私は公子様の事が好きだ。
以前、スネージナヤで助けてくれた事からだと思う。
あんなに普段は冷徹な顔なのに、人助けのときふわりと笑いかけてくれたのだから。
あんなに顔が整っている人に笑いかけられたら堕ちない人はいないと思う、いやいないだろう。
私の家は裕福と言えば裕福で、特になにもない平和な家だ。
お母さんは優しいし、お父さんは社長くらいの立場だ。
だから、欲しいと言ったものはお母さんがたまに買ってくれたり、高価なアクセサリーは誕生日によくお父さんが買ってくれた。
なにも欲に対して我慢をしなくていい家だった。
私が欲しいと思ったものは全て手に入る、出来なくともお父さんから習った”交渉”をしたら値も下げられる。
だから、璃月に来たときも全く苦労しなかった。
だけど、私がここにきて1番欲しい物が手に入れられてない。
そう、公子様だ。
人間関係は金をいくら払っても買えない、買えたとしても深い関係にならない。と昔お父さんが言ってた気がする。
ここにきてそれを感じた。
どれだけ公子様のことが欲しいと願っても、あちらから此方にくることなどなかったからだ。
最初はなんで?どうして?と怒りと疑問しかなかったが、此方に気づきも見もしないのなら私が何したってバレない。と思った
だから、いたときの日記を書いて見る事にした。
北国銀行にごく稀に公子様がいる。
最初はバレたら、と言う不安で中々書けたが、最近公子様はどうせ此方を見ていないと思うようになって、ペンがスラスラ動くようになった。
事務仕事があるときに銀行にきて、大体途中で抜け出す。
それさえも愛おしい。
外に出たとき毎度毎度中々追えなかったが、少しずつ何処に行くのか分かってきた。
大体食事か、魔物の所に行く。
8割ほどヒルチャールなどの所に行くが、食事の場合は何故か楽しそうだ。
いや、ヒルチャール狩りのときも楽しそうなのだが…
信じたくない、あくまで予想だが、往生堂の客郷、鍾離の事を好きみたいだ。
容姿端麗、博学多彩、どのような四字熟語でも言い表せない程の人だ。
自分でも見た目は良い方だと思うけれど、特に知識もなく、あるとしても商売の話だけ…
鍾離の話の広さと言ったら…
もし、全て話そうとしたら日が暮れてもまだ少ししか話せていないくらいだろう。
そして、その知識を自慢するのでもなく、謎の雑学を披露するという訳がわからない事をしている。
公子様は不思議で、予想出来ない子が好きなのだろうか…?
実践してみようと、自分の見た目にあっていない事を考えてみた。
例えば、活発だったり、傷つきやすかったり…
…駄目だ、全て当てはまらない、やっていたとしても自然じゃない事がすぐ分かる。
それに相手は公子様なのだから
恋愛は難しいなと痛感した。
思いついた、鍾離の好感度を落とし、それを利用しながら私の好感度を上げるという作戦だ。
我ながらいい事を思いついたと思う。
まず、鍾離の好感度を落とす方法だが、知識では勝てない。
なら見目で勝てないか、と思った。
1番大事な…顔を傷つけよう。
それで心配する公子様、駆け寄って鍾離に手を差し出す私。
それで鍾離の見た目も悪くなり、公子様の中で私が1番優しくて、可愛い人になる。
そして、その作戦を今日試みるつもりだ。
公子様が来る寸前に鍾離に熱い湯をかけ、火傷の跡で美形を崩す。
もちろん、きちんと変装している。
店員を偽って、すぐに”私”に戻れる構造だ。
その残った服は人気が少ない所に置く。
昨日徹夜で考えた作戦だ、失敗するはずない。
公子様がくるまでまだある。
嗚呼、やっとこれで公子様は私の手に…!
こつ…と聞き慣れた音がしたため、鍾離に向かってお湯の入った茶器を転んだように投げた。
まぁ、転んだのは嘘だが
「先生!」
「む」
と公子様の焦った声が聞こえた。
嗚呼やっと…!
「はぁ…間に、合った…」
ぽた…と白湯が落ちてきたが、何故かそこから公子様の香りがほんのりした。
まさか、と思い、顔を上げると
「公子殿、そんなに早く走れたのか」
「うる、さいよ…上着、脱いでてよかっ、た…」
なんで…なんで、なんでなんで…?なんでこいつにかかってないの…?
ずっと、一晩中考えてたんだよ…?公子様の事を想って…!
なのに、なんでそんなこいつに必死なの…?
そんなにこいつの事が心配…?
私よりも…?
私はこんなに、こんなに好きなのに…?
貴方様の為に、嫌いな奴に関わってあげたんだよ?
なのに、よかった…?
何が…?何がなの?どこもよくないじゃない…⁈
こいつより私は貴方様の事を愛してるのに…!
そんな、そっちだけ見て…
「…ずるい…」
「あ、お嬢さんも怪我なかったかい?」
「はい…すみません。私の不注意で」
「問題ない、怪我がないようでよかった。」
「先生は俺で賭けでもしてんの…?」
「なにか、拭くものお持ちしますね。」
「すみません…」
前みたいに笑ってくれなかった…ふわって…
私はただの店員じゃないのに…!
一緒に歩いたじゃん…?
沢山会話して、ふざけたら笑ってくれて…
…へぇ、そこまであいつが好きなんだ…
助けてやった私を無視したり覚えられない程に!
腹がたつ…いっそのことあれをいなかったことに…
嗚呼そうしよう!名案だなぁ、公子様絶対喜んでくれるよねっ!
今回は失敗しちゃっただけで、公子様疲れたっぽいし!
うんうん!きっとそう!そうに違いないっ、違う訳ないもん!
「ふふ…きっと、喜んであのときみたいに…」
コメント
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不穏テーヌ系すきなのね!かくわ