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この遊女屋にはいくつもの折檻部屋がある。それらは全て人目が届かない場所に設置されているのだが、中でも病人が伏せている棟にある折檻部屋は、客はもちろん、この店で働く遊女でも知らない者の方が多い。
それもそのはず。その折檻部屋は普段使用されることはない。というか、使用される者が決まっているから、普段使用されることはないし、遊女も知らない者が多い。
その折檻部屋で折檻を受けるのは、遊女が産んだ子のみ。
遊女の価値を下げさせた要因となった子供は、この店にとって不純物であり要らぬもので、たとえ死んでも痛くも痒くもないのだ。けど、遊女たちの仕事場兼生活する場でもある母屋で死なれては縁起が悪いので、後先短い病人の遊女たちがひしめく棟に、その折檻部屋は作られた。
現在、夏蝶はその折檻部屋に閉じ込められ、目も当てられないほどの折檻を受けている。
あの大量出血から奇跡的に意識が戻った夏蝶は息をつく暇もなく鞭の雨あられをその身体に浴びせられた。身体がちぎれてしまうほど強い衝撃と、音速で振り回される鞭の先端が皮膚を徐々に裂くのは耐え難いほどの痛みだった。
鞭の雨あられが終わったかと思えば、今度は杖で顔面を殴られた。目も鼻も人中もお構い無しに殴り続けるものだから、夏蝶の可愛い顔は見る面影もなく醜いものへと変わり果てていった。
それだけじゃない。夏蝶は蹴られ、切られ、毒を食わされ、汚水に沈めさせられ、首を絞められ、骨を折られ、皮膚を虫に食われ、石を投げつけられた。
泣いて許しを乞うても、うるさいと怒鳴られさらに折檻は激化した。痛くて辛くて苦しくて、それを誤魔化すために泣き叫んでも、泣けば泣くほど怒鳴られ、さらに追い打ちをかけるように想像を絶する痛みを与えられた。
もちろん、肉体的苦痛だけでは無い。夏蝶が与えられたのは精神的苦痛もだった。死んでしまいたいと思うほどの肉体的苦痛に加え、どうして生まれてきてしまったんだと思うほどの精神的苦痛も合わされば、当然幼い心は簡単に砕け散る。
だから、夏蝶は笑った。
もう全てがどうでもいいと、全てを諦めたと言わんばかりの笑い声だった。喉が張裂けるくらい、肺が破裂しそうなくらい、夏蝶は瞳に狂気の色を滲ませ狂ったように笑いだした。
──1533年 某月
休む間もなく与えられた苦痛に、夏蝶は悲しみの涙を奪われた。