにない。
「…元貴」
束の間の静寂を破ったのはやはり若井の声で。
名前を呼ばれただけで身構えるようになってしまった。
それがまた、少しばかり苦しい。
「……うん」
言葉を選んでいるのか、数秒の間があった。
知ってる。
自分の気持ちを真っ直ぐに伝える事がどれほど怖いか、どれほど勇気のいることか。
全部、痛い程に知ってしまった。
それでも、彼が逃げないことだって知っていた。
それは若井の強さか。それとも優しさ故に逃げることが出来ない弱さか。
どちらにせよ今の自分には眩し過ぎて、真っ直ぐに彼を見る事は出来ないのかもしれない。
それからまた若井の声が聞こえた。
ずっと考えてしまうのは全部若井の事で、現実に引き戻すのもいつだって若井の声。
「元貴に聞きたいこと、死ぬ程あるよ。」
覚悟していた。していたつもりの言葉を投げられて息が詰まるのは覚悟出来ていなかったからなのか。
怖いと思ってしまう。
聞きたいことの内容を勝手に想像しては胸の奥の方が痛くなる。逃げたくなる。
苦しくて重くて、呼吸ひとつ することだって容易くない。スマホを持つ手に力が入ってしまう。
返事を返す前に若井が続けた。
「言いたいことも、話したいことも、話して欲しいことも。全部ある。あるけどさ。」
「一番聞きたいのは、元貴が言いたいと思ったことだから。」
その言葉が酷く胸の内に届いた。
痛い程真っ直ぐで、苦しい程嘘のない声だったから。
「話したいこと、元貴が同じように話したいと思ってくれるまで話さないよ。」
「聞きたいことだって、元貴が聞かせたいと思うまで聞かない。」
息を吸った。無理やりにでも吸わないと、呼吸を忘れて苦しくなってしまいそうだったから。
そんな事言われたって。そんな事言われたら。
話したくない、なんて我儘だけじゃ通らなくなっちゃうじゃん。
こんなたった一言で揺らいでしまう自分が心底阿呆らしくて、同時に少し安心した。
単純な事で救われるくらいにはまだ気持ちが生きてるんだ、って。
若井の言葉で感情を動かされるこの感覚が、今はどうしてか嬉しかった。
伝える事は怖い。
こんな気持ちを素直に言葉にするなんて、もっと怖い。
それなのに。それでも。
少しだけ、話してみたいと思うのは。
「元貴が言いたいことは、聞かせたいと思った時に言えばいいよ。」
若井がどうしようもなく優しい人だと知っているから。
柔らかい声も 優しい言葉も。
全部本音で言っているんだと、分かるから。
「………うん。」
優しさで泣いてしまわないように、瞳を瞼で隠した。
一呼吸置いて目を開けた時、やっぱり少しだけ視界がぼやけたけど。
「言いたいこと、ある。」
「話したいことも、聞かせたいこともあるよ。」
綺麗なものじゃないかもしれないけど、若井に伝えたいことばっかり増えてる。
その分忘れたい事も増えて、無くしたい過去も感情も増えて。
何回もした後悔は未だ消えないしこれからまたするかもしれない。
でも、だけど。
「ちょっとだけ、付き合って。」
コメント
8件
うわ!!!こちらの作品つい先日読み返して一人で苦しくなってました笑ハピエンなの!?違うの!?って💛ちゃんバリの独り言をかましながら!続きみれて嬉しいです🥺楽しみに待ってます

うわっうわっ、うわぁぁぁぁっ!! どうなる?どうなるんだ?!ふたりは!!なんの!話を!!するんだぁぁぁ!!!! いちさんに焦らされてこっちがドキドキだわ!! 続きが気になりすぎて昼寝もできません……( ˘ω˘ ) スヤァ…
#8 読みました…🥀🤍 若井の「元貴が言いたいと思ったことだから」って言葉、すごく刺さりました。重くて苦しい気持ちを抱えながらも、それでも「ちょっとだけ付き合って」って言えた元貴の一歩が愛しくて…。優しさで泣きそうになるって、分かります。私も心がぎゅってなりました。また続きが読みたいです🌙