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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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さて、シスターを探さなきゃ――と言っても、シスターの居場所には見当がついているんだけどね。


教会からそんなに離れていない昔ユーヤさんが住んでいた小さな家。


果たして私の予想通り2人はそこにいた。


私の『聖女の予見』は見事に的中。

ユーヤさんが帰ってきていたんだ。


「やっぱりここに居た」

「シ、シエラ!?」


ノックも無しにいきなり扉を開けると、少し甘い雰囲気だった2人が慌てふためいて居住まいを正すんだもの。その初々しさに噴き出しそうになっちゃった。


「準備が出来たから呼びにきたんだけど……お邪魔だったみたいね」


からかい半分でお道化てみせると、そんな私を顔を少し赤くしてむぅっと恨みがましい目で睨むシスター。


くすっ、ちょっと可愛い。


「今からシスターの誕生会を孤児院でやるんだけど、ユーヤさんも来る?」

「ん~、いや、止めておこう」


ユーヤさんは5年も留守にして孤児達の顔ぶれも変わっているだろうからと私の誘いを断った。だけど笑ってシスターを送り出すユーヤさんを見ていると、2人は静かで穏やかだけど仲睦まじいんだなと感じられた。


こんな穏やかで温かい関係を築けるシスターは、やっぱり『悪役令嬢』なんかじゃないって改めて確信した。


孤児院へ戻ると子供達が張り切ってシスターを祝ったの。


大きな子達は劇や踊りを、少し小さな子達は歌を披露したりしてね。

でも実は、これらの内容に関しては私の前世の知識を使ってあるの。


だから劇も踊りも歌も、全て元はこの世界には存在しないもの。


こういうのも知識チートって言うのかしら?


初めて見るそれらにシスターも驚いたようで、喜ぶ彼女に子供達も大はしゃぎ。


ふふふ、大成功!


誕生会は大盛況で終わり、私もやり切った感があり大変満足である。


ただ1人、リーリャの顔色がちょっと悪いのを除けば……


なんでだろう。


子供達が見世物を披露する度に、シスターがそれを見て喜ぶ度に、リーリャは少しずつ青ざめて、なんだか泣きそうになっていった。


そんなリーリャの様子にシスターが気づかない筈もない。


しゃがんでリーリャと視線を合わせたシスターはにっこり笑う。


「リーリャ、どうかしたの?」


そう言ってシスターはリーリャの頭を優しく撫でると、彼女は上目遣いでシスターを見上げながらもじもじとした。


何か迷っているみたい。


だけどリーリャは意を決したのか、背の後ろに隠していた両手をシスターの眼前に差し出した。


「あのねシスター……これ」

「リーリャ?」


リーリャの手にあったのは、シスターの瞳の色の小さな花。

それはどこにでも咲く、人から雑草扱いされる名も無き花。


「シスターにおめでとう、したくて探したの……」

「リーリャ!?」


シスターも私も驚きで目を大きく見開いた。

昼間リーリャが孤児院からいなくなった時だ!


それで全ての事情を察知できた。


孤児のリーリャはお金なんて持ってない。

小さいリーリャは町の外にも出られない。

リーリャの世界は狭い教会の敷地内だけ。


そんなリーリャが渡すことができる精一杯のプレゼント。


教会の片隅に咲く誰の目にも止まらない小さな花。


きっとリーリャは教会の敷地内を必死になって探し回ったんだ。

ただシスターに喜んで欲しくて頑張ってその花を見つけたんだ。


リーリャはこのシスターの色の花を見つけてとても嬉しかったはず。


かつて私も同じだったんだもの。

リーリャの気持ちが良く分かる。


きっと世界一輝いて見えた花だったはずよ。

これでシスターに喜んでもらえるって……


だけど、みんながシスターの為に贈る劇や踊りや歌を見て、輝いて見えた自分の贈り物がみすぼらしく感じて顔色が悪くなっていたのね。


優しいシスターにその事が分からないはずがない――


「リーリャ……貴女は……うっ……」


――だから堪らずリーリャをかき抱いて、シスターは嗚咽を漏らした。


「シスター……泣いてるの?」


自分を抱き締め涙を流すシスターに彼女を喜ばせたかったリーリャは困惑してしまった。


「ごめんなさいシスター……ぐすっ、わたしこんなのしか渡せなくて……ヒック……ごめんなさい……」


リーリャは泣き出してしまった。


自分がシスターを悲しませたんだと勘違いしたリーリャは泣きに泣いた。


「違うのよリーリャ、違うの……ごめんなさいリーリャ」


リーリャの額に愛おしそうに唇を落とす。


そのシスターの表情は涙に濡れていたけれど、とっても優しく、とっても温かい笑顔だった。


「リーリャの花がね……リーリャの気持ちがね……とっても嬉しかったのよ」

「ホント?」


シスターはもう一度リーリャの頭にキスをして彼女を強く抱き締めた。


「ええ……本当。ありがとうリーリャ……本当にありがとう……」


リーリャもシスターに縋って泣いた……


さすがにこの2人の邪魔をしちゃいけないわよね。


もうお開きよと、泣きながら抱き合う2人の姿に戸惑う子供達を部屋へと追いやって、私もそっと孤児院を後にした。


「あ~あ、今日は久々にシスターと一緒に寝ようと思ったんだけどなぁ」


私じゃリーリャには敵わないや。


「負けた私は大人しく引き上げるとしましょうか」


リーリャにシスターを取られてしまったけど、まあこれでいいよね?

だって、私の胸は不思議と幸せな気分で満たされているんだもの……



私は転生して『ヒロイン』になりました。


この辺境は乙女ゲームのような華やかな舞台ではありません。


それでもここには、たくさんたくさん愛情があって、いっぱいいっぱい笑顔があります。


ここは冬の暖を取るのも大変な貧しい辺境の地です。

ですが、いつも何にも勝る温かい心で溢れています。


日々の糧を得るのに大変な苦労を必要としています。

ですが、いつも胸の中は優しさで満たされています。


ここは乙女ゲームの世界なのかもしれません。

だけど私はもう『ヒロイン』ではありません。


だから、乙女ゲームのきらびやかな舞台には上がれません。

これからも私はこの貧しい辺境で生きていくと決めました。



それでも私達は今日も幸せです――

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