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初コメ,失礼しますっ! めちゃくちゃいい!詩的でいい! 完全度タイプです! 次のお話待ってます!
お題:『一番』『愛の重さ』
・捏造あり
・解釈違い
・誤字脱字
・モブが出ます
・冴も凛もスペインの同じチームでサッカーしてます
・冴も凛も激重感情を持ってます
・和解済みです
・思いつきで書いているので設定ガバガバです
・3000字程度の短編です
・以上が大丈夫な方のみご覧になってください
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望んでない、いらない
お前が一番だなんて言葉ちっとも
『響かない』
カランとグラスの中の氷が響いた。どこかで聞いたような落ち着いた音色のクラシックと温かみのある薄暗いオレンジ色の照明。そんな店内には成人済みの美しい男が独り、寂しげに佇んでいた。
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新人も兄ちゃんも俺も全部くぢゃぐちゃにしたかった、ただそれだけだった。
最近入ってきた日本人のFW、まだ全然英語もスペイン語も話せなくて日本に居たときよりも格段にレベルが上がった練習にも苦戦している、そんな奴。それが妙に自分の姿と重なった。英語は話せたけれどやはり主にスペイン語が使われるため夜な夜な勉強した日々、日本のレベルの低さに驚いて焦って、何度も無茶な練習をしていた頃を思い出させる光景が広がっていた。だからたぶん兄ちゃんもそうだったんだと思う。
いつもより世話を焼いてるなと思ったのは俺だけじゃなかったらしく、チームメイトたちも兄ちゃんに向かって「なんだ、お気に入りか?」とからかっていた。案の定新人は兄ちゃんに懐いて、兄ちゃんも可愛がっている。
初めのうちは許容できていたそれが許せなくなったのはいつからだったか、少なくとも最近とは言えないだろう。MFの兄ちゃんと新人のFWが合わせられるようにとペアでの練習が増えていくにつれ増していく不快感は吐き出せないのに日々は過ぎていく、兄ちゃんからの俺への怒声と新人への称賛、気遣う態度の落差に吐き気が増していくばかりだった。
必死に練習して練習して家では泥のように眠る、オフの日は自室に籠もって泣いた。『辛い』『苦しい』『寂しい』『悲しい』きっとどれもが当てはまっていてどれもが当てはまっていなかった。ただこっちを見てとも言えず呼びかけようとすれば喉に何がが詰まったように音にはならず諦めた。わかっている、兄ちゃんは優しいから気にかけているだけだって、でもまた昔のように捨てられるんじゃないかって、あっちの方がいいって言うんじゃないかって思ったら手が震えて視界がぼやける。俺がどれだけ辛くたって苦しくたって結局、兄ちゃんも新人も何も悪くない、勝手に俺が見捨てられた気になっているだけ、悪いのは俺、だから誰も責められない、感情を吐き出せない、でもそんなもの全部どうでもいはずで、 全部くだらないはずなんだ、だってそもそも兄ちゃんは俺のものでもなんでもないし、兄ちゃんが誰と仲良くしてようが俺には関係ない、だから 俺の中の弱い部分が兄ちゃんを取らないでと叫び続けているのはおかしなことなんだ。
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新人が来て一ヶ月が経った頃。
「凛、顔色やばいぞ」
チームメイト達は揃ってこう言った。俺も鏡で確認したが自分が健康なときの顔色なんて覚えていないし、顔色が悪いとしてもだからなんだって話で、それで練習を休むわけでもないし、兄ちゃんが心配してくれる訳でもない、だから全部どうでもよかった。今はただ、少しでも兄ちゃんに振り向いてもらえるように練習がしたかった。
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その日の練習はミニゲームが多かった。兄ちゃんと俺は同じチームになることが多くて失敗しませんように、ただそれだけを考えた。込み上げてくる吐き気を無理矢理飲み込んで痛む頭で必死に考えてふらつく体に叱責して走り続けたけれど意味がなかったらしい。
「新人と代われ、お前がいても邪魔、いない方がましだから」
兄ちゃんはいつもの無表情と、冷たい目ではっきりとこう言った。
その言葉を理解した瞬間、ぎりぎり表面張力で耐えていたものが溢れ出した、つまりはもう限界だった。
俺は何も言わずにチームメイト達に背を向けて走った。何も持たずに全速力で家に帰った。
自室でいつものように泣いて、泣いて、泣いて、そしてふとBARに行こうと思った。なんでそう思ったかはわからない、少しでも兄ちゃんから離れたくて、 酔ってしまえば全て忘れられる気がした。
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もともと酒に強い訳でもないのに度数の高い酒ばかりを頼んで呑んだ、頭がぼーっとして全部どうでもよくなる感じが張り詰めていた心を救ってくれた。
「だいぶ呑んでいるけど悲しいことでもあった?」
断りもなしに隣に座ってきた男は吐き気がするほど甘い声で俺に話しかけてきた。その男はいかにもチャラそうで普段の俺だったら睨みつけていただろうけど、今日の俺はそんな気分でもなかった。だから、話を聞くよと言った男にぽつりぽつりと話し始めてしまったんだと思う。
その男は意外にも優しく話を聞いてくれて、心地よかった。
「じゃあさ、そんな男はやめて俺にしない?」
だから、そう言われたときに頷いてしまった。普段ならありえないけれどそのときの俺は酔っていたし、なにより『愛』に飢えていた。愛してくれるなら誰でもよかった。
「……なんで、俺なの?」
「可愛いこと聞くね」
「こたえろ」
「うーん、君が一番綺麗だったからかな」
その応えに俺は落胆した。
「おまえじゃない」
「え?」
一番綺麗だなんて俺には似合わないし、一番というのも気に入らない。だって一番が居るということは二番が居て、他のやつがもっと綺麗になったら俺は降格するってことだろ?つまり、俺以外にも愛してるやつが居て、別に俺じゃなくてもいいってこと。俺は知っている、今まで一番にしていてくれても、新しいやつが来たらすぐそっちに行くんだ。……どうせこの男も兄ちゃんもそうなんだ。
「俺がいいなら、今すぐ、俺だけを愛してるって誓え」
「は?おも、めんどくさ」
そう言ってそそくさと男は離れてった。
「……やっぱ無理なんだろ」
「まぁ、無理だろうな、お前重いし」
「……わかってる」
「でも俺なら誓ってやれる」
「そっか……ん?」
もう、あの男はいない、じゃあ俺は誰と話してる?机に伏せていた顔を勢いよく上げて振り返ると、そこには見慣れた姿があった。
「凛」
「……兄ちゃん?」
「帰るぞ」
「……いやだ」
こんなところに兄ちゃんが居るのは意外だけれど、帰る気にはならない。どうせ帰ったらまた惨めな思いをするだけだ。
「愛してる、だから帰ろう、凛」
「じゃあなんで、いない方がいいって言ったの?なんで新人ばっか褒めるの……?」
不満だらけの俺には最愛の人からの愛してるすらも響かなくて、酒の勢いで言うつもりのない秘めていた思いすら吐き出した。
「あ?あんときお前、本調子じゃなかっただろ、それで体壊されたくなかったから下げただけだ。それに新人はどうでもいいが監督に見てるよう言われたからな、適当に褒めてたけど、お前には本気だったから怒った」
目を瞬く、酒が入った頭は回転が遅くて困る。今兄ちゃんはなんと言っていた?よく喋る兄ちゃんに驚いて話が全然頭に入ってこなかったけれどこれだけはわかる。
「じゃあ、今は俺が一番ってこと?」
「さっきから何言ってんだ?一番もなにもねぇよ。お前だけだっていつも言ってんだろ」
「……え?」
聞いてない、聞いたことないよ兄ちゃん。
「だからこんなとこもう二度と来んな」
そんな言葉聞いて兄ちゃんなりに心配してくれたんだなって思ったら嬉しくて恥ずかしくて泣いた。これはきっと酒で涙腺が緩んだせいだと言い訳をして。
「俺がここまですんのはお前だけだ」
それで腑に落ちた。きっと俺は『俺だけだ』ってずっと言ってほしかった。一番とか二番とかそんな、いくらでも代わりが居るような愛され方より、俺だけに全ての愛を注いでほしかったんだ。
重いかな?でもきっと兄ちゃんなら受け止めてくれるよね?
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重いな、凛。でもそうさせたのが俺ってこと忘れんなよ。お前はもう俺以外に愛されても満足できない、俺は外壁から埋めていく派なんだ、逃げられると思うなよ、凛。
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以上です!
閲覧ありがとうございました