江戸総合市場の開設以来、日本各地の商業が目覚ましく発展し始めた。特に東海道沿線や大坂など主要都市では新しい産業が芽生え始めていると聞く。一方で僕たち「双頭政府」のもとでは、新たな問題も発生していた。
「報告致します。大規模な脱税行為が横行しております」
ある晩、重臣たちを集めた会議で諜報部長から衝撃的な報告があがった。
「どの程度だ?」
家康の問いかけに彼は淡々と答える。
「少なく見積もっても百万両(約300億円相当)以上に上る可能性があります。特に米商人や繊維商を中心とするグループが組織的な手口を使っている模様です」
百万両という巨額に室内がざわつく。このまま放置すれば国益の流出はもちろん、国家財政にも深刻な影響を与えるだろう。早急に対策を講じなければいけない局面だった。
「ならば徹底的な摘発を行わねばなるまい」
秀忠がそう言うと、家康も大きく頷く。
「そうだ。だがただ逮捕するだけでは不十分だ。根本解決のために何か革新的な手法を打ち出すべきだと思うのじゃが……」
両者から視線を浴びせられ、僕は身震いした。どうやらこの案件に、僕が全面的に関わることになるらしい。
数日後。僕は市場管理官として現地調査へと赴くことになった。まずは最大の取引先である、大坂の米穀仲買人「佐平次屋」を訪ねる。
「これはこれは吉田様。お久しぶりでございますぅ」
恰幅のいい店主は愛想よく迎えてくれたが、僕は前置きなく本題に入った。
「最近の取引について詳しい資料を見せてほしい」
佐平次屋は一瞬たじろぐものの、すぐに平静を取り戻す。
「もちろんですとも。すべて御提供しましょう」
帳簿類を見せられて驚愕した。表面上はきちんと記録されているように見えるが、細部を見れば違和感が山ほどある。
「この部分……なぜこんな小さな端数だけ妙に多いのでしょうか?」
指摘すると佐平次屋の顔色が変わった。明らかに誤魔化しに入ろうとするのを感じ取った瞬間、
「逃げられませんよ」
傍らに控えていた家臣たちが素早く拘束にかかる。他の奉行所とも連携し一斉摘発へ移行した結果、複数の商家が絡む大規模な脱税ネットワークが炙り出されることとなった。
「まさか……これほど巧妙に隠蔽していたとは……」
押収した裏帳簿を前に家康と秀忠が唸る。このままでは国家存続にも関わる事態であり、厳罰が求められる状況だった。
問題解決のために考案されたのが「監査局制度」だ。各都市に専門部署を置き、企業取引の透明性を担保することにした。更に脱税者に対する罰則も大幅に強化し、違反者は重刑に処す。これらの改革によって不正はかなり減少したと見る。
しかし完全に根絶できたわけではない。水面下では別の形態に変貌した脱税が存在することは明白だった。継続的な監視体制が必要不可欠なのである。
こうした対応を通して僕は、ある種の覚悟を持ち始めていた。
『いくら規範を作っても人の欲望までは制御できない。だから常に新しい手段を考えていかなくてはいけないんだ』
それは同時に国家支配の限界を感じさせる事象でもあった。理想郷構築への道のりは遠く険しいものなのだと思い知らされた。
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