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翌日、透子の熱は下がったらしい。よく分からない夢を見てぐっすり眠れたお陰だろう。何と言うか、凄くスッキリとした印象だ。顔色も良く、生命力に溢れている感じがする。錯覚で背中に羽が見えた位だ。
だが、元気が溢れていても注意力が足りていなかったのか、五限目で怪我をしたらしい。体育の授業中、気付いたら姿が見えなくなっていた。
放課後、環に連れられて戻って来た透子の横には、知らない男子生徒がいた。聞くと、透子にボールをぶつけてしまい、怪我をさせたので透子を送ると言い張っているらしい。
環の様子から察するに、透子を狙っているのだろう。
俺は、一緒に帰ると言い出さざるを得ない状況に追い込まれた。
自転車は、環の物と、その男子生徒(三年生だと言う)の物の2台。180以上の長身の俺を、環が後ろに乗せて走れるはずも無く、必然的に俺はその先輩の背後に乗せてもらう事になった。
透子を家まで送り届けると、環から目配せが飛んで来る。
「失礼します」
俺はそう言って、先輩を羽交締めにして、俺の家の中に連れ込んだ。
「えっ!?何!?何なの!?」
呆気に取られてあまり抵抗されなかったので、簡単に連れ込めた。
ドアを閉めた瞬間、環が先輩の胸倉を掴んで詰め寄った。
「あんた、気安く透子に言い寄らないでくれない?」
いくら何でも、先輩に対してその態度はどうかと思ったが、俺は放置した。
「ちょっと何なの?俺先輩だよ?怪我させた後輩を家に送り届けて何が悪い訳?」
もっともな言い分だと思った。普通なら。
「なら、もう送り終わったんだから、透子には近寄らないでね!」
そうだな、もう終わったな。俺は心の中で頷いた。
「えっでもさ、怪我の治りの経過は気になるから見に来るよ?俺が怪我させちゃったんだから」
まぁ、自分の所為で怪我させたら、確かに気になる。
「必要ない。ケアはこっちでする」
「こっちって、どっちよ?」
「私とこの雅彦が、よ!」
勝手に組み込まれている。まぁ、異論は無いが。
「ちょっと待ってよ。俺が透子ちゃんの怪我を心配して会いに来ちゃダメって事?そんなのおかしいよ」
「だって、口説くじゃない!」
「そりゃ口説くよ。可愛いし好みのタイプだし」
それはダメだ。俺は強く思った。
「透子には透子の事情があるのよ。男関係に異常に厳しい叔父さんがいるの!」
環、上手い説明だ。
「だったら、キチンと説明して交際を許して貰うよ。そんなの当たり前だろ?」
そうだな、当たり前だ。普通ならば。
「無理よ!万が一、透子と叔父さんが会ってる昼間にLINEや通話でもあろうものなら、大問題でブチギレるわ!」
そんな事はあってはならないが、もしそうなったら透子が危ない。絶対ダメだ。
「手順を踏めって言うなら、キチンと筋は通すように気を付けるよ。てか、まだ何も始まって無いんだけど。何なの?君達」
見た目と違って、この先輩は中身がしっかりしている様だ。だからと言って透子に近づくのは許せないが。
「とにかく、無闇に透子にちょっかい出さないで!分かった?」
「無闇じゃなきゃ良いんだな?分かったよ。手順を踏んで計画的に手を出すよ!」
・・・なんか、少し変な言い回しだった様な気がするが・・・。
だが、環は納得できたみたいで、先輩を解放した。
翌朝、信じがたい事に透子の足は治っていた。とても綺麗に。
歩けない透子を乗せて行こうと出した自転車だったが、折角だからという理由で透子を乗せて学校に向かう事にした。
足が治った理由がまた不可解なものだったのだが、前回の熱の時の出来事と合わせて、本当にあった事なのでは?と俺は思い始めていた。
理由は、透子の様子だ。前回は熱が下がり生命力に溢れた感じに見え、今回は怪我が治り、そして凄く綺麗に、魅力的になっていたのだ。思わず見惚れる程に。
信号待ちの時、俺は振り返って透子を見た。
すぐ側にある透子の顔は、不思議そうに少し首を傾げていた。見上げる瞳は澄んで綺麗。髪は触りたくなる程魅力的。頬も、唇も、目が離せなくなる。ずっと、見ていたい・・・。無意識のうちに、俺は顔を近付けていた。
信号が変わる。青になる。
ああ、ダメだ。これ以上見ていては・・・。
俺は前を向いて、自転車を進めた。
透子が、俺の服の端を掴んでいた手に、ギュッと力を入れるのを感じた。
どうしたんだ・・・。
不思議に思ったけど、何も言わなかった。
その日の昼休み、先輩が教室に透子を見に来た。そして足を触り環に怒られる。
このままだと環がキレそうなので、俺は先輩を廊下に出した。
「お前らガード硬いよ。硬過ぎだよ」
「・・・すいません」
とりあえず謝っておいた。
「だからさ、もういっそアレを囮にして、証拠を掴めばいいじゃない。和樹さんに襲わせて、暴力ふるってる写真撮って、和樹さんも、アレも遠ざける」
環の愚痴が止まらない。危険な計画まで立て始めた。
「そんな計画、万が一の事があったら大変だろ。透子が哀しむ様な真似はダメだったら」
俺は諌めた。
「でもさー・・・」
まだまだ愚痴は止まらない。気持ちは分かるが・・・。
「あれ?透子は?」
俺は、教室内に透子の姿が無い事に気付いた。そして廊下から何か気配を感じた。
出てみると、スタスタと逃げて行く先輩の後ろ姿。
「あ、雅彦」
透子は、しゃがんで鞄に携帯をしまっている所だった。
・・・はぁ。
俺は、溜息を吐いた。