テラーノベル
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スタジオの空気は、吐き気がするほど完成されていた。誰もが俺に認められようと真剣に音に向き合っている。
俺は、防音壁に囲まれた密室で、譜面台に置かれた真っ白な紙を睨みつけていた。俺の頭の中には常に旋律が鳴り響いている。しかし、今日その旋律を形作るのは、希望でも涙でもなく、もっとどろりとした、名状しがたい愛だった。
「元貴、ここのフレーズ……少し変えてみたんだけど」
背後からかけられた君の声は、いつも春の陽だまりのように柔らかいよね。藤澤涼架。彼はいつものように、人当たりの良い笑みを浮かべてキーボードの前に座り、手を鍵盤の上で踊らせている。でもさ、君のその笑顔は誰にでも向けるものなんでしょ?
俺は、振り返らず冷ややかな声で答えてみる。
「涼ちゃん止めて。それ、俺が求めてる音じゃない」
涼架の手が止まる。
「え……でも、前のセッションではこれでいいって」
「それは昨日までの俺。今は違う」
俺はゆっくりと椅子を回し、涼ちゃんを真っ直ぐに見つめる。さあ涼ちゃんはどうくるかな、俺を突き放すかな?…きっとそんなことはできないか。
「涼ちゃん。涼ちゃんは俺の音を一番理解しているはずだよね? なのに、どうしてそんな、誰にでも弾けるような音を出すの?」
涼ちゃんの頬が微かに引き攣る。俺の言葉が、鋭利な刃物となって涼ちゃんの心を削っていく。それがまた俺の心を満たすんだ。普通なら嫌われる行為。けれど、君はその痛みすら、自分に向けられた「関心」であると錯覚し、手放せずにいる。そうだよね?
「ごめん、元貴。もう一度、やり直させて」
「やり直す? 何度やったって同じ。涼ちゃんの中に『俺』が足りないんだ」
立ち上がり、涼ちゃんの背後に回る。逃げ場を奪うように、キーボードを挟んで君を包み込む。ああかわいそうに震えてる。そんな君の耳元で囁く。
「涼ちゃんの指先も、視線も、呼吸も。全部、俺の音楽のためにあるんでしょ? それなのに、どうしてそんなに怯えてるの」
指を、涼ちゃんの細い指の上に重ねる。冷たい感触に、涼ちゃんの肩が大きく震えた。
「僕がいないと、涼ちゃんは何も弾けない。空っぽの器だ。……違う?」
君は、否定できない。だって俺の作る音楽は、涼ちゃんにとっての酸素であり、呪いでしょ?俺の才能に心酔し、俺が描く世界の一部になれるなら、自分という個性が消えても構わないとさえ思っているんでしょ?
「……そうだよ。元貴。僕には、元貴しかいない」
涼架が力なく呟く。きっと俺は満足そうな顔をしてるんだろうな。俺は涼架いやいやと首を振る涼ちゃんを椅子ごと半回転させる。顎を強引に持ち上げると拒むこともできずにこちらを見つめた。
「そう。それでいい。その絶望した顔、最高に綺麗だよ、涼ちゃん。その感情を、今のフレーズに乗せて」
大丈夫。涼ちゃんならできるよ。そう言って甘く口づけをする。とろけるような目になった君の涙をぬぐって微笑みを残す。
さあ、向こうの方で俺の愛を欲してやまないもう一人の方に行ってやろうかな。後ろからの視線を感じながら、俺は席を立った。
支配end
どひゃ〜長編書き始めちゃったよ。
スミセス🍏スミと呼んで欲しい
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