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「西高?」
おらふくんが疑問符を浮かべた。確かに彼はこの学校に入るまで関西の方に居たのだから、知らなくても仕方ないだろう。
ドズルが口を開く前に、おんりーが秘書のごとくおらふくんに説明を始める。
「西高校はこの学園と同じ能力者専門の学校なんだけど、こことは違って不良が多いことで有名なとこだよ」
「ふーん」
「所謂Fランね」
「ぼんさんには言われたくないでしょうよ」
ぼんじゅうるの付け足した言葉につい苦く笑う。
高校1年で留年した男が何を言っているのやら。じとりと目線を送る。
ドズルが入学するまで留年の事実を隠していたことを未だに根に持っているのだ。
同学年になってからはドズルが面倒を見ており、順調に学年は上がっている。だが授業は最低日数しか出ていないのだから、1歩間違えればまたやらかす可能性は大いにあった。
その思考を読み取ったかのように、ヘラと笑んだぼんじゅうるは口を閉ざす。
2人の冷戦をものともせず、おらふくんは声をあげた。
「能力者の学校って他にもあるんやね」
「関西の方には無かったの?」
「あったんかな…僕学校選ぶ前に都築学園から封書届いたから、あんまり知らんのよな」
「…へぇ」
「また特殊な…」
「え?!これも皆とちゃうの?!」
「その話はまた後でね」
「「すみません」」
おんりーの含んだ言葉に声を上げたおらふくんを諌める。話がズレていくのはよくある事だ。少し気になるところはあるものの、咳払いを1つすれば即時に四人の顔つきが変わる。
「最近西高の悪さが活発になってきてるみたいで、うちの高校も数人被害にあってるらしい
ネコおじの話では入院した子も居るみたいよ」
「俺も一瞬絡まれたわ
煙に巻いたけど」
言葉通りの意味に苦笑する。確かにぼんじゅうるの能力は逃げに適した能力だろう。
「どうにも対抗意識が強いんでしょうね
こっちは優秀な能力者排出、向こうは不良校っていうレッテルがありますし」
「で、それがどう依頼に繋がるんですか」
おんりーの淡々とした問いは、依頼の内容も理解した上で聞いているのだろう。ふ、とどこか剣呑な笑みを携えたドズルは「西高を黙らせようと思ってね」と呟いた。
―――
「パトロールかぁ…」
「僕らでどうにかなるもんですかね…」
「いやぁ…どうにかならないでしょ」
「無線もおんりーが繋げなきゃどうにもならないですしね」
「西高のヤツらに絡まれたら対抗手段持ってねーよ」
高校の近くの道、特に不良が集いそうな場所を重点的に歩く。反対側ではドズルとおおはらMEN、4人の目では届かない場所はおんりーが駆け回っている筈だ。
2人顔を見合せて苦く笑う。攻撃手段のないぼんじゅうると能力操作が苦手なおらふくんでは、西高の不良から生徒を守ることは難しいのは目に見えている。
(ペアはローテーションするとは言っとったけど、能力関係無しなんね)
対抗出来る手段を持つのは恐らく、ドズルとおんりーの2人だけだ。
おらふくんの能力は人をも傷つけてしまう可能性もある。能力操作さえ出来るようになれば、もう少し役に立つことが分っているがそれがまた難しい。
「僕の能力が対抗手段にはなりそうなんですけどね」
「…おらふくんさ、MENから貰った雪だるま持ってる?」
「いますけど、」
「それ、ずっと身につけておいた方が良いよ
能力制御装置あるないで、感覚結構変わるから
もしかしたら良い感じに西高生を撃退できるかも」
煙草に火をつけたぼんじゅうるが、まるで経験談のように実感の籠る声色で言う。彼は普段制御装置を持ち歩いていないのかもしれない。周囲へ配らせていた目をぼんじゅうるへ向けた。
「そうなんですか?」
「うん
俺能力が発動できるようになったの最近だから、能力扱えるようになるまで持ってなかったんだよね」
「最近?」
特殊な事例、という単語が頭に浮かぶ。
ぼんじゅうるも同様に、周りとは少し違う環境下だったのだろうか。ぼんじゅうるの言葉を待つように視線を投げかければ、煙を吐き出しながら言い淀むような態度で頭を搔いた。
「煙になるなんて、意識しなきゃ能力発動できないでしょ」
「確かに」
「だから能力が開花して、この学園入ろうってなった時大変だったんだよね
一般入試だから時期は遅かったけど、能力操作と制御装置のための書類提出と、勉強と願書と…」
空いた手で指折り数えるぼんじゅうるに顔を歪める。ただでさえ入学の試験1つで手一杯だったというのに、考えただけでゾッとする。
「うわぁ…僕には無理です
一般入試ってことは学園から入学の推薦の封書も来てないってことですよね」
「むしろそっちのパターンの方が珍しいのよ
うちのメンバーだとドズさんとおんりーくらいじゃない?」
「MENも一般なんですか」
「多分だけど…
まあ、あの能力はムラがあるしねぇ
封書は届かないと思うわ」
「あぁ、確かに…」
ついイヤホンを触る。
彼が学校の破棄される直前の椅子と机で作った無線の通信機と受信装置は、おんりーの電気を流さなければ使えない代物だ。所謂欠陥品と言ったところだろう。
価値が同等の物に創造できる能力は前提条件が曖昧だとおおはらMENがボヤいていたのは記憶に新しい。少なからずおらふくんには到底扱えないような能力だ。
煙化だけできるぼんじゅうると、扱いの難しい能力持ちのおおはらMENはよくこのエリート学校に入学できたことか。舌を巻いて感心する。
有能な能力のドズルとおんりーは推薦が届いてもおかしくはないが、能力制御装置を持っていない関西出身のおらふくんに封書が届いたのは甚だ疑問だった。
「ホントすごいですよ
なんで僕には封書来たんやろ…僕なんか能力も扱えないのに」
鞄の中から雪だるまがモソと飛び出して肩に乗った。自身のマイナスな感情を感じ取ったかのように頬に体を寄せる。歩き火照った体に冷たい体温が当たった。
「慰めてくれとるん?」
指で頭をつつけば、ニコリと笑んだ雪だるまに頬を緩める。その表情を見た雪だるまが嬉しさを体現するように1つ跳ねた後、フードに潜り込んだ。
「ありがとうな
頑張るわ」
くつ、と笑ったおらふくんを穏やかな表情で見ていたぼんじゅうるが頭に手を乗せる。
「学園から関西に封書行くのは結構珍しいから、気持ちはわかるけど、おらふくんは副作用も強いし適度にね」
「そう、ですね」
「まあ、気楽に行こ」
悪戯な笑みを浮かべて先に歩き出したぼんじゅうるに慌てて追いつく。大きい背中に少しだけ勢いを付けてわざとぶつかる。
「ありがとうございます」
―――
「こっちには居なさそうだね」
ドズルの言葉におおはらMENは頷いた。少し薄暗い裏路地は夏の日差しを遮り、吹き込んでくる風は少しだけひんやりとしている。少しだけ頭が冴えるような気分だ。
「毎日は居ないみたいすね」
「暴れてるっていうのも最近のことだしね
まだそこまで頻繁じゃないのかも」
ぐ、と伸びをしたドズルの数歩後を追っていたが、立ち止まったドズルが振り返った。向き合うような形になり、おおはらMENが訝しげにドズルを見る。
「そうだ、MEN」
「なんすか?」
「生き物作った副作用とかは大丈夫?」
パチ、と目を瞬かせた。創造の能力の副作用については特に話した事はなかったはずだ。おらふくんのことと言い、随分副作用に敏感らしい。
表情を変えることもなく「大丈夫です」と返答すれば、ドズルが苦い顔を一瞬浮かべた。
「なら良いけど」
「副作用、俺はそんなにないので」
一つ頷いて見せたドズルが背中を見せて歩き出す。
「そういえば今日さ、学園の窓ガラス割られてたこと知ってる?」
「話題が突然ですね」
「西高生が学園の中に入ってくることあるかなぁ」
「…どうでしょう?出来ないことはないでしょうけど」
「確証がないからなんとも言えないけど
ただ…それが西高生の仕業なら流石に看過出来ないよね」
「まあいつでも学園に乗り込める算段が着いてるのであれば、早目に対処した方が良さげすね」
周囲に目を配らせたドズルが小さく声を上げた。
向いている方向に顔を向ければ学園の生徒ではない高校生が5、6人たむろしている。2人は即座に物陰に身を隠した。
アイコンタクトで視線を交わし、頷く。あれは西高生だ。
「どうする?」
口だけを動かして問い掛けるドズルに首を横に振った。現時点でたむろしているだけの奴等を理由も無しに蹴散らせてしまえば、全面戦争待ったなしだ。ドズルもそれが分かっているのだろう。できる限りの気配を消して、また不良達を盗み見る。
ゲラゲラと大声を上げて、タバコを投げ捨て踏みにじる様は不良漫画で見るような典型的なそれだ。大通りに近い路地にたむろしている辺り、何か獲物を狙っているかも知れない。
おおはらMENは携帯を取り出し、グループのトーク画面を開いてドズルに見せる。ドズルが頷くのを確認してから簡潔に地図のURLを送った。これだけできっと他の3人は分かるだろう。
―――
ビルと言うには少し大袈裟な建物の上にオンリーは立っていた。
4人の目が届かない範囲を駆け回り続けた弊害か、僅かに指先が痺れている。走り回った割に成果は出ていないことに溜息を吐く。
浮き上がった前髪が落ちると、少しはねた横髪が頬を撫ぜた。
ヒリヒリと痛む肌を擦る。微弱な電気を長時間体に纏わせ続けたのは久しぶりだった。早く動けるのはありがたいものの、強大な電気を一瞬放つよりも副作用は直におんりーの体を蝕む。
感覚を取り戻すように手を握っては開くものの、あまり良くはならないことに舌を打ちたくなる。
ピロン、と簡素な音が鳴り携帯を確認すれば、おおはらMENがグループのトークを送っていた。トークの画面を開けばマップのURLが貼られている。確実に西高生を発見したのであろう端的な報告に、すぐに場所を確認する。
現在地から思ったより近いその場所へ行こうと再度目を閉じる。苦悶の表情を浮かべながら目を開けば、眼鏡の奥で金を纏った色の瞳が映り込む。
「急げ…!」
先程よりも肌を刺すような痛みにも気付かないふりで走り出した。