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僕の心に渦巻く嫉妬は、日ごとにその影を濃くしていた。
涼ちゃんと若井の間に流れる親密な空気を見るたび、胸を締め付けられる。
あの時での涼ちゃんの言葉と、若井との自然なやり取りは、まるで自分だけが蚊帳の外にいるような孤独感を与えた。
次の日の練習は、いつも以上に元貴の集中力が散漫だった。
ギターを弾く手元がおぼつかず、歌えば音程がズレ、何度かフレーズを間違える。
普段ならすぐに涼ちゃんが気づいて声をかけてくれるのに、今日は涼ちゃんも若井も、新しい曲のアレンジについて熱心に話し合っていた。
僕は、二人の会話に加わることもできず、ただ黙って自分のパートのギターを弾いていた。
練習が終わり、各自が楽器を片付け始める。
そっと涼ちゃんの様子を窺うと、涼ちゃんは若井と顔を突き合わせるようにして、何やら楽しそうにスマホの画面をのぞき込んでいる。
二人の肩が触れ合いそうなほど近い距離に、心がざわついた。
その日の帰り道、若井は元貴の隣を歩いていた。
いつもなら他愛ない話で盛り上がる二人だが、元貴は終始黙り込んでいる。
若井は、元貴の様子がいつもと違うことに気づく。
「元貴、今日なんか元気ないじゃん。どうしたの?」
若井が心配そうに尋ねると、
「別に、なんでもないよ」
とぶっきらぼうに答えた。
でも、その声には、明らかに苛立ちが混じっていた。
若井は、しばらく黙って元貴の横顔を見ていた。そして、不意に立ち止まり、元貴の肩を軽く叩いた。
「お前さ、涼ちゃんのこと、好きなんだろ」
若井の真っ直ぐな言葉に、元貴はびくりと体を震わせた。心臓が飛び跳ねる音まで聞こえそうなほどだ。
「自分で言ってただろ、涼ちゃんを幸せにしたいって。」
「じゃあ自分の気持ち伝えなきゃダメだよ。」
若井の言葉は、隠し続けてきた感情を、容赦なく暴いていく。顔が熱くなるのを感じた。
「あのさ、俺は涼ちゃんのこと、大切な親友だと思ってる。それ以上かもしれないけどね、恋愛感情はないから。大好きだけどね。」
若井の言葉に、ゆっくりと顔を上げた。若井の瞳は、真剣そのものだった。
「だから、変な勘違いとか、心配とか、しなくていいから。涼ちゃんはさ、誰にでも優しいんだよ。それに、元貴のこと、バンドのメンバーとしても、人としても、すごく大切に思ってるって、俺は知ってるから」
若井の言葉は、心にストンと落ちてきた。
若井が、涼ちゃんが、自分を大切に思ってくれている。
その事実に、胸の奥で渦巻いていた黒い感情が、少しずつ溶けていくような気がした。
「……若井、お前ってさ、ほんと…」
それ以上言葉を続けることができなかった。若井の優しさが、胸に染みた。
「泣くなよ……笑。だから、もっと堂々としろよ。お前の歌声、もっと響かせろ。お前の曲、もっと届けろ。それで、涼ちゃんに、お前の気持ちが伝わる日が来るかもしれないだろ」
若井はそう言って、僕の背中をポンと叩いた。
僕は、若井の言葉に励まされると同時に、自分の未熟さを恥じた。
嫉妬に囚われ、大切な親友や、涼ちゃんの優しさまで疑ってしまった自分が情けなかった。