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スマホの通知音と、カーテンの隙間から差し込む日差しで目が覚める
なんの通知だと思って画面を見れば、「今度山に登るんやけど、一緒に来おへん?」と書かれた、彼からのメッセージの通知だ
…登らないと言っているのに
諦めが悪い奴だ
なんでそこまで俺に固執するのか分からない
さっさと忘れてくれれば良いのに
宇都宮譲
33歳 アルバイター
先程言った彼とは、友人だ
そして親友であり、相棒であり……
…俺の好きな人でもある
こんな気持ちを彼奴に抱いているのは、おかしい
だって彼奴は俺の唯一の親友で、相棒で…
ああもう、駄目だ
この事を考えちゃいけない
今の俺はまるで振られたことにショックを受け、永遠に引き摺っている女のようなものだ
いや、その方がまだ良いのかもしれない
俺は臆病者だから、告白も何もできていない
彼は俺と山に登る度「お前は最っ高の相棒や!」なんて言ってきていた
その言葉が俺を締め付けているとも知らずに
呑気なものだ
まぁ、俺が恋しているなんて微塵も思っていないだろうからそれが普通ではあるのだが
彼は登山家だ
本当に、素晴らしい登山家だ
それなのに俺は、グルベストで彼に怪我をさせてしまった
普通に怪我をしただけなら俺もそこまで気にしない
でもあの時、彼は慢心した俺を庇った
俺は軽症で済んだが、彼は重傷を負った
俺の、せいで
俺が慢心さえしなければ
俺が山になんか登ってなければ
…俺が彼と、相棒なんかじゃなかったら
結果的に俺は山を登るのをやめた
病室にいた彼にそれを伝えると、酷く悲しそうな顔をした
…そんな顔をしないでくれ
これが正しい
これで良い
お前は、俺の事を忘れてくれればいいんだ
そう彼に伝えると、彼は俺の目を見つめ「そんな事ない」「俺は譲と山に登りたい」なんて馬鹿げたことを言った
思わず目を逸らし「俺はもう登らない」と強い口調で伝えると、彼は「そうか」とだけ発してその後は何も喋ることはなかった
そのままで良かったのに
退院してから、彼はまた同じようなことを毎日のように伝えてきた
正直うざったい
なんで彼奴は俺に固執するんだ
もっと良い奴を見つければいいのに
そいつを、相棒にすればいいのに
「…あ、」
しまった
昔の癖が抜け切っていなくて、間違えて返信してしまった
返信したと言っても、「そうか」と簡素なものだが、彼奴に1を言えば10は返ってくる
メッセージを取り消そうとしたが、既に既読がついてしまっているから、今更消してももう遅い
……彼奴の事だから勝手に喜んでるんだろう
最悪の場合は家に凸ってくる
玄関の鍵は、閉めていたっけか…?
窓の鍵も閉めて…カーテンも一応閉めておく
電気をつけるのも嫌になって、暗い部屋で一人布団に包まる
「はぁ……」
頼むから来ないでくれ
そう願いながら、ゆっくり目を閉じた