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リリムと、最後の魔族、地下牢で二人を攫った張本人を前に、岩シールドを重ねたレオと、ヒノト、グラム、リオンの三人は、相対していた。
「人間って本当に愚か……。潰し合ってくれるならいいわよ。見物しててあげる。ね、魔王様……」
リリムは、苦い顔を浮かべて見つめていた。
「なあ、王子様よぉ。一つ、提案があんだけど」
「ふふ、奇遇だな。私も恐らく同じ考えだ……」
ボン!!
”雷鳴剣・迅雷”
ザシュ!!!
「「 まずは、本物の魔族を斬る!! 」」
その瞬間、結界魔法も何も張らず、悠長に眺めていた魔族は、ヒノトとレオの剣にぶった斬られた。
「貴様ら……人間……!! 卑怯な……!!」
「俺は王子と戦いに来たんじゃねぇ。お前を倒して、リリムを助けに来たんだ。狩られるか狩られないかの盤面で、気を抜いたのがお前の敗因だ」
「フハハ、卑怯上等……。私は国民を守る義務がある。その為には、手段もクソも無い……」
そして、改めて二人は向かい合う。
「貴様は公式戦で……と思っていたが、邪魔立てをするのであれば仕方がない。反乱分子として……処断する」
再び、レオの剣にはバチバチと雷が篭る。
(恐らく……レオのシールドはあの時の魔族の結界魔法よりも防御力が高い……。ってことは、いくら剣を当てても貫通なんて出来ない……)
”岩魔法・砲岩”
背後から、グラムの岩魔法が放たれる。
「でも俺には……仲間がいる……!!」
ボン!!
ヒノトはレオの眼前に迫る。
「何回も攻撃重ねて、お前のシールド削り取ってやる!」
バゴン!! ……キィン!!
やはり、二人の攻撃は全くレオに届かない。
レオはニタリと笑みを浮かべる。
「一人は貴族、一人は平民だが、ヒーラーも兼用する。その魔力量……お前たちでは削り取れない……!」
”水放銃魔法・水針”
シュン!!
「なら……同じ王族の魔力ならどうだ……!!」
レオは瞬時に振り向くと、剣を振り下ろす。
「王族自ら、叩き斬るだけだ……」
(この早い魔法も見切って斬り落とすのかよ……! レオはどこまで成長したんだ……!)
「お前、なんでそんな強いのにいつも偉そうなんだよ。ラグナおじちゃんも偉そうにしてねぇだろ」
ヒノトの急な言葉に、レオは固まる。
リオンも、唖然とヒノトを見つめた。
「貴様には……関係ないことだ……!」
「ラグナおじちゃんが前に言ってたんだ。自分にも同じ歳くらいの息子たちが居るって。お前たちのことだったんだろ。会えるの楽しみにしてたんだよ」
「貴様が楽しみだったかどうかなど、関係ない」
「でも、これだけは言える。偉そうで、ムカつく奴だけどお前は俺のライバルだ」
その真っ直ぐな言葉に、二人はハッとした顔を浮かべる。
「私と貴様のような愚民が……ライバルだと……? ふざけたことを言うな!!」
(あのレオが……動揺している……?)
「お前もだ!! リリム!!」
「え……?」
急に話を振られたリリムは、途端に声を上げた。
「人として生きたいのか、そうじゃねぇのか、そろそろハッキリしろよ!!」
暫くの静寂の後、リリムの瞳から涙が零れる。
「ヒノトくん……言い方……」
「リリム!! お前のせいで、ラグナおじちゃんも、父さんも、コイツだって、悩んでんだ!! 本当なら、こんな争いは要らねぇんだよ!!」
「私は……!! わた……し……は……」
その瞬間、レオは、バチバチッ!! と迫る。
キィン!!
「お前は……何の為に処断を免れた!! 何の為に勇者パーティに拾われて、何の為に人権を得たんだ!!」
レオの剣を止めながら、ヒノトは叫び続ける。
「人類を散々殺した魔王……その娘で色々感じちまうのは分かる……。でも、いつまでもお前が何も言わなかったらずっと何も変わんねぇんだ!! 変わりてぇなら、変わる努力をしろ!! そんで、人を守りたいなら、ちゃんと守りたいって言え!!」
「どうして……貴方はそこまで……!」
「俺は……勇者になりたいからだ……!!」
「私だって……」
その瞬間、レオはヒノトを押し退ける。
「クソッ……!!」
「私だって……人を守れる人になりたいわよ!!」
シン…………
リリムの眼前で、レオの剣は静止した。
全員が静寂に包まれる中、静かに、レオは剣を下ろす。
「レオ……?」
静かに立ち去ろうとするレオに、リオンは静かに声を掛けた。
「この王子、レオ・キルロンドが前に、リリム・サトゥヌシアに悪意がない言質を確認した」
そう告げると、レオは去って行ってしまった。
悔しそうな顔で、ヒノトは俯いたままだった。
リリムも、困惑したまま動かなかった。
「アイツ……分かってたんだ……。ラグナおじちゃんの想いも、リリムの想いも……。でも、王子の立場だから、処断する姿は見せないといけない。そんな中で強行して、リリムに『ちゃんと言わせる』ってことをした……」
「でも……それはヒノトくんがレオを静止してくれてなければ、処断は直ぐに遂行されていたんじゃ……?」
「アイツ……最後の剣に雷がなかった。手を抜かれてたんだ。俺がちゃんと受け止められるように……」
剣を強く握り締め、ヒノトは胸に当てる。
「今回の勇者は……アイツだ…………」
そんな中で、国王らパーティ四人と、リゲルも四人の元へと駆けて来た。
「やはり、レオの様子を見る限り、処断は免れ、リリムから言質を取らせたみたいだね……」
「ヒノト……」
ヒノトの初めて見せる打ちひしがれた様子に、リゲルも言葉を掛けられずにいた。
そんな静かな中、リリムは立ち上がり、ヒノトと向かい合った。
「アンタ……私にあそこまで言わせて……あんなに粘着質に、しつこくしつこく私に付き纏って……!!」
リリムは、話しながら涙を溢れさせていた。
「女の子を助けたのなら、最後まで、勇者らしく、かっこよく立ちなさいよ……!!」
ヒノトは、その言葉にハッとした顔を浮かべた。
「お前…………」
「一回敗けたから何!? 一回、勇者らしく出来なからって何よ!! そんなことで私のことを何度も何度も助けようとして……無責任な姿見せないでよ!!」
ヒノトは、笑顔がないまま、フラッと立ち上がる。
「リオン・キルロンド、リリム・サトゥヌシア…………」
リオンは、汗混じりにヒノトの姿を見つめた。
「俺は……勇者になる。だから、力を貸してくれ……!」
「仕方ないから貸してあげる……。アンタ、見掛けに寄らず情けないから。この、魔王の娘の本気の力で、アンタを支えてあげるわよ!!」
「リリム…………」
「だから……いつもみたいに笑いなさい……!!」
リリムは、涙ながらに、クシャッと笑って見せた。
「僕も……一応王族だ。レオに比べたら、全然弱いかも知れないが、僕でよければ力を貸そう……。どうやら、倒したい相手は同じみたいだしね……」
リリムとリオンの言葉に、ヒノトの頬には涙が零れる。
そんなヒノトの頭に、大きな手が被せられる。
「ヒノト、己の弱さを認められることも、また強さだ。今は泣け……そして必ず、お前の力になってくれる奴らを、前衛として守り抜け。その為にお前を強くしたんだ」
「父さん…………」
「ほーら、んじゃあ帰るぞー。ヒノトは置いてく。この辺は魔物が出るが、コイツは魔物との戦闘には慣れてる。一人で散々泣いたら、一人で帰って来い」
ササッと手を払い、全員を押し出し、そのまま全員で王国へと帰還してしまった。
ヒノトは一人、大きな月を天に仰ぎながら、ただただ、ただただ、泣いた。