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エピローグ
クァンプ・ナウは超満員だった。そびえ立つスタンドからは、引っ切りなしに声援が飛んできている。
二〇一〇年十月二日、神白たちヴァルサのスタメンは、コートの中で円陣を組んでいた。
二〇〇六年のフベニールAでのルアレの決戦の後、神白は順調に上位カテゴリーへと上がっていった。トップへの昇格は一ヶ月前であり、ようやくの初出場が今日だった。
「監督の言ったとおり、オルフィノのマークはきっちりやろう。ルアレの豪華攻撃陣の中でも、何をしてくるか読めなくて一番怖い」
腕にキャプテン・マークを付けたレオンが、真面目な調子で力説した。正キャプテンが怪我で欠場しているため、この試合に限ってはレオンがキャプテンだった。
「それから今日は、イツキとユースケのデビュー戦だ。俺も鮮明に覚えているけど、やはり初めてのトップの試合に臨む緊張感は強い。だからしっかり声を出して、二人をもり立てていこう」
レオンの口調は力感が溢れているが、同時に暖かみもあった。神白は面映い心持ちで「ありがとう」と返す。
「サンキューっすレオン! 俺の目標である十代の内のトップデビューは叶わなかった! 同世代の天才たちからは一歩出遅れた感は否めないっす! だけどオレはこれからだ! 樹センパイと二人でびっちりばっちりトップ定着してやるんで、乞うご期待っす!」
二十歳になったばかりの天馬が、しかし子供丸出しな声色で叫んだ。
(なんかこいつは、一生こういう腕白キャラな予感がするよな。それが天馬の良いところなんだけどさ)
神白は一人、微笑ましい思いを胸に抱いていた。
レオンが「行くぞ(vamos)!」と轟く声で叫んだ。神白らは「おう(si)!」と声を張り上げる。
円陣を終えて、神白はゴールへとダッシュしていった。到着して振り返ると、皆、すでに配置に就いていた。神白は両足ジャンプをしつつ、集中を高めていく。
「樹ー! 頑張ってねー! 初のトップ試合で初のクリーンシート(無失点試合)! 君なら絶対にできるんだからさー!」
スタンドから溌剌とした声が飛んできた。エレナだった。復活してすぐに加入した、ヴァルセロナSC・フェメニの練習着を身につけている。
神白はエレナに顔を向け、右手で力強くガッツポーズした。
(君のおかげで、俺はここまで来れたよ。後はどこまでも上っていくだけだ。バロンドールの高みまで)
万感の思いを込めて、神白は心中でエレナに語りかけた。すぐに、ピーッ! ホイッスルが鳴り、ルアレの7番がボールを蹴った。