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7月15日(水)
帰り道。
夕方の空気は、妙に静かだった。
捺といるまは、いつものように並んで歩いていた。
けれど、その沈黙はいつもと違っていた。
しばらくして、捺が口を開く。
捺「俺、明日先生に言うよ」
いるまが顔を上げる。
捺「こさめをいじめてました。って」
空気が一瞬だけ止まる。
いるまは慌てるように言葉を重ねた。
いるま「違う。俺がやったって言うから」
いるま「だから、お前は言うな」
守るための言葉だった。
全部自分が被ればいいと思っていた。
でも、捺は少しだけ視線を落として言う。
捺「……違う」
捺「俺がやった」
短い沈黙。
捺「俺が責任とらなきゃダメだろ」
その言葉は、決意というより諦めに近かった。
◇◇◇
7月16日(木)
朝。
昨日の出来事だけが、空気の中に残っている。
こさめは少し遅れて教室に入る。
視線を上げないまま、自分の席へ向かう。
捺もいるまも、互いに目を合わせない。
蘭はずっと黙っている。
尊琴は何かを言いかけて、やめる。
須千はその空気をどう扱えばいいのか分からないまま立っている。
◇◇◇
ホームルーム前。
担任が教室に入ると、少しだけ空気が変わった。
「この間の件について、少し話があります」
その一言で、教室が固まる。
おそらく傍観者の誰かが耐え切れなくなり報告したのだろう
呼ばれたのは、ばらばらだった。
同じ出来事のはずなのに、同じ場所には立たされない。
◇◇◇
「まず、今までのことについて教えてくれる?」
先生の声は静かだった。
捺は少しだけ息を吸う。
捺「……俺がやりました」
捺「こさめのことを殴って…蹴って…」
捺「ごめんなさい」
白玉くん
67
66
ことみ
74
言葉はすぐ出た。
迷いはなかった。
でも、その直後にほんの少しだけ視線が揺れる。
(もう全部壊れたんだ)
先生は頷く。
「そっか。じゃあ、今後は同じことが起きないように」
その言葉を聞いた瞬間、なつの中に違和感が残る。
(これでいいの?)
(俺の気持ちは?)
(理由は聞かないの?)
でも、言葉にはならなかった。
◇◇◇
「今までのこと、どう感じてるか教えてくれる?」
先生は優しい声だった。
こさめは少し黙る。
こさめ「……よく、分からないです」
本当にそうだった。
何が起きていたのか、まだ整理できていない。
こさめ「ただ……怖かったです」
それだけが本音だった。
先生は軽く頷く。
「そうだったんだね」
「もう大丈夫だからね」
その一言は優しいのに、どこか遠い。
(これで、終わるの?)
こさめは心の中でそう思う。
◇◇◇
「深瀬くんの立場についてなんだけど」
先生は少し慎重に言葉を選ぶ。
すぐに答える。
いるま「なつを守ろうとしてました」
間が空く。
いるま「でも結果的に、守りきれなかったと思います」
その言葉は、責任というより整理だった。
先生は少しだけ頷く。
「そうだったんだね」
それだけ。
(それだけ、なんだ)
いるまは思う。
◇◇◇
「今回の件についてどう思ってる?」
先生の問いはシンプルだった。
尊琴はすぐに答えられない。
尊琴「……助けようとしたんです」
尊琴「でも、うまくいきませんでした」
声が少し震える。
尊琴「話せばわかると思ってました」
先生は少し目を伏せる。
「そうだよね。でも、結果としては難しかったね」
その言葉は正しいのに、刺さる。
(じゃあ、何が正解だったん?)
◇◇◇
「桜庭くんは、その場にいたんだよね」
先生は淡々としている。
蘭は小さくうなずく。
蘭「でも、何もできませんでした」
それ以上でも以下でもない。
先生は少しだけ間を置く。
「そういうこともあるよ」
その一言は優しいはずなのに、逃げ道のように聞こえた。
(何もできなかったのに、それでいいのか)
◇◇◇
「状況は見てたよね?」
先生の質問は静かだった。
須千はうなずく。
須千「見てました」
須千「でも、止められませんでした」
一度言葉を切る。
須千「止める方法が、分かりませんでした」
先生は少しだけ目を伏せる。
「そっか」
それだけだった。
(分かっていても、何も変わらない)
◇◇◇
職員室の前。
みんなが集まった
先生は落ち着いた声で言った。
「今回のことは、良くない出来事でした」
「でも、みんなそれぞれ事情があると思います」
誰も否定しない。
誰も肯定もしない。
「なので、一旦距離を置きましょう」
「しばらく様子を見ます」
その一言で“問題”は形を変える。
解決ではなく、保留。
終わりではなく、停止。
でも、誰の中にも終わりはない。
こさめの中に残っていたのは、はっきりとした答えではなく、ただ恐怖だけだった。
何が起きていたのかも、誰が正しかったのかも分からないまま、ただ「怖い」という感情だけが消えずに残っている。
捺の中には、自分が加害者として見られているという感覚だけが重く沈んでいた。
本当は何を守ろうとしていたのかも、もう誰にも伝わらないまま、ただ「そういう人間だ」と決めつけられたような感覚だけが残っている。
いるまの中には、守れたはずだという思いと、それでも守りきれなかったという事実が同時に残り、拭いきれない罪悪感となって積み重なっていた。
蘭の中には、止められたかもしれない場面を止められなかったという後悔だけが残っていた。
正しいと思った選択が何も変えられなかったことを、何度も反芻してしまう。
尊琴の中では、「正しさ」というものそのものが崩れていた。
信じていた言葉や理屈では何も解決できず、何が正しいのか分からないまま立ち尽くしている。
須千の中には、ただ現実だけが残っていた。
見てしまったこと、知ってしまったことは消えず、何も変えられなかったという事実だけが静かに積もっていた。
誰も救われていない。
ただ、整理されただけ。
チャイムが鳴る。
授業が始まる。
誰も何も言わない。
◇◇◇
7月17日(金)
放課後。
教室はもう静かだった。
いじめがあったことすら、薄れていくような静けさ。
机は整えられ、黒板も消されている。
そこには、いつもの教室だけが残っていた。
誰も、あの話をしない。
まるで最初から何も起きていなかったみたいに。
こさめは帰り支度をしている。
捺もいるまも、それぞれ少し離れた場所にいた。
蘭は窓の外を見ている。
尊琴は何かを言いかけて、やめる。
須千は、その空気をただ見ている。
校門を出ると、いつもの下校の風景が広がっていた。
笑いながら歩く生徒たち。
何気ない会話。
「こさめのやつ、もう大丈夫なんだって」
「よかったじゃん」
「なつも落ち着いたしね」
悪意はない。
だからこそ、消せない。
その軽さだけが、胸の奥に残る。
尊琴は反射的に笑う。
尊琴「うん!そうだね!」
声はいつも通り明るい。
でも、言った直後にほんの少しだけ止まる。
◇◇◇
帰り道。
こさめは少し遅れて歩く。
前には、捺といるまの背中。
そのさらに後ろに、蘭の姿。
そして、須千はそれを全部見ている。
誰も一緒には帰っていない。
でも、誰もそれを疑わない。
それが「普通」になってしまっていた。
歩きながら、こさめは思う。
(もう終わったのかな)
けれど、終わった感覚はどこにもない。
痛みははっきりない。
でも安心もない。
ただ、みんなとの距離だけが残っている。
捺は前を歩く。
隣にはいるまがいる。
でもふと、思ってしまう。
(俺は戻れたのか?)
答えは出ない。
戻ったように見えるだけで、何かがずっとずれたままだ。
いるまは捺の横顔を見る。
守れている気がしている。
けれど、その奥で小さな声がする。
(本当に守れたのか)
その問いは消えない。
蘭は一人で歩く。
空き地の光景が、まだ頭から離れない。
止めなかった自分。
止めても変わらなかったかもしれない未来。
どちらも確かめようがないまま残っている。
須千はただ見ている。
誰も責めない。
誰も救わない。
ただ、現実だけを受け取っている。
(これでよかったのか)
でも、その問いに返ってくるものは何もない。
夕日が落ちていく。
影が長く伸びる。
同じ道を歩いているのに、誰も同じ場所にはいない。
それでも、それは「日常」として流れていく。
尊琴は振り返る。
そこにはもう、誰もいない。
それでも、頭の中には全員が残っている。
泣いていたこさめと捺。
怒っていたいるま。
動けなかった蘭。
理解してしまった須千。
そして、何もできなかった自分。
尊琴は小さく笑う。
尊琴「……うん。終わったよね」
その直後。
心の奥で、小さな声が落ちる。
『本当に?』
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コメント
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めー!!!!! 完結おめでとぉぉぉぉぉ!!!!! なんか、めーの書く作品って、人生っていうか、過去とか、色々考えられるよね!!!!!こういうの書けるのって、ほんとすごいと思う! 多分、この関係って、二度と元には戻らないんだろうなって思った!
完結おめでとうございますっ! 先生ちょっとぉ…って感じですね、、💦 友達とバラバラになるって辛いことなんだなぁっと痛感しました!
完結お疲れ様! やっぱりすれ違いが起きると元の関係に戻れないし、ちょっとズレてるまま戻れない感じなのかな、、 先生も先生で問題がある!ちゃんと生徒と向き合ってくれ〜😭