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結婚式が終わって1週間、ここへきて紗理奈は驚くことの連続だった、直哉はどうやらこの結婚生活を楽しんでいるようなのだ
毎日仕事が終わると遊びに出かけ、休日は社交に明け暮れて、息つく暇もないほどせわしなく多忙な日常の、ペースを保っていた男性が、今では紗理奈と家で静かに夜を過ごす事を望んだ
毎晩アリスやお福夫婦達と母屋でワイワイ食事をし、応接室でしばらく団欒をしてから、各々自分の自室に下がる
今は直哉の部屋でナイトドレスに身を包み、二人でAmazonで買ったキャンドルの炎が、揺れてるいように見えるライトを照らして、ベッドに寝転んでチェスをしていた
シャワーを浴びた彼は、いつも上半身裸で眠る、紗理奈にとってボディソープの良い匂いをさせる、温かい彼はとても心地よい抱き枕になる、もうこれが無ければ眠れないような気さえする
「クイーンよ!」
「クイーンはそこに置けないはずだ」
「バレたか」
紗理奈がペロッと舌を出して、クイーンの駒を持っていたずらっぽく笑う、その笑顔が直哉の心を温かくする
なんとも不思議な気分だった、そこに彼女がいて、自分がいる・・・・今ではどちらも欠けてはいけないような気がする
しかし紗理奈はそんな直哉の気持ちも知らず、遠慮がちに言った
「私に遠慮せずに、夜出かけたいなら行ってくださってもいいのよ?土曜日の町内会の集まりも、日曜のヨット大会のお誘いも・・・もしあなたが私に遠慮して、他の人と楽しく過ごす機会を断っているなら、いつも通りにふるまってくださって―」
「紗理奈」
直哉はチェス盤を挟んで身を乗り出し、紗理奈に口づけで彼女のおしゃべりを止めた
「俺はこの数年間ほとんど毎晩出かけて、大勢の仲間の中で孤独を感じていた、ようやく家庭と嫁さんを持つことが出来たんだよ?家でゆっくりしたいんだよ 」
「ナオ・・・・ 」
キャンドルの灯りがゆらゆらと、彼女の顔をオレンジ色に照らす、直哉は手を差し伸べて彼女の頬を撫でる
「もし君が出かけたいなら、どこにでも連れて行ってあげる、だが俺自身は家にいるほうがいいんだ」
「あなたは・・・退屈してないの?」
フッと彼は笑った
「俺は君のせいで従順な夫になりつつあるらしい」
ニヤニヤ笑って直哉が言った
「まったく・・・・あなたはマルちゃんに、とても甘い父親になると思うわ」
「ああ・・俺は息子に最高の物を与えるだろうな、甘やかし尽くして、最高の学校に送り込み、海外留学の旅から帰ったら成宮牧場を継がせる」
「女の子だったらどうするの?」
「そうしたら彼女がここを継げばいいさ」
クスクス・・・「女の子にそんなことできないわ」
「俺の娘なら出来るよ」
ゴロンッと紗理奈の膝枕に頭を乗せて、目を閉じ夢見る彼を見つめると胸が熱くなる
彼と結婚してよかった、それは本当に心から思う、紗理奈が綿棒を持って直哉の耳掃除を始めた
「あ~~~・・・気持ちいい、あ~~・・・あ~・・そこそこ・・・反対もして! 」
クスクス・・・「騒がないでじっとして」
「子供が大きくなって、牧場を任せたらあなたはどうするの?」
「う~ん・・・その時は君と世界一周でもしようかな?」
直哉が目を閉じて気持ちよさそうに、紗理奈の耳かきに終始手足をピクピクさせた
紗理奈は彼の言葉を半信半疑で聞いていた
当然彼は子供を溺愛するだろう、今でも目に見えてあきらかだ
この子が出来たから彼は結婚すると言った、では生まれたらその後は?・・・・
きっと彼はこの子に夢中になって、私には興味を無くすかもしれない・・・
そう思うと少し紗理奈は悲しくなった
..:。:.::.*゜:.
「お顔の色がすぐれませんね~~すこしお休みになられたらいかがですか?今度の定期検診はいつでしたかね?」
お福が心配顔で紗理奈を見る、実はここ数日なんだか具合が悪い
つわりの具合の悪さではなく、何となく生理痛のような痛みで下腹部がしくしく痛む
「う~ん・・・今朝は少し頭痛がするの・・・頭痛もつわりの一種だってお医者様が言ってたから、どうしても酷かったら処方してもらっているお薬を飲むわ」
クス・・・
「今日は母屋は夕方まで静かですから、ゆっくりなさってはいかがですか?」
「アリスさんと子供達は映画に行くのよね?ナオは?お昼に帰ってこないかしら?」
お福が温かいルイボスティーのお代わりを、紗理奈のカップに注いで言った
「お坊ちゃまが帰ってきても、何もしなくていいんですよ、奥様はお休みください、頭痛なら水分を沢山とってぐっすりお昼寝して下さい」
紗理奈はニッコリ笑ってお福に感謝した
いつも忙しかった紗理奈の母親は、紗理奈が具合が悪いと言うとめんどくさそうに、熱が無かったら大したことが無いと、よく言われたものだ
なので小さな頃から具合が悪くなると、自分で薬を飲んだり、我慢したりした、末っ子なんてそんなものだと思っていたので、強がって大丈夫なフリをする癖がついていた
紗理奈にとってこんなに愛情深く、自分の体調の事を心配してくれて、こんなに甘えてあれこれ言える存在がいるなんて、本当に幸せだと思った
何だか聞いてもらっただけで、少し具合が良くなったような気もした、病は気からとはよく言ったものだ
そこでまた大砲のようにドカー―――ンと、勝手口が開き、奇襲兵のようなアリスの所の四人組が飛び込んで来た
紗理奈とお福は笑った
..:。:.::.*゜:.
うわぁ~~~~ん!「僕のDSのカセットォ~~~!」
アリスが夏休みの子供映画祭りに、子供達を連れて行こうと車に乗せた所で、騒ぎが始まった
「もう~~~~!だから前日に用意しなさいっていつも言ってるでしょ!」
サングラスをかけて大きなマザーズバッグを、トランクに入れたアリスが、今や彼女の愛車アルファードの運転席に座り、エンジンをかけた所で後部座席の優斗が泣き出した
「一日ぐらいゲームできなくても我慢しなよ!優斗」
真ん中に座っている佐奈が、後ろに向かってキレて叫ぶ
うわぁ~~~ん「DS~~~~~(泣)」
「うるさ~~~い」
「優斗を置いて行け!」
正斗も切れて叫ぶ
「瑠奈!多分二階の優斗の部屋だから取ってきて!」
アリスが助手席に乗っている瑠奈に言う
「え~~~~!嫌だよ!もうシートベルトしたもん!」
瑠奈が脚をバタバタして抗議する!
「あ~~!あたしが取りに行ってくるから、みんな乗ってて!」
そこに駐車場まで見送りに来ていた、紗理奈がアリスに言った
「ダメよ!サリーはお腹に赤ちゃんがいるのよ!瑠奈!あなたお姉ちゃんでしょ!取って来なさい! 」
「めんどくさぁ~~~~」
「いいって!いいって!本当にすぐ取ってくるからみんな車に乗ってて」
「ごめんね・・・サリー・・本当に大丈夫?」
「すぐ取ってくるから待っててね~~~」
パタパタ紗理奈は北斗邸の玄関に上がり、トントンッ階段をかけ上がって行く
ズキッ!「痛っ・・・」
階段を上がっている所で突然、下腹部に刺すような痛みが走った
「・・・つ~~~~・・・ 」
紗理奈は思わず階段を上るのをやめてうずくまった、何だか下腹部がギュッと絞られる、紗理奈は浅く呼吸した
しばらく階段に座っていたら、痛みはスッと引いていった、ふ~・・・と大きく深呼吸した・・・・
痛みが無くなったので、優斗の部屋に入り、DSのカセットを見つけ、あわてて小走りでアリスのアルファードに戻った
「は~い!優斗君!お待たせ!これでしょ!」
「これぇ~~~ 」
優斗は大喜びだ、これでアリス達が出発できる紗理奈は安堵した
「ありがとう・・・って・・・サリー・・・顔色が悪いわよ?大丈夫? 」
「まっしろだよぉ~~~サリー?」
アリスと瑠奈が、運転席から心配そうに紗理奈を覗き込む
あはははっ「いやぁ~ねぇ~・・・顔色の悪いのはいつものことよぉ~、私も少しは日焼けしなくちゃダメね 」
心配するアリスをなんとか笑って誤魔化して、みんなを見送ってから、ヨロヨロと紗理奈は自分の部屋へ行ってベッドに横になった
ボンッとベッドにダイビングしたのと、同時に意識を無くすように深い睡眠に入った