その日は二人ともタイミングが悪かった。傑は長期出張が終わったばかりで、私は自分の等級は低いものの1級の任務をこなして帰ってきたばかりだった。
色んなストレスの矛先が、目の前にいる恋人になってしまい言い合いになってしまったのだ。「大体なんで連絡をいれないの?1つ入れてくれれば直ぐに準備が出来たんだけど」『傑だってそう言うけど、この前飲んでくる事を連絡しなくて結局私が迎えに行ったじゃん』「っ!あれは悟が煽って飲ませるから!」『煽りに反応して対抗したのは傑じゃん。五条はちびっとしか悪くないよ』「へぇ?そうやって悟の肩を持つんだね」『なに?正しい事を言ってると思うんだけど。図星だからってそうやって浮気者みたいにしないでくれる?』喧嘩は延長戦。
2人の意見は並行のままで、激しくなってきた。『ちょっと!なんで勝手に捨てるの?!これ2回使えるんだけど!!!』「はぁ?ティーパックは1回だろう?味が薄くて飲めやしないよ」『2回飲めるし!!味が少し変わってそれが良いんだもん!!どんだけ贅沢な暮らししてんだ!田舎のばあちゃん悲しむぞ!!』「”もん”って、年齢考えなよ」売り言葉に買い言葉。まさにその状態。
傑は煽り倒してくるし、私はそれに反応してしまう。
そう考えるとアホらしくなって反応するのを止めた。「大体、ここは私が契約している部屋なんだけど?君はものを置きすぎなんだよ」『…』「はっ、図星だから何も言えないの?」図星もクソもあるか。『分かった。じゃあもう出てく』「はぁ?…君はそうやって短気だからすぐ行動するのやめた方がいいよ。後々後悔する事になる」『っ!アドバイスありがとうございます!!!!ですがもう決めたんでいいんです!!!』「急に敬語とか気持ち悪いんだけど。止めてくれる?」私は思った。
もう出てってやる。泣いて縋って帰ってきてって言われても帰ってやるもんか。『…』荷物を詰めてるけど傑は止めることもなくコーヒーを飲みながらゆっくりテレビを見ている。
なんか余裕そうでムカつく。全部荷物を持つことが出来るわけがなく、悲しいけどお別れするものは捨てることにした。ちゃんと分別をしたのであとは捨てるだけだ。『この家にある私のもの全部捨てていいから。食器も枕も全部捨てて』「はぁ?なんで私がしないといけないの。君のなんだから自分でしなよ」『…あっそ。分かったよーだ………泣いて縋っても帰ってきてやんないから!!!』「どうぞご自由に」『ばーか!!!!』そう言い家を飛び出た。
予め電話しておいた補助監督の子に迎えに来てもらい高専の職員寮へと引っ越す。少しの間だけだけれど。
荷解きしていると傑から連絡がきた。《 そのぐらいで補助監督呼ぶとか馬鹿なんじゃないの?歩きなよ。だから太るんだよ》ブロックした。
あの喧嘩から1ヶ月。
特に辛いとかは感じなくなった。
最初は1人のベッドで泣きながら愚痴を零してたけど、一人暮らしを思い出すと簡単になった。今日は廃ビルの任務があり、歩いて帰ってきていたのだが傑らしき人物を見つけた。隣にはスタイルが良くて綺麗なお姉さんが居た。
その女の人と、楽しそうに喋っている。もう怒りとか通り越して気持ち悪いとか呆れとかしか出なくなった。自分はこんな男と付き合っていたのか、と。不意に目が合い、傑がニヤリと笑う。
絶対泣かせてやる。
そうと決まれば五条に相談。
クズだが何気に優しく、仲間思いの男だ。
あと、金と権力無双してるしね。『もしもし?五条恋人いる?』「なに急に。居ないけど。あ、言っとくけどオマエは無理だよ?オマエは絶対寝相悪い」『酷い偏見。じゃなくて!私に手伝って欲しいんだけど』「はぁ?なんで僕が」
『傑に復讐するの。煽られたら煽り返す。百倍返しだ!って魂胆』「え、やだよ。面倒くさそうじゃん。てか何気に古くない?」『お願い!!私傑の悔しそうな顔見たいの!見たくないの?五条は!!あのいつもスカしてる顔を崩したくないの?!』「…ふぅん。いいよ、協力してあげる」『やりぃ!』「でもその代わり条件がある」『?なにそれ』
頼む人を間違えたかもしれない。
結果を言おう。
大成功だった。傑の目の前でいちゃいちゃして見せつけるって事をしたんだけど、傑が急に泣き出したのだ。「オマエは本当に可愛いねぇ」『悟はかっこいいよ?』「可愛いこと言うね」そう言い私の腰に手を回し引き寄せる。
正直近すぎてドキドキしたけど仕方がなかったと思う。
すっごいいい匂いするんだよ?ドキドキしないわけない。『悟のこと好きすぎて私死んじゃいそう!』
「それは困るなぁ。じゃあそんなこと言っちゃう君に!こっち向いて」『?』五条の方を向くと、顔が近づいてくる。「『!!!!』」「そうやって顔真っ赤にしちゃって。本当に可愛いんだから」そういった途端傑が泣き出した。
しかも静かに涙を流すとかじゃなくてガチなやつ。ひたすらに「ごめんね」と謝っている。流石にやりすぎたなと思い五条の方を見ると、何故か勝ち誇ったような顔をしていた。なんだろう。仕掛けた本人なのに傑が可哀想に見えてきた。「さいごの一撃かな」コソッと呟いた五条が、また近づいてきて内心バクバクしていた。やばい、まつげ長いしていうか肌綺麗だなコイツ!!「私が悪かった!だからもう辞めてくれ!」とうとうギャン泣きし出した傑を見て、流石に五条も引き気味だった。『…傑、こっち向いて』「いやだ、悟のものになった君を見たくない」『…む!か!げ!ん!無下限でギリギリしてないし、音は五条のリップ音』
「は??」「傑のその顔面白すぎて連写しちゃった。硝子に送ろ〜」「いや、でも、あの悟だぞ…?こんな機会逃すわけが「は〜いそこまで」「とりあえず!僕達のドッキリでした〜!懲りたらもうすんなよなー」『ありがとう、五条。お礼はまた今度ね』「忘れんなよな」ニカッと笑って頭をくしゃくしゃと撫でる五条は、昔と変わって少し荒いけど優しさのある手つきだった。「じゃあ、僕はこれで。ばいばーい」『ありがとねー!五条も頑張れ!』五条は振り向かず片手で手を振り返しながら進んで行った。
「僕ってば、優しすぎでしょ。…でもバカだよなぁ」
「ごめんね。もうこんなこと二度としないから。だから、もう浮気はしないで」『…浮気したのはそっちじゃん』目の前には、頭を下げた傑。
以前までの余裕そうな態度とは裏腹に、今は涙目で物凄く焦っているように見える。『私、泣いて縋っても帰って来ないって言った』「うん、だけど私には君が必要なんだ。」「帰ってきた時の君の“おかえり“が欲しい。
君が作った暖かいご飯を一緒に食べたいし、片付けも君とがいい。寝る時は君の手がないと寂しいよ。朝起きて1番に見るのは君が良いし、寝癖を治すのも君がいい。家を出る時の点検は君とだから楽しく感じる。私が任務に出る時は“行ってらっしゃい“って微笑む君が好き。全部全部、大好きなんだ。」
聞いてるこっちが恥ずかしくなってきた。
普段からあまり愛情表現を見せてこないので、あんまり干渉しないタイプなのかな、って思っていたけれど間違いだったようだ。『分かったから!もう言わないでいいから』「許してくれる?」『…約束して。二度とあんなことしないって』「!もちろん約束する。だからもう一度帰ってきて」やっぱり、傑以外を好きになるなんて難しい。
今度は私が、『ただいま』「おかえり」
って言うほうだったね。
コメント
1件
ん゙ん゙ッ(何かが開く音)