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stpr brfr 橙赤 様
誤字脱字注意
日本語おかしい
最初は、たった一件だった。
『最近こいつ調子乗ってない?』
ユエルは、そのコメントを見ても何も思わなかった。
歌い手をやっている以上、好意的な言葉だけが届くわけではない。
自分たちの活動を好きになってくれる人がいる一方で、嫌いだと思う人もいる。
それは仕方のないことだ。
そう思っていた。
『歌下手』
『リーダー向いてない』
『さっさと辞めれば?』
少しずつ増えていく言葉にも、ユエルは耐えた。
配信中なら笑って流した。
メンバーの前なら、いつも通りに振る舞った。
SNSを見なければいい。
ブロックすればいい。
そう言われることも分かっていた。
だから、最初は本当に気にしていなかった。
――そう、思っていた。
けれど。
『死ねよ』
その一言を見た瞬間。
指が止まった。
「……」
画面を閉じる。
たったそれだけのことなのに、胸の奥が嫌な音を立てた気がした。
息が浅くなる。
大丈夫。
ただのアンチだ。
顔も知らない誰かが書いた言葉。
そんなもの、気にする必要なんてない。
「……大丈夫」
誰もいない部屋で呟いた。
それからスマホを机の上に置いた。
けれど。
その日の夜、眠る前にも、その言葉が頭から離れなかった。
――死ねよ。
翌日。
また届いた。
『まだ活動してんの?』
『いつまでいるの?』
『ほんと邪魔』
『グループの足引っ張ってるの気づいてる?』
『リーダーやめろ』
そして。
『死ね』
『消えろ』
『お前なんか必要ない』
「……っ」
ユエルはスマホを伏せた。
見なければいい。
そう思っているのに。
気づけば、また開いている。
怖いもの見たさなのか。
それとも。
本当に自分がそう思われているのか、確かめたくなっているのか。
分からない。
ただ、画面を閉じても言葉だけが残った。
仕事をしていても。
歌っていても。
眠ろうとしても。
ずっと。
頭の中で繰り返される。
『死ねよ』
「……俺、そんなに……」
ぽつりと呟く。
「……邪魔なのかな」
もちろん、そんなことはない。
メンバーはユエルを信頼している。
ファンから届く応援の言葉もたくさんある。
分かっている。
分かっているのに。
一度心に刺さった言葉は、簡単には抜けてくれなかった。
そして何より。
ユエルは、自分を責める癖があった。
自分がもっと上手ければ。
自分がもっと頑張れば。
自分がもっとちゃんとしていれば。
アンチに何を言われても、平気でいられたのではないか。
そんなふうに考えてしまう。
「……俺が悪いのかな」
その声は、自分でも驚くほど弱かった。
数日後。
くには、ユエルの異変に気づいていた。
「ユエルくん」
「ん?」
「最近、寝てる?」
「寝てるよ」
「ご飯は?」
「食べてる」
「ほんと?」
「ほんと」
笑う。
いつものユエルだ。
けれど。
くには知っている。
ユエルが本当に大丈夫なときは、こんなふうに笑わない。
笑っているのに、目が笑っていない。
以前なら自然に向けてくれた視線も少ない。
メッセージの返信も短くなった。
そして何より。
以前は仕事が終われば「くにくん、今どこ?」と連絡してくれたのに。
最近は、それすらなくなった。
だから、くにはずっと悩んでいた。
自分は恋人なのに。
ユエルは自分を頼ってくれない。
何かあったとき、一番に頼ってほしい。
甘えてほしい。
弱いところを見せてほしい。
でも、無理に聞き出すこともしたくない。
そんな葛藤を抱えたまま。
その夜。
くにはユエルが一人で会社に残っていることを知った。
「……またか」
時計を見る。
もう日付が変わろうとしている。
くには、静かにユエルのいる部屋へ向かった。
ドアの前で足を止める。
中から、物音がする。
「……っ」
何かを押し殺すような声。
「……大丈夫」
ユエルの声だった。
「大丈夫だから……」
くには眉を寄せた。
そして。
「ユエルくん」
ノックする。
中から返事はない。
「入るよ」
ドアを開ける。
そこにいたユエルは、パソコンの前に座っていた。
「……くにくん」
「こんばんは」
「……なんでいるの?」
「ユエルくんがまだいるって聞いたから」
「そっか」
ユエルは笑った。
その顔を見た瞬間。
くには胸が痛くなった。
目が赤い。
明らかに泣いた跡がある。
「……泣いた?」
「泣いてない」
「ユエルくん」
「泣いてないって」
少し強い声。
けれど、その声は震えていた。
くにはユエルのところまで歩いていく。
「何があったの?」
「何もない」
「本当に?」
「うん」
「俺に言えない?」
「……」
「言いたくないなら、言わなくていい」
くにはしゃがんで、ユエルと目線を合わせた。
「でも、俺はここにいるよ」
「……」
「話したくなるまで待つから」
その言葉を聞いた瞬間。
ユエルの目から、ぽろっと涙が落ちた。
「……あ」
本人が一番驚いたように目を見開く。
「……ごめん」
「謝らなくていい」
「ごめ……」
「謝らなくていいよ」
もう一粒。
また涙が落ちた。
「……なんで」
「うん?」
「なんで、止まらない……」
ユエルは慌てて目元を拭った。
けれど、拭っても拭っても涙が出てくる。
「……ごめん、ごめんね」
「ユエルくん」
「俺……最近、変だよね」
「変じゃない」
「だって……」
声が震える。
「ちゃんとしなきゃって思ってるのに……」
「うん」
「なんか、ずっと苦しくて……」
くには黙って聞いた。
「寝ても……頭の中に残ってて」
「何が?」
「……言葉」
「……」
「死ねって」
ユエルの声が掠れた。
「消えろって……いらないって……」
くにの表情が変わる。
けれど、怒りをユエルに向けることはしない。
ただ、優しく尋ねる。
「アンチ?」
ユエルは小さく頷いた。
「……最初は平気だった」
「うん」
「こんなの気にしちゃダメだって……思ってた」
「うん」
「でも……毎日来て……」
涙がまた溢れる。
「配信終わったら見るのが怖くなって」
「……」
「通知が鳴るだけで怖くて……」
「うん」
「でも、見ないと何か言われてるか分からなくて……」
ユエルの呼吸が乱れていく。
「俺が悪いのかなって……」
「違うよ」
「でも……」
「違う」
くにははっきりと言った。
「ユエルくんは悪くない」
「……っ」
「何度でも言うよ」
くには椅子から立ち上がった。
そして、ユエルの前に立つ。
「ユエルくんは悪くない」
「……くに、くん」
「誰かがユエルくんに酷い言葉を投げたからって、それがユエルくんの価値になるわけじゃない」
「……」
「『死ね』って言われたからって、死ななきゃいけない理由にはならない」
ユエルの唇が震える。
「『消えろ』って言われたからって、消えなきゃいけないわけじゃない」
「……っ、う……」
「『必要ない』って言われても」
くにはユエルの頬に手を添えた。
「俺には必要だよ」
「……っ」
「俺には、ユエルくんが必要」
その瞬間。
ユエルの顔がぐしゃっと歪んだ。
「……う、ぁ……」
声にならない。
次の瞬間、堰を切ったように涙が溢れた。
「……っ、くにくん……!」
「うん」
「俺……っ、俺……!」
「うん、ここにいるよ」
「怖かった……!」
「うん」
「ずっと……怖かった……!」
くには何も言わず、ユエルを抱きしめた。
ユエルはくにの服を両手で掴んだ。
「怖かったぁ……っ」
「うん」
「俺、平気じゃなかった……!」
「うん」
「ずっと……ずっと苦しかった……!」
「うん」
「誰にも言えなくて……っ」
「うん」
「みんなに心配かけたくなくて……!」
「うん」
「でも……もう無理……っ」
「うん」
「くにくん……っ!」
「いるよ」
くには何度もユエルの背中を撫でた。
「ここにいる」
「……っ、うぁ……」
「泣いていいよ」
「……ごめ……」
「謝らない」
「でも……」
「泣いてるユエルくんも好き」
「……っ」
「弱ってるユエルくんも好き」
「……くにくん……」
「何もできないって思ってるユエルくんも好き」
「……」
「俺の前でだけでもいいから、全部吐き出して」
ユエルはさらに強く抱きついた。
「……嫌いにならない?」
「ならない」
「面倒じゃない?」
「面倒じゃないよ」
「重くない?」
「全然」
「……こんな俺でも?」
「こんな俺、じゃないよ」
くにはユエルの頭を優しく撫でる。
「大好きなユエルくんだよ」
「……っ」
「俺の大事な恋人」
「……うぅ……」
「だから、もう頑張らなくていい」
「……でも」
「今日は頑張らない日」
「……」
「仕事もしない」
「……うん」
「SNSも見ない」
「……うん」
「ご飯食べる」
「……うん」
「お風呂入る」
「……うん」
「ちゃんと寝る」
「……うん」
「俺が全部一緒にやる」
ユエルが涙で濡れた顔を上げた。
「……全部?」
「全部」
「……子供みたい」
「いいじゃん」
くには笑った。
「今日は俺に甘やかされる日」
「……恥ずかしい」
「嫌?」
「……嫌じゃない」
「じゃあ決まり」
くにはユエルの涙を親指で拭った。
「ほら」
「……?」
「もう一回泣いていいよ」
「なんで」
「まだいっぱい溜め込んでるでしょ」
「……」
「全部出しちゃおう」
その言葉に、ユエルはまた泣いた。
今度は、声を抑えようともしなかった。
「うぁ……っ、くにくん……!」
「うん」
「ごめん……ごめんね……!」
「謝らなくていい」
「ずっと……頼れなくて……!」
「うん」
「くにくん、寂しかったよね……!」
「ちょっとね」
「……ごめ……」
「だから謝らない」
くには少しだけ笑った。
「その代わり、これから頼ってくれたら嬉しい」
「……うん」
「寂しいときは?」
「……連絡する」
「苦しいときは?」
「……くにくんに言う」
「泣きたいときは?」
「……抱きしめてほしい」
「もちろん」
くには即答した。
「何時間でも」
「……」
「ユエルくんが眠るまで、ずっと抱きしめる」
「……ほんと?」
「ほんと」
「……じゃあ」
ユエルは、もう一度くにの胸に顔を埋めた。
「……今日は離れないで」
「うん」
「ずっと」
「ずっと」
「……俺、いっぱい泣くかも」
「いいよ」
「うるさいかも」
「いいよ」
「寝られないかも」
「付き合うよ」
「……面倒じゃない?」
「全然」
くにはユエルの髪を撫でる。
一度。
二度。
三度。
何度でも。
「よしよし」
「……子供じゃない」
「知ってる」
「……」
「でも甘やかしたい」
「……じゃあ、いい」
「えらい」
「……それはやめて」
「ふふ」
ユエルは泣きながら、少しだけ笑った。
その夜。
くには本当に、ユエルを甘やかし続けた。
温かい飲み物を用意して。
何が食べたいか聞いて。
食欲がないと言えば、食べられそうなものを一緒に選んで。
シャワーを浴びるのが億劫だと言えば、終わるまで待って。
ベッドに入れば、隣に座って髪を撫でる。
「くにくん」
「ん?」
「……まだいる?」
「いるよ」
「寝ないの?」
「ユエルくんが寝るまで寝ない」
「……過保護」
「恋人だから」
「……好き」
「俺も」
ユエルが目を閉じる。
けれど、しばらくするとまた目を開ける。
「くにくん」
「うん?」
「……俺、本当に大丈夫かな」
「大丈夫になるまで一緒にいる」
「……」
「今すぐ大丈夫にならなくていいよ」
「……うん」
「明日も泣いていい」
「……うん」
「明後日も、しんどかったら言って」
「……うん」
「何ヶ月かかってもいい」
「……」
「俺、待つから」
ユエルの目から、また涙が落ちた。
「……また泣いてる」
「だって……」
「うん」
「くにくんが優しいから……」
「じゃあもっと優しくする」
「……もう十分」
「足りない」
「なんで」
「ユエルくん、今まで自分に厳しすぎたから」
くにはユエルの額にそっと手を当てた。
「だから、その分俺が甘やかす」
「……」
「嫌になるくらい甘やかす」
「……ふふ」
「毎日好きって言う」
「……うん」
「毎日大事って言う」
「うん」
「毎日、ユエルくんがいてくれて嬉しいって言う」
「……うん」
「だから、ちゃんと聞いてて」
ユエルは小さく頷いた。
くには微笑む。
「ユエルくんが好き」
「……」
「ユエルくんが大事」
「……うん」
「ユエルくんが必要」
「……っ」
「生きててくれてありがとう」
ユエルは、また涙を流した。
「……くにくん」
「うん」
「俺も……くにくんがいてくれてよかった」
「うん」
「……ありがとう」
「どういたしまして」
ユエルがゆっくり目を閉じる。
今度こそ眠りにつく直前。
「……くにくん」
「なに?」
「明日も……甘やかして」
くには優しく笑った。
「もちろん」
そして、眠りについたユエルの髪を撫でながら、小さく呟く。
「明日も、明後日も」
眠っているユエルには届かないくらいの声で。
「大丈夫じゃなくてもいいからね」
くには、その手を握った。
「俺がいるから」
その夜だけは。
ユエルは何も背負わずに眠った。
リーダーでもなく。
歌い手でもなく。
誰かの期待に応えなければならない人でもなく。
ただ、愛されている一人の人間として。
そして翌朝。
目を覚ましたユエルの隣には、約束通り。
くにがいた。
「……おはよう、ユエルくん」
「……おはよ」
「よく眠れた?」
「うん……」
「偉い」
「……またそれ」
ユエルが少し笑う。
くには嬉しそうに笑い返した。
「今日もいっぱい甘やかすね」
「……うん」
「何したい?」
「……分かんない」
「じゃあ、何もしない?」
「……うん」
「それでいいよ」
くにはユエルを抱きしめる。
「今日は何もしなくていい」
「……」
「俺の隣で、ゆっくりしてよう」
ユエルは黙って頷いた。
そして。
昨日より少しだけ強く、くにの服を掴んだ。
その小さな変化を、くには何も言わずに受け止めた。
頼ってくれたことが嬉しい。
甘えてくれたことが嬉しい。
でも、それ以上に。
もう一人で泣かなくていいと思えることが、何より嬉しかった。
最近brfr様に沼っており、これからはbrfr様のお話が増えます。
stpr様のお話も疎かにならないよう努力していきますので、これからのお話も見てもらえると幸いです。
見ていただきありがとうございます。
コメント
1件
寺島あおいです🤍 「大丈夫じゃないって、言って良い」、拝読しました。 ユエルが一人で抱え込んで、平気なふりをしてしまう姿、とても胸が痛みました。 くにの「大丈夫じゃなくていいよ」という言葉が、少しずつユエルの鎧をほどいていくシーンが大好きです。 まだ一話だけど、この二人の関係がどんなふうに変わっていくのか、すごく気になります。 続きも楽しみにしていますね🌷