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「まだ寝るには早いし、何か映画でも観るか?」
「は、はい……」
テレビのリモコンを手にした伊織がソファーに座ったのに倣い、スマホをバッグにしまった円香も再び座る。
「何か観たいのあるか?」
「えっと、私……映画とか疎くて……オススメありますか?」
「俺もそんな詳しい方じゃねぇからなぁ……」
ネット配信されている映画一覧からどれを観ようか探す二人。
「それじゃあ、これとかどうですか?」
「恋愛ものか……」
「苦手ですか?」
「いや、まあ得意な方ではねぇな」
「そうですか……」
出来ればムードの出る恋愛ものか感動系が良いと密かに思う円香と、恋愛ものや感動系は眠くなりそうだから避けたい伊織。
二人の意見がなかなか合わず、何を観るか決まらないまま数十分が過ぎていき、
(確か、ネットにホラー映画の鑑賞は吊り橋効果が期待出来て、観終わったらお互いの仲が深まるとか……あった気がする)
「あの、それじゃあこれとかどうですか!?」
円香は偶然出て来た人気作のホラー映画を指差した。
「ホラーか。まあ俺はいいけど、お前大丈夫か? 何か苦手そうだけど」
「そ、そんな事ないですよ? 大丈夫です!」
本当は伊織の言う通りホラー映画はあまり得意じゃない円香だけど、いつまでも決まらずだらだらしてしまうよりも良いかと決断した。
二人が観始めたホラー映画は、怪奇現象などで恐怖を煽るというより、常軌を逸した人間が出て来て犯罪などを犯す、『人間の狂気』が主体のサイコホラーという部類のものだった。
年齢制限が設けられている作品ゆえ、時折残虐なシーンがあったりと恐怖よりも気分が悪くなるような内容が多々盛り込まれており、そういった事に耐性の無い円香は目を背ける事が度々あった。
そんな彼女を見た伊織は思う。普通の人間は、そういう反応だよなと。
「円香、これはお前には合わねぇと思うんだ。もう観るのは止めようぜ」
「え? あの、私なら大丈夫です。こういうのに、慣れていないだけですから」
「こんなの慣れる必要ねぇよ。もう消すぞ」
まだ何か言いたげな円香をよそに、伊織はリモコンを手に取ってテレビを消した。
円香の反応を見兼ねた事も消した理由の一つだけど、伊織自身ああいう内容は観たくないと思ってしまったのだ。
特に、円香と居る時にだけは。
「――伊織さん?」
「…………」
すぐ隣に座っていた円香を自分の方へ引き寄せた伊織は彼女を腕の中に収め、無言でギュッと抱きしめる。
「な、何か……ありました?」
「何でもねぇよ。ただ、少しだけ、こうさせろよ」
「は、はい……」
突然の事に驚いた円香が声を掛けるも何でもないと言われ、それ以上聞けなくなってしまう。
(情けねぇな、俺。何なんだろ、円香と居ると、どうにも調子狂う……)
無言の時が流れる中、伊織は自分の行動に戸惑いながら未だ動けずにいた。
不思議な事に、円香と居ると伊織は自分が任務の為に人を手に掛けている事を忘れられていた。
けれど、先程の映画で残虐なシーンを観た瞬間、これまで自分が行ってきた行為が一気にフラッシュバックしたのだ。
それと同時に、このまま自分と居ると円香にも危険が及ぶのではないかという不安が芽生えていた。
駒として使う為に付き合い始めただけのつもりだったけれど、恐らく伊織は円香をそんな風に使う事はしないだろう。
彼はもう気付いているのだ。
円香は、これまで出逢ったどの女とも違う特別な存在だという事に。
「円香」
「は、はい」
「お前が欲しい」
「!」
「今日はあんまし優しく出来ねぇかもしれねぇけど……いいか?」
「…………」
突然の台詞に一瞬戸惑いを見せた円香だったけれど、どこか不安そうな彼の表情が気になった事、そんな中でも自分を求めてくれた事が嬉しくてコクリと頷き、
「――伊織さんの、好きにしてください」
覚悟を決めて、そう口にした。
「――ッん、は……ぁッ、いおり、さん……」
場所をベッドへと移した二人は、軽いキスから始まり、すぐに重なり合う。
円香が心配していたルームウェアも下着も全て脱がされ、床に散乱している。
初めての時は優しく触れられ、撫でられた身体。
今日は伊織の余裕が無いから少し乱暴な感じがしていたけれど、それでも円香は幸せを感じていた。