テラーノベル
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僕は松野チョロ松。
六つ子の三男として生まれた。
みんな同じ環境で同じ時を過ごして育った。
二十歳を超えてもそれは変わらなかった。
ずっと変化のない日々が繰り返される。
誰も変わらない。そう思っていた。
しかし、ある日ふと、自分の胸の奥にどうしようもない「違和感」が芽生えていることに気づいた。
どういうわけか、自分は同じ六つ子である長男に恋心を抱いてしまったらしい。
おそ松兄さんと目が合うたび、息が詰まるような感覚が胸をかすめる。
そばに来るだけで、鼓動が速くなる。
声を聞くたびに、触れられるたびに、兄を好きになってしまう自分から逃げたくなった。
けれど、気づけば僕は、その想いから目を背けるどころか、どうしようもなく引き寄せられてしまっていた。
ーーー夏の昼下がりのことだった。
窓から差し込む陽の光が、淡く部屋の床を照らしていた。外では蝉が鳴きはじめ、本格的な暑さの前触れのように、空気はじんわりと温まっていた。
僕はふと、部屋のソファで寝そべっている長男の姿を見つけた。
ぐでっとしただらしない格好。
片足だけソファの背にかけていて、手は腹の上にぽんと乗っている。
その寝顔は無防備で、…どうしようもなく、愛しかった。
僕は気づかれないよう、そっと足音を忍ばせてソファの前に立つ。
目を閉じている兄に向かって、ほんの小さく、空気に紛れるほどの声で呟いてみた。
「…おそ松兄さん、すきだよ」
当然、返事なんてない。兄さんは気持ちよさそうに、微かに寝息を立てたままだった
こんなこと、きっと今しかできない。
そんな衝動に背中を押されて、僕は静かにかがみ込む。
目を閉じて、ほんの一瞬だけ――
長男の額に、そっと唇を重ねた。
軽く触れたくらいだったが、心臓が破裂しそうだった。
こんな気持ち、本当はなかったことにしたいのに。
なのに僕は、逃げるどころか、自分から落ちていってしまっていた。
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