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バシッ
バシッ
杖で殴られている。電球を変える約束を破ったことにぶちギレた山口さんから、これでもかとぶん殴られている。
痛いって、山口さん。
許してよ。
俺だって家に帰るつもりだったんだ。
ただ、ちょっと事故にあっちゃってさ。どうしようもなかったんだって。
それに…俺もひどい目にあってるんだよ。
変な場所のとんでもないヤツの体に入れられて、あと少しで処刑されるところだったんだ。
それに、マノリスってやつがこれまたとんでもない悪党で…。
そうだよ、マノリスめ。
絶対に許さないからな。
「マノリス……あいつ、ぜったい…意地悪な顔してるだろ…」
「僕の夢を見ているのですか?光栄ですが、いい加減に目を覚ましてください」
バシッ
「い゛っ!?えぇ、なにっ、マノリス…!?ヤダコワイ!!」
目が覚めて1秒で理解した。
俺を殴っていたのは山口さんの杖ではなく、マノリスの手のひらだったということを。
… じゃあ、夢じゃないってことか…?
理解したくなかった。
「あなたもう3日も眠っていましたよ」
「痛かったので…。なんなら今も痛いので」
「そうですか。起きて平気ですか?」
「あっ。こわい人だ…あれ」
出来るだけ距離をおこうと、反射的に伸ばした腕をみて硬直した。
俺の腕、足も。
見るに耐えないくらいボロボロだったのに、細かな傷や赤みはあれど…治っている。
「あ、ありがとうございます…?」
「僕のは仕事ですのでお気になさらず。それより、 礼ならロイドに伝えると良いですよ」
「ロイド」
「昨日一緒にいたでしょう。僕じゃない方の白騎士です」
「…ああ!初代の!」
そういえば、白い鎧がそんな風に呼ばれていた気がする。
そうだな。
運んでくれたお礼がまだだったな。
「ロイドさんは今どこにいるんですか?」
「この時間なら第3訓練場で指導を…、どちらへ?」
「こういうのは感謝する側から向かうべきかと思って…ちょっと出てきます」
半分は本心で、もう半分はマノリスと2人きりでいたくない気持ちだ。
「おや」
慎重にベッドを降り、重たい扉を押し開ける。
「おやおや」
マノリスがついてきているが気にしない。
とにかく、ロイドさんがいる第3訓練場へ
「道が分かるのですか?」
「……へっ?あれ…」
「迷いなく東へ進みましたね」
迷わなかった…。
いや、迷うわけがなかった。
「…なんか、城内の地図が…」
「見えた?」
「はい…えっなんですかこれ…」
「面白いですね」
面白いわけあるかよ。
第3訓練場に向かおうとしたら、地図アプリのような映像がポンと見えるとか。
俺はいったい“何”になってしまったんだ。
「まぁ、サザの影響でしょう」
「こいつかぁ…」
「悪影響ならともかく、地図なら便利なものですね。案内は不要でしょうから僕はこれで失礼します」
「バイバイ!!!!」
「嬉しそうにされると腹が立ちますが。バイバイです」
ひらりと手を振り、マノリスが消える。
瞬間移動とかありなんだ…この世界。
まぁ、ありか。
俺だって知らないヤツの体に詰め込まれているわけだしな。なんでもありだ。
「…はぁ」
ビリッ
「!?」
なんだ?
ため息を吐いただけなのに、廊下にいた兵士風の人たちが一斉に俺を睨み付けてきた。
あっ、何人かは槍まで向けてきている。
なんで…なんて、分かりきってるよな。
俺の見た目が“サザ”だからだ。
(サザお前、どんだけ悪いヤツだったんだよ)
よほど凶悪な顔をしているのだろう。
そう思うと恐ろしくて、覚悟が決まらなくて。起きた後に鏡を確認することも、歩きながら硝子を見ることも出来ずにいた。
…でも、この状況が夢ではないのなら。
いつまでも逃げ続けたって仕方がないよな。
「ふー…」
今の深呼吸でまた何人かの兵士が俺に槍を向けた。
危ない城だな、まったく。
「…よし」
ゆっくりと窓に近付いて…
一歩、足を踏み出して。
“サザ”がどんな顔をしているのか、どのような見た目で生きなければならないのか。
今こそ
「うわーーーっ!!!!」
「は?」
ドンッ
押された。
パニックに陥った兵士に突き飛ばされて、見たかった窓はバンッと開け放たれて。
「…ヒュッ」
俺はそのまま、城の外へと
ガシッ
「……ぅっ??…うん…??」
「何をしている」
「…??」
落ちてない。
助かった…?
あ、助けられたんだ。
「っ、はぁっ、あっ俺っおれ、」
「落ち着け」
(ロイドさん…!)
半分以上外へ投げ出されていた体を、勢い良く城内へと引っ張り戻される。
目眩と、吐き気と、酷い悪寒。
立っているのは無理だ。
お礼も、今は無理。
「あ、そんな…」
俺を突き飛ばした兵士が震えているが、大丈夫ですからと気丈に振る舞う元気はない。
申し訳ないけど、自分で立ち直ってもらっていいかな。
俺は俺でなんとか落ち着くから…。
「は、はぁっ…はぁっ」
床にペタリと座り込み、バクバクとうるさい心臓を両手で押さえ込んだ。
それでも、落ち着ける気がしない。
「何故ですか!?ロイド様!その罪人を助けるなんて…!!!」
(まじでぇ…?)
パニックじゃなくて故意なのかよ。
それはもう悪質じゃねーか。
「その者は極悪人です!!」
だったら、お前だってそうだよ。
「わ、私が!!」
正義のつもりか。
言い返せもしない俺を指差して叫んだ兵士が、トドメとばかりに槍を振りかざす。
串刺しかぁ…。
痛そうで嫌だな。なんて、酸素が足りていない頭で受け入れかけたそのとき。
「…!な、なん、だ…!?」
サザ許さないガチ勢である兵士の動きが不自然に止まった。
罪悪感で思いとどまった…わけじゃないだろうな。 すげー睨んでくるし。
じゃあ、なんで。
「“黒魔術師サザの罪は本人を見つけ出して償わせる。その間、別の人間となったサザの肉体に傷をつけることは、白騎士団団長ロイドの命令のもと固く禁じる ”」
「…え?」
「厳命だと伝えさせたが足りなかったか」
もしかして、ロイドさんがなにかやっているのか?
窓の側から1歩も動いていないのに?
どうやって?
何をしてくれているんだ?
「所属と名前は」
「…あ、…ぁぁ」
「聞こえなかったか」
ガシャンッ
兵士の手から槍が落ち、ガタガタと震えて屑折れてしまった。
正直、ちょっとざまみろではあるけど。
でも
「あ、あの!ロイドさん?その人、多分、サザに深い恨みがあるんじゃないですか!?」
サザは盗賊団にいたらしいから。
こいつらに酷い目に遭わされたとか…きっと、そんな感じの根深い問題があるんだろ。
…だから。
「あの、その人を許してください…」
土下座をした。
なんで俺がって気持ちは無くはないけど。この体で土下座をして、兵士のために許しをこうくらいしたってバチは当たらないだろう。
「これは規律の問題だ。お前は関係ない」
「で、でも」
「…。では、聞くか。命令に背いてまでサザの肉体を殺めようとした理由はなんだ」
「…そ、それは」
兵士の目がロイドさんから俺に向けられる。
「それは、称賛のためです…」
俺と視線を交えたまま、兵士ははっきりとそう答えた。
「黒魔術師を討つ力を認められれば、私は民から称賛され…憧れの騎士になれると…そう考えました」
「“中身がサザじゃなくても”か」
「…民には、中身など関係ありませんから…。っ、うう」
「外道だな」
ロイドさんの手がかざされると、兵士はふっと目蓋を閉じてそのまま床に転がった。
「それが所属する部隊長に渡せ」
何やら書き込んだ紙を封筒にいれ、1番近くにいた兵士へと手渡している。
「連れていけ」
最後もロイドさんの命令で、すべての兵士が弾かれたように動き始めた。
…シン
先ほどの騒動が嘘のように、俺とロイドさんしかいない廊下は静まり返っている。
ここまで、およそ5分弱。
俺は…ひとことも喋ることが出来なかった。
“サザ”が悪党だったのは疑いようもない真実だろうが、それだけではないことを思い知らされてしまったから。
「ササキイカ」
ロイドさんが俺を呼ぶ。
これはおそらく、苗字と名前だって思われていないんだろうな。
どちらかで良いのだと余裕があるときに伝えないと。
「目が覚めて良かった」
「…あ…ありがとうございます」
命を助けてくれて、本心かはともかく身を案じる言葉をかけてくれる人もいるんだ。
ロイドさんのおかげで“サザ”として生きる勇気がほんの少しだがわいてきた。
「本当に助かりました」
もう一度、深く頭を下げる。
少しして顔を上げ
「え?」
え?
「え、っと、ロイド…さん?」
「ああ」
「鎧…か、顔…」
「感謝を受けるのに鎧は不要だろう」
白騎士ロイドさん。
鎧兜を外したその男は、碧眼に金髪のど美形な姿をしていた。
……しまった。
直視すると呼吸を忘れてしまう。
「どうした」
「へ?いや、お、王子様みたいだなと!」
「不敬罪に俺を巻き込むな」
「あっすみません…」
でも、本当に。
昔本屋で立ち読みした絵本の王子様みたいに見えたんだ。
……また呼吸を忘れた。
「はあ…はぁ」
「正気か?」
「い、一応…」
悪名高い盗賊団の黒魔術師の死因が“白騎士ロイドさんに見惚れたことによる窒息死”ってことになったら。
あの世でサザから呪われたりするんだろうか。
…いや、笑われる気がするな。
なんでかは良く分からないけど。
「体が本調子ではないのだろう。部屋に戻るぞ」
「戻る…?」
「どうした。ついてこい」
「は、はい! 」
怪我は治ったんだ。てっきり牢屋か独房に移動させられるのかと思っていたけど。
…さっきのことがあるからな。
急ぎ1人にするのは危険だと、気を遣わせてしまったのかもしれないな。