あくまで個人の趣味であり、現実の事象とは一切無関係です。
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せんせーと過ごす時間が増えるにつれて新たな発見と言うのもどんどん増えてきた。例えばお風呂ではゆっくりしたい派だったり、食にはあまり興味がないことだったり。どれも彼らしいと思うことばかりだったけれど、ひとつだけ想像を上回る事もあった。俺の隣で幸せそうに眠る朝日に…いや、もう昼の光に照らされた恋人。
彼は朝が極端に弱かった。
「せんせー、もう昼になるよ?昨日も夜更かししたわけじゃないだろ。どんだけ寝れば気が済むんだ。そろそろ起きようよ」
出来るだけ優しい声を意識して話しかける。せんせーは何もない日の午前中、自ら起きることはほとんどない。けれど無理に起こされると非常にご機嫌ナナメになってしまうので極力棘のない声を出す。
少し眉間に皺を寄せたせんせーに再び起きない?と問いかけてみる。
「…んん、…な、ぃ」
「…ないかぁ」
睡眠を妨害されるのが嫌だったのかモゾモゾと頭まですっぽり布団の中に隠れてしまった。落ち着くポジションを探しているのかこんもり膨らんだ羽毛布団がうごうごとしている。
そろそろ起きそうかな。
彼が布団の中に潜り込むとそろそろ目が覚める合図だ。以前どうにか起こそうと試みた結果、大変ご機嫌を損ねてしまい起きて暫く口を聞いてくれなかった苦い経験がある。それも何度も。流石に口を聞いてもらえないのは悲しいし、嫌がることをしたい訳でもない。そこで、ある時せんせーが自然に目を覚ますまでを観察することにした。
そもそも起きてくれないので、観察するのはお昼を過ぎてからになってしまった。あとは自分ももちろん朝が弱いので早く起きる事が不可能なのも理由の一つ。買い置きの朝食と昼食はご丁寧に冷蔵庫に保存してある。やっと動きがあったのは午後2時を超えた頃。深い寝息が浅くなり険しい顔になった。起きている時には絶対に見られないような顔だなと見つめていれば、もぞもぞ布団の中に潜り込んで動かなくなってしまった。また寝てしまったのかと思っていれば、布団の中からニョキッと両腕が出てきて思い切り背伸びをしている。顔は見えないけれど、何度も大きな深呼吸を繰り返し、それが落ち着くと今度はゆっくりと布団から顔を出した。目元は両腕で隠されている。光に慣れるためなのか緩慢な動作で腕が離れていき、やっとのことでせんせーの顔が露わになった。
「おはよう」
「…んぁ、はよ…」
眉間に皺は寄っているけれど、いつもの何倍も穏やかな目覚めにホッと息を吐いた。
せんせーの観察で分かった事が幾つかあった。せんせーは食に気を遣わないのではなく、起きていないから食べていないだけである事。目覚めにスッキリと言う言葉は存在しない事。そして、せんせーを起こすには非常に根気がいる事だ。
彼の起床ルーティンを思い出していればいつの間にか大きな背伸びと深呼吸が聞こえている。ここからは何をどう手出ししても嫌がられるので、俺は今日の寝起き具合をハラハラしながら待つことしかできない。穏やかな起床を提供出来るようにどれだけ努力したって無理な日もある。曰く、起きる事が自体が嫌だからどうしようもないのだと。
「おはよう」
「は、よ……」
漸く顔が出て両腕が外れたせんせー。どうやら今日は比較的穏やかな目覚めだったらしい。
「もう昼すぎだよ。ご飯食べよう」
「ぁい」
起き抜けは思考がほとんど停止している彼のためにテーブルに食事を並べ椅子まで連れてくる。お箸を持たせてあげてやっと俺たちの食事準備は完了だ。
「いただきます」
俺に釣られ発された信じられないほど小さな「いただきます」と共に食事が開始される。もそもそご飯を食べるせんせーを眺めながら俺もご飯を口に運ぶ。その状態で味って分かっているのかな?最早何を食べているのか分かっていない可能性もある。まあそんな事はどうでもいいのだけど。目が覚めている時の食事は結構会話も弾むが思考停止中の彼は消音モードだ。食べ始めてしばらくするとエンジンがかかり始め、今日の予定などを相談する。
起こすのはとんでもなく大変だけど、寝起きから意識が覚醒するまで一切俺のことは認識していないであろう彼の目に俺が映る瞬間が好きだったりする。
「きゃめ、今日は─」
ああ、今日もやっと俺を見てくれたね。
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