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❝ᝰꪑ病院 ❞
(は….?な、なんで、病院から?もしかして母さん?そんな深刻だったか?いや…..そんな訳…..)
『もしもし…』
蒼太(ソウタ)は震えた声で言った。
「晴矢 蒼太(ハレヤ ソウタ)さんでお間違いないでしょうか?」
『はい…….。』
「お母様……朔来(サク)さんが危篤になられました。今日が峠ですのでお越しいただいても宜しいでしょうか?」
『、、、分かりました….。はい。病院に向かいます。はい。ありがとうございました。』
(嘘だ。う、嘘だよな…..。)
危篤になられました。___
脳内で女の人の声が響く。蒼太は走り出していた。泣きながら。雨が自分の涙をかき消した。自分の涙か雨か分からないほどに。病院へ足が勝手に動いていた。ただ、出せる全力で走っていた。
(うそだ!!!!うそだ!!!!!!俺、また家族を失うのか?嫌だ。一人ぼっちはもう懲り懲りだ。………そうだ。俺は寂しかったんだ。ひとりぼっちで。学校にも馴染めなくて。勉強を頑張ったらあの頃みたいに褒めてくれるんじゃないかって思ってたから。だから頑張って来れたのにっっ!!!)
偶然にも病院までの信号に引っかかることもなく、蒼太はずっと走り続けた。
『はぁはぁ….はぁはぁ、、ぜぇぜぇ、、、』
ウィーン
蒼太は母さんのいる病室まで力を振り絞り、全速力で廊下を駆け抜けた。
バンッッ
『かぁさんっつつ!!』
「っっ?!、、そぅた….」
そこにはハンカチで目を拭っている祖母がいた。雨の中、全力で走ってビショビショに濡れた蒼太を祖母は見るなり抱き締めた。その小さく細い腕で。ぎゅっと強く。
「こんなに濡れてっっ!!!」
『ばぁーちゃん、、、、かぁさん、危篤だなんて、嘘だよな……..?』
「蒼太…….っっ!!、、蒼太…..、よく聞きなさい。貴方のお母さんは、ついさっき、本当についさっきね、、息を引き取ったのよ……。蒼太のお母さんは……、、」
『う、うそ、、、うそだ!!!!』
蒼太はうそだ、としか言えなかった。信じられなかった。信じたくなかった。自分の家族の最期に立ち会えなかっただなんて。自分の名を呼ぶかぁさんの声が頭によぎった。すると受付の人が
「御家族はお揃いになられましたでしょうか?」
「…..はい。」
と祖母が返事をした。掠れた声だった。蒼太はベットを見た。目を閉じたかぁさんの姿がそこにあった。気づけば駆け寄っていて、ベットに寝ている、かぁさんの手を握った。まだ温もりを感じられた。その手は俺が見舞いに来て触れた記憶よりもとても細かった。力を入れたら折れそうな程に。かぁさんに触れても。やがて体温を感じられなくなっても。それでも信じられなかった。信じたくなかった。でも、聞こえなかった。
鼓動が。
呼吸が。
生きているという証拠の音が。首に、手首に、、脈を確認した。何回も何十回も。
「蒼太……..」
祖母が脈をずっと確認している彼の、震えている手を掴んだ。普段の祖母からは想像もつかない程の強い力だった。
「蒼太。受け入れられない気持ちはわかる。でも、、、もう、、諦めましょう………..』
『うそだ!!!!うそだっ!!!!!!俺が!!!、、、おれが、、、咲雨と美久璃を置いていって母さんの言葉を守らなかったからか?、、自分のことしか考えていなかったからか?それともばぁちゃんに反抗したからか!!友達に八つ当たりしたからか!!勉強についていけなかったからか!!なぁ……….嘘だよな….なぁ!!!!かぁさんっ!!!!!!』
目の前にいる、かぁさんの声は聞きたくても、もう二度と聞けない。聞くことが出来ない。そう思った瞬間、その事実が現実に蒼太の中で変わった。
『うわぁぁぁあああああああああぁぁぁ』
蒼太は涙を流した。いや、泣き叫んだ。まるで小さい子供のように。祖母はただ、子供のように泣き叫ぶ彼を優しくギュッと抱きしめる事しか出来なかった。取り乱してからしばらく経ったが、誰も声を出せなかった。話をできる余裕などなかった。話し出したのは、0時をまわってからだった。最初に口を開いたのは、受付の蒼太に電話をかけた、女性だった。お取り込み中すみません。机の引き出しにお母様が書かれたと思われる、遺書がありました。内容をご確認下さい。”日々野”と名札をつけた、髪を束ねた女の人はそう言うとかぁさんの遺書を蒼太に渡した。
その手は小刻みに震えていて、頬にはツゥーと涙を流していた。手紙を、遺書を受け取った。その字は懐かしく、昔の記憶のままの綺麗で見やすいかぁさんの字だった。
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蒼太へ。
この手紙を読んでいるという事は私は亡くなったという事だね。
母さんに蒼太の面倒を頼んでいるけど、蒼太大丈夫かな?部屋で引きこもるのは、ばぁばが心配しちゃうからたまには顔を出して一緒にご飯食べてね。朝、起こしても起きないんだよ、ってばぁばに言われたよ。勉強、夜中まで頑張ってるって聞いた。蒼太、偉いね。いい子だね。でも。母さんは蒼太の体が心配だよ。蒼太はいつもギリギリまで無理するから。あとちゃんと睡眠とってる?だめだよ。成長期なんだから。身長、百八十cm欲しかったんじゃなかったの?
.._’:/..’_#**.’_~**://*_”.‘..
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(いつの話、、してんだよ….百八十cmなんて、、無理だっつぅの。)
蒼太は涙がとまらなくなって、ずっと鼻を啜っていた。看護師さんによると、最期までそーた、と息子の名を呼んでいたらしい。最後の最期で間に合わなかった、彼を。そして、最後の行を見た時、俺の手が、目が、呼吸が。止まったような気がした。
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愛してる。大好きだよ、蒼太。一人にしてしまってごめんね。寂しい思いさせて、傍にいてあげられなくて、甘えさせてあげられなくてごめんね。~~勉強、頑張れ!!かぁさんはいつでも蒼太の味方だよ。
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俺の、俺が、欲しかった言葉を。
『かぁさん、、、』
(俺は、俺は。かぁさんに寂しい思いを、させていたの….か?)
もう一度、手を握った。冷たくなって動かない手を。俺は優しく握る。
『おれも、おれも、だいすきだよ…….かぁさん。もう二度と何も言わずに部屋に引きこもるのは辞める。飯だってちゃんと食べるし、朝ちゃんと起きる。ばぁちゃんの手伝いもする。だから、、、、、だから、、目を開けてぇえー』
蒼太は自分がどれだけ甘えていたのか、理解した。どれだけ身勝手で、馬鹿だったか、甘えていたか理解した。その日、自分の母親を大切な家族を、、また失った。俺のせいで。
ーそして、忘れることの無い後悔した。ー
あとがき
どうも。作者のむらさき。です。読んで頂きありがとうございます。
もうすっかり夏ですね。今年は夏祭りや花火大会を開催する、といった地域が多いようです。皆さんは浴衣を着て誰かと花火など見たりするのでしょうか。……少し羨ましいですね、、
私は7月末に山形へ旅行に行きます。温泉が沢山ある旅館を選びました。楽しみです☺️
一度きりの今夏もたくさん思い出を作ってください。
次の主人公は美久璃です。更新は8月予定です。
お楽しみに✨️
ではまた。
23.7.22