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ー数日後の10時、事務所にてー
今日は待望の新曲発表と、新しいマネージャーが来るという事でメンバー揃って事務所の一室に来ている。そして社長と一緒にマネージャーの島田さんともう一人女性が入って来た。恐らくこの人が新しいマネージャーさん、私達に近い年齢っぽい。因みに社長さんは週一顔出ししてくるけど、最近は忙しくて久々に顔合わせする。
「「お疲れ様です」」
私達は立ち上がって挨拶する。
「お疲れ様。久しぶりだね、みんな元気そうで良かったよ。最近の頑張りも見させて頂いてるけど、チームとしてはどう?」
「はい。お陰様で仕事も増えて好調ですし、最近ではソロ活動も増えてきて個々で頑張っています」
社長の言葉にそう答えたのはチーム代表の玖瑠実だ。
「そうか良かった。まま、座って」
「「失礼します」」
社長の言葉にそう言って座った。
「今日は新しい曲もそうだがその前に今、島田さんの隣に居る女性の紹介をという所で来たんだ。恐らくみんなも薄々勘づいていると思うが、今度から君達rainbowをサポートする菊池さんだ」
「菊池真桜(キクチ マオ)と申します。年齢は20歳です。昔から縁の下の力持ちに憧れていて、学生時代からマネージャーをして来ました、よろしくお願いいたします」
「「よろしくお願いします」」
彼女の挨拶に私達もそう返した。
20歳という事は西君と同い年だ…。
なんかひょんな事でも西君の事を思う様になってしまった今日この頃の私。
「菊池さんは、ここに来る前にもマネージャーとして働いていたらしいけど、しっかりと正社員という形ではウチが初めてだそうだ」
そう思いながら社長は話を続ける。
「どういう事ですか?」
食いしん坊のユキリン事、有希がそう聞いた。
※ここでは、最近出番がなかった子達が多めに出演します(*‘▽’)。
「私は高卒から芸能業界に入ってまして、最初の2年間は見習い的な感じで、とあるモデルバイト生の助手としてついていたんです。そして独り立ちをという事で今回モ―プロのrainbowさんの所が丁度マネージャー募集をしていたので、是非お願いをという事で」
と、菊池さんが言った。モデルバイトと聞くと、ついつい西君を思い浮かべる私。
「へぇーモデルにもバイトがあるんですね、私も幼少期フランスにいて、その頃一時的にモデル活動していた事あるんですけど、知らなかったです」
シェリミキ事、美希がそう言った。言われた通り美希は小学校に上がるまでフランスで幼児用のファッションモデルをしていた。因みに小学校に上がる頃に日本に来た。
「売れっ子じゃない限り、モデルだけだと食べていけないから本職の傍ら的な感じが実は多いんです。雑誌とか載っている方も、実はしっかりと職を持っていたり、フリーターでバイトの掛け持ちしていたり」
「モデル業界も一握りって事だよ」
急に社長が纏めて話した。
「そうですね、中々厳しそうでした」
「そして彼女は、ただのマネージャーじゃないんだ」
私達は驚きと疑問でしーんとなる。
「アハハハ、そんなに静まなくても。実はマネージャー兼、ダンスの担当にもなる」
「はい、よろしくお願いいたします」
「「えー-!?」」
まさかの出来事に私達は驚いた。実は今までダンス担当していた夢野さんという方が居たんだけど、”地元の新しいアイドル発足の立役者になってほしい”と、引き抜きで沖縄に急遽行く事になって、それに伴ってrainbowダンス担当を退く事になった。元々、彼女自身が地元でアイドルを作ってそのダンス担当になりたいって言っていたので、こちらとしても寧ろ行ってこい的な感じで円満退社となった。その代役が彼女の様だ。
「彼女は色んなダンス大会にも出ているそうで、夢野さんの事も知っているそうだ。表現部門ではいくつも賞をもっているらしいから、期待していいぞ」
「そんな社長、ハードルを上げないで下さい…」
「ハッハッハ、ゲーム実況者ならではの反応だな。実は、あながち間違っちゃいないんだよ。次の曲に向けてファンの声を歌にしたいと思ってね、君たちのファンに直接アンケートを取らせてもらっていたんだ。質問は2つで、”あなたの推しは誰か”と”あなたがもし、推しと実際に付き合えたらどんなデートがしたい?っていうね。まぁ色々と書いてあったんだけど、総称すると”ぶらり旅”が多かった」
「旅…」
玖瑠美が反応した。しかし社長は構わず話を続ける。
「そう、旅。言わば旅行だよね。街ぶらりとか、温泉で裸の付き合いとか。まぁ回答者の9割が男だから仕方ないんだけど(笑)」
その言葉に我々も笑う。そして社長は話を続ける。
「ウチだけに限らず、好きな芸能人やら、それこそ好きなアイドルとか、それぞれ”もし付き合ったら”って妄想すると思うんだよね、その時に思うのが旅行に行きたいという答えが多かったんだ」
「確かに。私もこれ言われたら旅行っていうかも!」
玖瑠美の言葉に透かさず
「若しくは遊園地」
有希が玖瑠美に向けて指差しでそう反応する。
「あーわっかるー-」
玖瑠美も同じく有希に向けて指差しで共感している様子。そんなか私は聞きながら「今その”もし”というのを実際にしてるんですけど…」とそう思いながら何処かドキドキしつつ社長の言葉に頷いていた。
「そういう事だ。要はファン目線の恋愛シミュレーションという訳だ」
私は話を聞きながらサビの部分に何処か刺さっていた。
『今日一日を 良い思い出 にする為に プランを考えたんだ 朝は電車の旅変わりゆく 景色の中で この後の 楽しみを 話すんだ 昼下がりは 下車先のカフェで一服 恋愛シミュレーション』
という台詞。まだ曲調は聞いてないからあれだけど、この言葉だけで今の自分を彷彿させられる。西君とは付き合って間もないからこんな事してないし、そもそも出来っこないかも知れないけど、でもこの歌みたいに色んな所に行ってみたいし、色んな思い出を作りたい。
そんな事を思っていると、
「何ニヤニヤしてるの咲ちゃん?」
隣に座っていた愛花が私を見てそう言った。私はその言葉に我に返り
「ん?いゃ、いい歌詞だなーって。まだちょっとワンコーラス部分しか読めてないんですけど、準備から始まっていて、敢えて目的地がわからない所が、ワクワクで旅してる感があって、こういう事されたら嬉しいなって思ってね」
すると社長は”いいねぇ”と言いながら
「正にそうで、この曲は日帰り旅行をイメージしてるんだけど、1番を敢えて前日にしてラストサビで帰宅。本来はラストサビでは同じようなサビ歌詞が並ぶんだけど、敢えてせずに準備から帰宅までの流れを歌にしたんだ。菊池さん、流していいよ」
そう言って流す。因みに歌はボイストレーナーの方が歌っている。曲調は期待通りのポップな感じで、今回はイントロから歌い出すパターンだ。中身は如何にも旅行を楽しむぞー的な感じだし、尚且つアイドル曲っぽく仕上がっている。これを作詞作曲する社長は流石。長さにして4:14。聞き終えると
「…こんな感じだ」
「「うぉー--」」
みんなが一斉に拍手する。
「なんだろう。歌自体は新しい挑戦っぽいんだけど、しっかりと私達の味を引き出している気がする。聞いててあ、このパートは織ちゃんでこのパートは咲ちゃんだ的な感じがわかる」
そう美希が言った。
「確かに」
玖瑠美がそう言った。そして社長が話し出す。
「毎度同じくパートはそれぞれで任せる。一応ここに記載している通り、イントロとサビはみんなで歌ってもらう。そして今回面白くしたいのが、最後の『今日はありがとう、また遊ぼうね』の部分。曲でも流した通り、最後だけ話し言葉になってるんだけど、この部分は歌う度に違う人にして欲しいんだ。一応CDやネットサブスクの通常版では揃った声。限定版ではそれぞれの声を。だからまぁ7パターン作る訳だが、コストが掛かるからCDに関しては、いつもよりも社販限定盤は少なめになる予定。そして極め付きにはテレビとかで歌うと思うんだけど、その際は毎回誰が言うかランダムにしてほしい」
「それ面白いですね」
何故かマネージャーの島田さんが言った。私達は驚いて島田さんを見た。なんで驚いたかというと、新曲とか出来た時は先ずマネージャーに一報が入る。そして聞いた後に、私達に届くシステムだからだ。
「…ごめんね、私も今回初めて聞くから」
「すまんな、丁度菊池さんとの兼ね合いもあったから、言いそびれてたんだ」
社長は軽く謝罪する。社長は続けて、
「初公開今月末の虹色番組で。初披露は来月15日のM&C(ミュージック&カウントダウン)。発売はその月の20日。レコーディングは来週するから、それまでに曲覚えと振り分けを宜しく」
つまり今日は4月5日だから5月20日が発売って事。それまでに歌は勿論、振り付けにメイクさん達は衣装を作らないといけない。因みに『虹色番組』というのは、深夜枠の0:20から10分間のレギュラーラジオ番組の名前だ。毎回テーマについて2人ずつの交代制であれこれ突っ込んだ後に音楽視聴で幕が閉じるという初のレギュラー番組である。
「「はい」」
私達はそう返事をした。社長は”以上だ”と言い残して離席した。そして数十秒後、マネージャーの島田さんより
「じゃー、この後は劇場公演だから向かいますよ」
「「はい」」
そう言って私達は移動した。
私達は車中内では新曲を覚えるべく、全員がイヤフォンなりヘッドフォンなり付けて自分の世界に入っていた。本当にこの曲は今の自分というか、こういう事をしたいっていう夢を描く様なそんな歌詞となっているし、その一方で不安な心境も語ったりと、丸で今の自分を丸裸にされている様な感じだ。特にCメロというラストサビに繋がる部分。
『一人の時 ふと考えるんだ。君と僕とでは 不釣り合いなのかも知れない… それでも君の 笑顔を いつまでも守り続けたい』
不安な中でも『いつまでも守り続けたい』。歌では楽しかったデートが佳境につれる中、ふと考え込んでしまう事を歌詞に表しているんだけど、私情の中で実は、ここでは語ってないけど、遂この前に西君とこういったやり取りをしていた。
”付き合い始めて間もないのにこう言うのは変だけど、私達って上手くやれると思う?”って。
西君は勿論驚いて”どうしたの急に?”って返信が来た。それに対して私は”形式上は付き合ってるけど、正直不安だから”と素直にぶつけた。すると向こうは”今の所わからない”と言う返信が。それを見て、一瞬「何よそれ…」と思って不満の変身をしようとした所、その後直ぐに続きが来て、
”でも、それはこれから俺達の行動で決まると思う。偉そうだけど、俺は咲良さんの事が大好きだし、リアルでもアイドルでも、どちらも付き合っていきたいし(o^―^o)。それに、あなたの笑顔を守り続けたいと思っている”と。
それに対して私は、”めっちゃ格好いい事言うじゃん”と返し、不覚にも胸キュンしてしまっていた。だからこそ、この歌が物凄く私に刺さるのだ。
「ねぇねぇ、凄いニヤついてるんだけど?どうしたの?」
玖瑠実が話しかけて来た事により私は我に返った。
「あ、いゃー…この歌詞好きだなーって」
「そう言う事ね、ていうかさっきも思ったんだけど、いつもより食いつくよね?」
鋭いじゃん玖瑠実…流石リーダー。
そう思いながらも頭をフル回転させ、
「…だってさー私って恋愛漫画読むじゃん?これと似たのを読んでるんだけど、似てるーと同時に凄くこの気持ちわかるわーって思って、なんで?」
すると玖瑠実は
「いゃそれならさ、今までも似たような歌を歌ってたよなーって思って。今までもいつもよりも歌詞の入り方が違うなーって思って。因みに漫画はなんなの?ちょっと気になる」
「あ、えっと…」
そう言いながらスマホを出しながら検索する。因みに漫画は『さくらみつき~アイドルとの恋愛壁場〜』という劇場の『劇』と、恋愛に対する壁の『壁』を掛けている漫画なんだけど、女性アイドルが主人公で、とあるファンとの出会いから恋愛に発展する物語、正に今の私みたいな漫画。因みに、今読んでいる漫画の中での順位では下の方だったけど、実際に恋愛してからは一気にトップに入った。
そんな中私は、いつもお世話になっている漫画サイトの本棚からその漫画を探して見せる。
「あーこれね。最近急上昇しているやつじゃん?」
どうやら玖瑠実も知っている様子。
「そうなんだよー、なんか最初はそうでもなかったのに、非現実的な感じでいいのか、後伸びしちゃってね」
因みに玖瑠実もこういう漫画は好き。というのも私の見るよりもっと大人な恋愛漫画なので、あまり詳しくは知らないけど。
「へー、咲ちゃんが読んでるやつ間違いないから読んでみようかなー」
「うん是非おすすめ」
難を逃れた私は、どうやら顔に出る様子なので今後は注意しようと思う今日この頃であった。
-劇場にて-
因みに劇場公演は毎週土日に2つの劇場を行き来する。1つの劇場で考えると隔週土日公演となる。今日は午前中がさっきの予定が入った為、午後のみの公演となる。ウチらの劇場はモープロ専用劇場で映画館みたいにいくつもの部屋が分かれている。その為、他のアイドルも居たりする。敢えてなのか裏口というのはなく、表を堂々となかに入るので、アイドルがどのくらい入っているかとかがが一目で分かる。その為、実際にはないけど、自分達よりも人気があるアイドルからの見えない圧力があって、中々士気を保つのが辛い部分はある。
そんな中、私達も中に入り劇場内を通る。
「咲ちゃーん」「織ちゃん」「クルミーン」
開場30分前にも関わらず、少なからずだがファンが数人並んでいる。幸い、ここ最近人気が出てきて、出待ちならぬ入待ちが最近現れていた。
「今日もありがとー」
私を含め、他のメンバーもそういう挨拶をして劇場楽屋に入った。
「今日は少なかったね」
そうボソッと言ったのは愛花だ。恐らく入待ちの人数の事だろう。
「おぃ漏れてるぞー心の声が」
玖瑠実が座りながらそう呟いた。
「だってー、やっぱ比べちゃうじゃん?」
「比べちゃうよねー」
嬉々が『だよねー』感を出しながら共感する。それに対して私は
「まぁ確かにわからんでもないけど、最近はずっと『Q10(キュート)』がトップだよねー?私達よりちょっと前にデビューしたのにも関わらず、私達より人気が出て、私達より人気が急上昇のチームだから羨ましいよ」
それをやり取りに玖瑠実も頷きながら椅子に座る。最近何かと話題のQ10(キュート)。この()まで入れて読むんだけど、リーダーの真琴という私と同期の子が居るんだけど、その子がまぁ面白い子で、それが切っ掛けで人気が沸いた。同期であるからこそライバルでもあるので凄く羨ましい。
遅れる事数秒後にマネージャーやスタッフ等が入って来て
「はいメイク始めるよー」
そう言ってみんなでメイク台に入った。化粧は私がいつも先に終わる。というのも以前にもお伝えした通り、私は極度の敏感肌である為に化粧品ていうのはある程度決まっている。その為、みんなと違って”今日はこれで”という所謂気分に合わせてというのが出来ないし、前にも言った衣装に合わせたメイクが出来ないのでみんながマジで羨ましい。
そういう事もあって準備までの流れはある程度定着していて、先ず先に私がメイクを終わらせ、その後に準備運動をし、ある程度終わるとダンスの確認等をスマホに入ったダンス映像を視ながら動かす。その間に現場監督とのやり取りを終えた島田さんが楽屋に来るので、曲とかの打ち合わせの確認をしてそれを口頭で伝える。
他のみんなはと言うと、私がダンスの確認の頃にメイクが終わって準備運動をする。なので人よりも5~10分くらい早く準備する事になる私が必然的に劇場でのやり取りをする事になる。以前みたいなイベントやライブは、基本的にリーダーでもある玖瑠美が先ず話を受け、それをみんなに流す事になる。
準備とか色々済ませていると時間にして開園時間が迫って来ていた。入りの時は心配だった人数も、最近有難い事に200人満員がチラホラと目立ち、今日もその日の様。因みに満員となったアイドルの暁には、自身の劇場入り口前に『満員御礼』の旗が掲げられる。
「さぁ、今日もやって行こうかね?」
いつもの円陣前、気合を入れる様に玖瑠美が言い放ってライブの時にもやった円陣を組む。
「はい、では今日もファンの為、私達の出来る限りの笑顔を届けて、虹色に咲かせましょう、せーの!」
「「虹色、ストーリーー-‼フーーー」」
そう言って舞台袖に入った。
紹介や注意事項など一通り話し終えた後、ブレイクした曲『rainbow-修正版-』のイントロと共に入場する。入ったら先ず私がする事はどれくらい私の推しが居るか。そして、とある人がいるか
確か、後ろの席だったような…あ、居た!
そう。とある人というのは西君だ。実は昨晩の連絡で、今日のライブを観に来てくれるという事であった。席に関しては直前までやり取りして把握していた。因みに劇場内ではペンライトが入り乱れている為、ステージだけ明りが付いている。なので物凄くチカチカしているのでお客さんの顔まではあまり見えない。が、全く見えない訳ではないので、微かに見える顔立ちで判断したという訳。
私は全力でこっち向いて手を振ってくれる西君に対して思いっきり返した。勿論みんなにする様な感じで。そして、色んな曲を歌い続けた。
⁻1時間後⁻
2時間のプランとは言え、ぶっ通しで歌い踊り続けると流石に普段から特訓している私達でさえ酸欠状態になる。なので、曲の合間で休憩がてらお客さんとの会話が設けてある。とは言え、10分程度なので回復とはそんなにしない。それもあってこの1時間前後でしっかりとした休憩を取り入れる。
「お客様にご連絡です。開始から1時間過ぎましたので休憩に入ります。その間でトイレ休憩をお願いします」
そう場内アナウンスが流れる。まぁ流れるとはいえ、いつもの事なのでお客さんからすれば聞いていないのと同じ。それに負けないくらい推しの名前を叫ぶ。因みに今の声は新人マネージャーの菊池さんだ。
因みに休憩中はrainbowスタッフたちで私達の汗を拭きとる。恒例の事なので、玖瑠美は汗を拭かれながらもお構いなく話し出す。
「皆さん!楽しんでますかーー-!?」
「「いえー---い!」
「あれあれ?元気がないぞー?」
「「いえー---い!!」
玖瑠美の声に反応する様に会場内のお客さんが反応する。
「お?いいですねー!ね?」
玖瑠美がそう私達に振り、それに頷いたり返事で反応する。それを見てから再度お客さんに話し出す。
「えー今日も観に来てくれてありがとうございます。今の休憩時間に話をしたいんですけど、皆さん、今の休憩のアナウンスが誰だか分かりましたか?」
「え?いつもの島田さんじゃないんですか?」
と、最前列の人が答えた。それを聞いた玖瑠美は
「なるほどね。他は?」
それに対しては特に反応がない事から、恐らくみんなも島田さんと思っているのだろう。ウチの劇場のアナウンスは基本マネージャーの島田さんとなっている。
「ん?その反応だともしかして違う人?」
「ちょっと、反応から推測すな(笑)」
開場は笑いが起きる。玖瑠美はファンとの掛け合いを楽しみながら聞くが、その後反応がない様子。
「まぁわかる訳ないかー、実は、今日から新しくマネージャーに加わった菊池さんという方なんですよね。折角なんで登場してもらおうかな?今日から私達と一緒にグループを盛り上げてくれる新マネージャー、菊池麻桜さんです!」
すると、アナウンス終わりの菊池さんがステージ袖で我々を見守っていたが、急に呼び出された事に驚いた様子で周りをキョロキョロし始める。それもその筈で台本にはない、完全アドリブなんだから。すると島田さんが菊池さんをステージに押し出す。その登場に会場が沸く。そして、菊池さんに近い紫色役の有希が手を引っ張って玖瑠美が居るセンターへ連れて行く。
「ちょっとユキリンさんにクルミンさん…聞いてないです」
「言ってないんで当たり前ですし、折角なんで自己紹介をと思って」
そうニコッとする玖瑠美。構わずマイクを菊池さんに渡す。会場の雰囲気も断れない状況を作る。
「いゃ、ニコじゃなくてぇ…」
恥かしそうな菊池さん。言うたら今日が私達と初対面で初仕事。これが新人の掟なのか…。すると菊池さんは渋々マイクを口に当てて
「あの…あまりにも突然でパニック状態ですが、只今紹介に上がりました、本日よりrainbowさんのマネージャーに配属されました、菊池麻桜と言います。マネージャーと言っても、ダンス担当も込みですが」
「あ、そうそう!今回はマネージャーもされるんですが、同時にダンス担当でもあるんですよね」
「「えー--!?」」
開場がどよめく。
「はい、そうなんです」
すると玖瑠美は何か閃いた様子。
「そうだ!私達もそのダンスというのを見た事ないんで、少しだけ見せる事って出来ます?」
その発案で再び会場が沸く。
「えー、無茶振り過ぎません?(笑)」
「良いじゃないですか?折角なんで、大会に出た曲とか」
「「見せてー」」「「踊ってー」」
開場もボルテージが上がり、引けるに引けない状況になった菊池さんは
「もう‥わかりましたよー。音楽探りますのでちょっとだけ待ってもらえます?」
そう言いながらスマホを取り出して曲を探す。その素振りで再び会場が沸く。
「ありがとうございます。因みに午前中にね、ダンス担当というのを知って、大会に出てるってのも聞いてんですけど、最高順位は?」
「一応、学生時代の学生部門で全国ベスト4になったのが最高順位で、社会人からはまだ出てないんですが」
「「凄い」」
一応玖瑠美だけマイクを持ってる訳ではなく、私達のヘッドマイクも生きている。その中で会場がどよめく中でメンバーもやまびこの様にそう声を出す。因みに、前担当の夢野さんも前に全国に行った経験がある凄い人なんだけど、その夢野さんでさえ学生時代は地区大会2位までが最高だったらしい。この時点で単純に夢野さんより凄い事になる。
「凄くないですか?なんで社会人になって試合に出てないんですか?」
すると菊池さんはスマホを操作しながら、
「単純に学生時代に燃焼しちゃったんです。後、学生と一般部門だと、比べ物にならないレベチなんです。過去に学生時代に上位当たり前の人が一般部門では活躍出来ずに埋もれていくくらい、上位に上がるのは狭き門なんです。やっぱり一般の方が学生に比べて年齢幅が広い分、全国の猛者が居るんで私はそれが怖くてですね、いつかは挑みたいと思っているんですが」
確かに夢野さんも同じ事言っていた。その夢野さんは社会人になってから初の全国でベスト16が最高。しかもその全国の切符は不戦勝で手に入れた切符らしく、実際に全国で勝負した時に天と地の差を味わったらしい。その後5年間色んな大会に出場したんだけどそのベスト16が最初で最後。なので、実質自分が最高でも地区大会レベルだという事に納得し、それ以降は講師という道を選びんで以降大会は出場は辞めたらしい。それくらい厳しいというのは聞いていた。
「へー、ていうかダンスとなると凄く流暢ですね」
玖瑠美がそう言うと我に返ったかの様に菊池さんは
「え、あ、すみませんなんか」
「いえいえ、よっぽどダンスが好きなんだなって感じました」
「好きなんですよねーやっぱり」
そう言って頭を撫でて照れ隠しする。
「じゃーダンスの方なんですけど、折角なんで『rainbow‐修正版‐』のダンスを1コーラスだけでもいいなら」
「お?それなら原曲を流しましょうよ?」
「そんな、態々…」
恐る恐る菊池さんが言うと、玖瑠実が音響さんのに合図を送る。私達もそれ合わせて音響さんを見ると、オッケーの合図が出た。
「あ、オッケーが出たみたいなんで、菊池さんのタイミングでお願いします」
「すみませんなんか私の為に…、じゃーちょっと、手荷物を預けていいですか?」
そう言うと菊池さんはポケットから手荷物を玖瑠実に預ける。そして、深呼吸をして軽く身体を慣らす為に準備運動をする。30秒くらいだろうか。運動を終えると、『rainbow‐修正版ー』の入りのポーズをすると”お願いします”と一言音響さんに向かって合図を送る。そして曲が流れる。
「はい皆さんも手拍子をお願いします」
玖瑠実が気を利かせてお客さんに手拍子をお願いする。そして、曲が流れると会場のボルテージが上がる。下手すると私達より歓声が大きく感じる。そして踊り出すとより一層歓声を浴びる。それもその筈で、手先から足先までの動きが完璧で、これぞ完コピという感じで披露する。
「凄い…」
正直嘗めていた菊池さんのダンス力。しかもキレだけではなく、女性らしさというか、わかり易く言うとバレエを感じでしっかり指先が伸びていて、正に今私達に足りない部分だ。そう思いながらあっという間に1コーラスが終わった。それと同時に温かい拍手が会場に鳴り響く。
「「凄ーい!」」
玖瑠実も含め、メンバー全員が口を揃えてそう言った。
「ありがとうございます。凄いですねー、なんかもう自分の曲にしてた感じがします」
玖瑠実が代表して感想を言う。
「いえいえ、こちらこそありがとうございます」
「今後はこの菊池さんが我々のマネージャー兼、ダンス講師担当になりますので、宜しくお願いします。最後に何か一言ありますか?」
すると菊池さんはマイクを持って
「そうですね、ファンの期待を裏切らない様にはしたいと思います。今日初仕事でこんな事になるなんて思いもしませんでしたが、こんな菊池麻桜を宜しくお願いします」
そう言うと深々とお辞儀をし、それに合わせて会場内に完成と共に拍手が起きる。
「それでは休憩もここまでにして、本家の踊りを再開としますか!”晴組”?元気はあるかーーー!?」
「「うぉー-----」」
玖瑠美がそう言うとさっきまで拍手だったのが、一気に歓声へと変わる。菊池さんはこの一言を聞いてそのまま舞台袖へと帰って行った。このファンとの一体感。これも私達rainbowファンの持ち味。因みに今となって伝える晴れ組とは、私達rainbowファンを意味する。rainbow、つまり虹は天気雨で掛かる事から、雨組=スタッフ、晴組=ファン、虹組(別名:rainbow)=私達と表しており、要は『雨と晴れが揃った時に虹が輝く』という意味からこういった名付けになっている。個人だとファンという言い方だが、団体を晴組と言っている。
そうして、残りの一時間のライブを無事に終えて楽屋に戻ると、菊池さんと島田さんが片付けを行っていた。
「「お疲れ様でーす」」「お疲れー」「お疲れ様です」
私達、島田さん、そして最後に菊池さんの順で挨拶をする。すると玖瑠美は真っ先に菊池さんの方に行き
「菊池さん。さっきの急な呼び出しは申し訳ありませんでした」
「あーいえいえ、いつかファンの方にも挨拶しないとなと思っていたので丁度良かったです。まぁ突然すぎて緊張したんですけど(笑)」
「ちょっと菊池さんにドッキリ感を出そうと思ってしてたんですが、ダンスまでやらせるつもりはなかったので本当に申し訳ないですー」
菊池さんは優しく”いえいえ”と言いながらそれでも目の前で必死に謝る玖瑠美。
「クルミン、別に良いって言ってるから良いんじゃない?結果的に菊池さんの紹介もライブも上手くいったわけだから、正解だったんじゃないの?」
そういう私。
「咲ちゃんの言う通りだよ。晴組にも認知しただろうし」
乗っかる有希。その有希はもう既に机に置いてある茶菓子を食べながら着替えていた。まぁ、有希のルーティーンでもあるんだけど。
「そうですよクルミンさん。最初は『は⁉』とは思いましたけど、しっかりと紹介と特技などをさせて貰えたので、今となっては有難いとしか思ってません」
それを聞くと玖瑠美は安堵したのか、”良かったー”と胸を撫で下ろした。こうして無事にライブも菊池さんの紹介も終えた。
そして帰り
「また明日ね」「「また明日」」
私は、いつもの駅に送ってもらい、メンバーと別れた。
「さて、西君を探そう」
そう独り言を言うと足早に駅構内に歩き出した。実はライブ終わりに西君から『渡したい物があるから駅に付いたらメールして』という通知が来てて、それを受け取りに動いていた。到着した旨を伝えると、秒で返信が来て『東口のトイレ近くに居ます』との事。なんだろうと思いつつも、男子からのこういった誘いは初めてだった為、内心ワクワクとバレないかどうかの瀬戸際で興奮する自分が居た。
場所は確か東口トイレって言ってたけど…
あまり迷って時間をロスするのは還って怪しまれる為、急ぎ足で探す。するとトイレ先の通路を過ぎた途端、
「咲良さん」
と小声で私を呼ぶ声が聞こえた。恐らく西君だと思い、私は振り振り帰って聞こえた方向を見るが誰もいない。気のせいかなと思いながら戻ると、
「咲良さん、こっち」
左を見ると、丁度倉庫へ繋がる小さな通路の死角部分の暗闇に西君は居た。
「わかりずら(笑)」
私はそう言った。すると西君は
「ごめんごめん、渡したいものはあるにしろ、何処で渡せばいいか分かんなくて、ほら、無闇に大勢の場で渡せば色々と危険でしょ?だから‥」「だからここにしたの?」
「‥そうです」
静かにそういう西君。
「んで、アイドルを呼び出して渡したい物って?」
本当は嬉しいのに素直になれない私。ちょっと上から目線でそう言うと、思い出したかの様に右手の袋から小さな袋を取り出し”劇場近くのガチャガチャで当たったんだ”と言いながら手渡した。
「ガチャガチャ?意外、そんな所行くんだー、開けていい?」
そう言うと西君は頷く。
中身を開けると、そこには可愛い猫が足をクロスして立っており、両前足でハートの形っぽいのを半分を持っている。
「いゃん可愛い、ありがとう。凄く嬉しい!」
お世辞とかではなく、これはマジな思い。何故かと言うと、男子からというか、特に彼氏からのプレゼントは何気にお初かもしれない。そう思うと本当に嬉しさがあった。
「良かったー」
彼はそう言うと胸を撫で下ろした。私は嬉しさと可愛さでそのストラップを眺める。気になる事として、この文章の冒頭でも言っている通り、形的に半分っぽい所。私は思った事を彼に聞いて見る事にした。
「ねぇ、見た感じは半分っぽいけど、もしかしてお揃いだったりする?」
「うん、お揃い」
そう言うと、先程このストラップが入っていた同じ袋から半分を取り出し、”何ならくっつけてみようか?磁石だから”と言いだし、私のとくっつけて来た。すると磁石でくっ付いて見事なハート持った2匹の猫が出来上がった。
「まぁ可愛い。ありがとう。でもなんで態々プレゼントなんて準備したの?」
私は不思議と疑問に思っていたので西君にそう聞いて見た。すると西君は、くっ付いていたストラップを外した後こう言った。
「今まで買ってあげたりとか、こういったプレゼントとかカップルになってした事なかったなぁと思ってね。けど、プレゼントと言ってもデートとかまだしてないから何が好きとか良く分かんなくて。まぁファンだからある程度の好き好みは知ってるけど、いざプレゼントとなるとね。だから無難といったら失礼だけど、お揃いのストラップにして、しかもちゃんとしたお揃いだと、変に怪しまれるかなって思って敢えて片方ずつのにしたんだ」
「でもこれでも、このガチャガチャがあればわかっちゃうんじゃ…」
私がそう言うと、西君は自信もって
「それがさ。このガチャガチャは運試しみたいな感じで、400円で少し高値だけど、その代わり2回出来て、運が良ければお揃いが出るっていうやつだったんだ」
「それで出たって事?」
「そう!これはすぐさまプレゼントしたいと思って、運が覚める前にホヤホヤで渡したかったんだ」
「ウフッ、何よホヤホヤって(笑)」
「ほら、良く言うじゃん?疲れた日はその日の内にって」
「それは入浴剤の話じゃん(笑)」
私達は笑顔で話す。こんなに二人で話したのはいつぶりだろ?仕事で一緒になった以来、メールでのやり取りしかやってこなかった。だからこそ、凄く新鮮で楽しくて。何より凄く幸せを感じた。
「あーでも良かったー、態々呼び出しといてガチャガチャだから、下手すると怒るかと思った」
確かに、普通のカップルでガチャガチャがプレゼントなら怒る人もいるだろう。現にテレビかなんかで『彼氏のプレゼントがガチャガチャってどう思う?』的なのがあって、当時の私はどちらかというとあり得ない派であった。でも、今回は何故か嬉しかった。多分、カップルでもあるし、好きな人からのプレゼント。しかもただのプレゼントじゃなくて、初めてのプレゼントだからかも知れない。そもそも、テレビの時は好きな人とか出来た事なかったから、そういう派だった可能性もある。だから私は素直にこう話した。
「なんでよ(笑)。確かにこれが何回も続けば流石に怒るかも知んないけど、好きな人からのプレゼントで、しかもこれって西君も言ったけど、初めてのプレゼントでしょ?しかも配慮もしてくれているのにお揃いっていう所に凄く有難いし、私の事を考えて下さってる感があってとても嬉しいんだよ?だから素直にお礼を言わせてください。ありがとうございます、大切にします」
そう言って私は深々と頭を下げた。すると西君は少し戸惑いながら
「あ、いえいえどういたしまして。まさかそんなに喜んでもらえるとは思ってもいなかったので、その気持ちも凄く嬉しいし、取った甲斐があります」
彼がそう言った後に私は頭を上げてお互いで笑顔を交わし、
「じゃー、流石にずっとここに居るのは怪しまれるかもしれないから、帰りたくないけど帰るね」
すると、我に返ったかの様に西君はハッとした表情を出し
「そうっすね、長居いし過ぎましたね」
そう彼は言った。私は貰ったのは良いのだけど、そのプレゼントの直し所に困り、悪いけど西君に許可を頂き、バッグ内にそのまま突っ込んで収納しようとした所、西君からこれも配慮で、態々ストラップが入っていた袋を私にくれて、それに居れてバッグ内に収納した。それと同時にお礼にキスしてやろうと密かに思うが、
「それじゃ、帰りますね。態々足を運んで頂きありがとうございました」
何も知らない西君はそう言って立ち去ろうする。
「待って」
私は思わずそう言って立ち去ろうとする彼を引き戻し、もう今しかないと思い、私は思い切って頬にチュッとキスをした。
「え…」
当然西君は戸惑う。
「ウフフ、プレゼントのお礼です。本当にありがとうございました」
そう言ってただ茫然と立ち尽くす西君を他所に、私は振り向きバイバイをしながら改札口にに向かった。
あー緊張した!
キスに対して凄く緊張したけど、出来た事に満足して帰宅した。
to be continued…
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