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「うわぁ待ってトルテさん、本気であけんの?」
「うるせえなァ、覚悟決めろよ。俺なんか畳専用の画鋲であけたんだぞ」
ある日の夜、キルシュトルテと弐十はキルシュトルテの自宅にて向かいあわせに座っていた。キルシュトルテの手元には銀色に光るニードルが握られている。
少しだけ汗ばんだ手で、キルシュトルテの手首を止めるように掴んだ弐十は、眉間に力を入れたままキルシュトルテの顔を見た。視線がバチりと交わり、なんとなく逸らしてしまった。
事の発端は、数時間前に遡る。
ガヤガヤと騒がしい居酒屋で、弐十とキルシュトルテは特段珍しくもなく2人きりで飲んでいた。……といっても、弐十は薄いジュースのようなサワーを1杯飲んだきりで、それ以降はただの烏龍茶を飲んでいるだけなのだが。
前回の配信はどうだった、事務所でこれからやりたいこと、面白かったゲーム、あの活動者は────などと、尽きない話の最中、弐十の目線はふとキルシュトルテの耳元に固定される。
「……だから、俺はさぁ………なに、弐十くん。聞いてんの」
「聞いてる聞いてる。ねぇトルテさんってそれあけたのいつ?」
弐十がキルシュトルテの話を適当に流しながら、酒で少し赤みを帯びたキルシュトルテの耳を指さす。キルシュトルテ自身も、自分の耳たぶに触れながら怪訝そうな顔で弐十を見た。
「聞いてねえじゃん。……えー……ピアスのことぉ?もう覚えてないけど……」
「痛かった?」
弐十はマイペースに、ゆったりとした動きで目の前の卵焼きをつつき、少し首を傾げた。弐十にもピアスは開いているが、せいぜい耳たぶにひとつとインダストリアルがあいているくらいで、キルシュトルテ程の量があいているわけではないのだ。
「そりゃ痛かったよ」
「どれくらい?」
「知らねえよ。つかお前もあいてるだろ。あれ、もしかして弐十くんって注射とかでも怖がるタイプ?」
やけに根掘り葉掘り聞いてくる弐十に対して、キルシュトルテが痺れを切らしたように言う。無意識に自分の耳をいじっていた手を止めて、ハイボールを一口煽ったあと、揶揄うように弐十に聞いた。
「いや、注射は平気」
弐十はケロッとした顔でそう言うと、少しだけ姿勢をなおす。着てきたパーカーの布ズレの音は、居酒屋の喧騒にかき消された。
「じゃあいけんじゃん」
「……ピアスは別じゃない?」
「なんでだよ」
笑いながら酒を煽るキルシュトルテを見て、弐十はしばらく黙り込んだ。
そして、ぽつりと小さく口を開く。
「俺、もう一個あけようかな」
「本気?」
「うん」
「どこ」
「ここ」
弐十が自分の右耳を指す。
キルシュトルテは少しだけ身を乗り出して、その位置を眺めた。まだ穴のあいていない、まっさらな耳。そこに弐十がニードルを押し当てるのを想像して、それから思いついたように声をあげる。
「……俺がやってやろうか?」
「え?」
「だから、俺があけてやるっつってんの」
キルシュトルテが放った何気ない一言に、弐十は少しだけ目を丸くして、それから笑った。弐十にしては珍しく、はにかむような笑いだった。
「いいね、それ」
そうして会話は流れ、弐十はその会話をただの雑談として処理したつもりでいた。その場のノリでキルシュトルテが「あけてやる」と言っただけで、本気でこうなるなんて思ってもいなかったのだ。
それなのに、弐十とキルシュトルテは居酒屋を出るとそのままドン・キホーテまで向かいニードルとピアスを揃え、あれよあれよと今、弐十の耳に新たな穴をあけようとしている。
「お前が言い出したんだろ」
「いや、そうだけど……」
キルシュトルテが大きくため息をついて、弐十の耳をぐにぐにと触る。よりにもよって14ゲージのそれが耳に近づくのを察知して弐十が反射で身を捩った。
「……待って」
「何だよ」
「……やっぱ怖い」
「お前ピアスあけたことあんだよな?」
「それとこれとは別!」
大袈裟に弐十は飛び上がり、ぐぅっと飼い主を嫌がる子猫のような動きでキルシュトルテの身体を押した。
「何が別なんだよ」
「自分でやるのと、人にやってもらうのは違うんだって!」
「知らねえよ」
キルシュトルテが片側の口角を上げて笑う。不覚にもそのいたずらっぽい表情にキュンときてしまって、弐十はなんとも言えず喉を鳴らした。
「どうすんだよ」
「……もうちょっと心の準備を」
「はいはい」
キルシュトルテが意外にも優しげな声でそう返事したあと、ニードルを机の上に置く。鼻から息を吐いて、座り直し、緩慢な動きでキルシュトルテの指が耳たぶに触れた。
「……っ」
弐十がビクリと肩を跳ね上げさせ、縋るようにキルシュトルテの服を掴む。その挙動を見たキルシュトルテが、呆れたように口を開いた。
「まだ何もしてねえだろ」
「いや、ちが、その……触られると思ってなくて」
「どういう意味だよ」
キルシュトルテが苦笑して、そのまま弐十の耳をゆるりと撫でる。
耳たぶをすりすりと指先で弄られる感覚に、弐十の首筋へゾクゾクとした熱が走った。敏感な場所を撫で回され、跳ね上がりそうになる心臓を抑えつけるように、弐十はギュッと目を閉じる。
「……なんか、トルテさんに触られてると、変にドキドキしてさ……」
「うっわ。 なにそれ。照れてんの?」
鼻で笑う声がすぐ近くで聞こえた。弐十が目を開けると、ニードルを置いたキルシュトルテがじっとこちらを見下ろしている。その瞳には、どこか意地の悪い、けれど熱を孕んだ光が宿っていた。
「……ア、じゃあ分かった。もっと別のことに意識逸らせば痛くないんじゃね?」
「え……?なに、別のことって……」
言い終わる前に、キルシュトルテがガシッと弐十の腰を引き寄せた。
バランスを崩した弐十の体がカーペットの上に押し倒される。視界がぐるりと回り、あっという間に見上げることになったキルシュトルテの顔が、いつもよりずっと近かった。
「痛いの嫌なんでしょ。……気持ちいいことしながらあけたら、痛みなんて気になんなくなるんじゃない?」
「っ……! バカ、何言って……ん、ぁっ……!」
拒絶しようとした口唇は、強引に覆い隠された。
ほんのり酒の匂いが混ざった熱い吐息と、深く叩きつけられるようなキルシュトルテの口づけ。突然の出来事に弐十が身を捩ると、キルシュトルテは両手首をぐっと床に押さえつけ、さらに深く舌を滑り込ませてくる。
「ん……ふ……っ、トルテ、さん……待っ……」
「今度は待たない。俺がそんな優しくないの知ってるでしょ」
唇が離れると、そのまま首筋から鎖骨へと熱い痕を残すように唇が落とされていく。服の中に滑り込んできたキルシュトルテの指先が、熱を持った肌をなぞり、不意に小さな突起を強くつまんだ。
「ひ……っぁん!?」
「あっは。……随分良さそうじゃん」
「ば、かじゃないの……っ、んぁ……!」
耳元で囁かれる低く甘い声と、肌を這う手つきに、弐十の頭の中はどんどん熱いモヤで満たされていく。抵抗しようと伸ばした手は、いつの間にかキルシュトルテの背中に回っていた。
乱暴に服を脱がされ、下半身があらわになる。熱を持った指先が滑り込み、準備の浅い肉腔をゆっくりと押し広げていくと、弐十は背中を小さく反らせて喘いだ。
「あ……っ、トルテさ、そこ……ダメ……っ」
「ダメじゃないでしょ、弐十くん。……力抜けよ」
指が二本、三本と増え、熱い内壁をくちゅくちゅと解いていく。指が奥の固い部分を掠めるたび、弐十のつま先がピンと伸び、身体がピクピクと跳ねた。もうピアスの恐怖などどこかへ吹き飛び、目の前の男が与えてくる圧倒的な快楽に飲み込まれそうになっていた。
キルシュトルテが指を抜き、代わりに自身の熱い塊を宛てがう。
「……いれるぞ」
「ん……っ、きて……トルテさん……ぁ”っ!!」
ゆっくりと貫かれていく感覚に、弐十は喉を鳴らした。満たされていく充足感と、体を内側から押し広げられる強い刺激に、目がじんわりと潤んでいく。キルシュトルテが大きく腰を突き動かし始めると、部屋の中に濡れた肉の合わさる音と、二人の荒い息遣いが響き渡った。
「は……っ、んぉ”っ♡あ”っ、激し……っ!♡♡」
「っふ……顔、すご……弐十くん、今なら痛くないんじゃない?」
キルシュトルテが腰を動かす手を緩めないまま、片手をそっと伸ばし、机の上から消毒済みのニードルをつまみ上げる。
快感で視界がゆらゆらと揺れる中、弐十は視線の端で銀色の輝きを捕らえた。
「え……っ、待っ♡♡今……ぁ”んっ!? そ、こっ、♡強い……ぃっ!」
「動くなよ……位置ずれる」
腰を奥深く突かれた瞬間、身体が強張る。その隙を逃さず、キルシュトルテの冷たい指先が弐十の右耳を強く挟み込んだ。 弐十が怯えたように瞳を揺らすが、表情の中に恍惚さが色濃く残っていた。
「ま、まって……ぇ♡トルテさっ、や、あ”……っ!」
「覚悟決めろって言っただろ」
キルシュトルテがぐっと深く腰を突き上げると同時に、鋭い先端が右耳の上方にある皮膚と軟骨を貫いた。
「────っっ”“〜〜〜〜〜〜っ!?!!?」
弐十の声にならない悲鳴が上がる。耳を切り裂く一瞬の鮮烈な激痛。しかし、それと同時に下腹部から脳天へと突き抜けるような強い快感が押し寄せ、痛みと快楽の境界線が引きちぎられるように混ざり合った。
「あ……が、?!♡♡っ、んぁぁぁぁっ……!!!」
「はっ……あいた」
ニードルが貫通し、間髪入れずに銀色のストレートバーベルが押し込まれる。 耳がジンジンと焼けるように熱い。けれど、体の中で脈打つキルシュトルテの熱さと、耳元の痛みがリンクして、弐十の頭の中は真っ白な快感で弾けた。
視界の端で涙が零れているのも構わず、キルシュトルテへへらりと笑った。
「ぁ……っ、いたい、痛いけど……っ、なんか……すげぇ、あは、気持ちいい……っ」
「変態すぎるでしょ、お前。……でも、すげ、可愛い……」
貫通した穴から滲んだ一滴の血を、キルシュトルテが愛おしそうに舌で舐め取る。その仕草があまりにも優しく、そして淫らで、弐十はキュンと胸を締め付けられた。
「んぁっ♡♡……!♡♡ トルテ、さん……っ、んぉ”“?!♡♡、あ”ーっ!……ん♡♡♡」
一層深くなった腰使いに、弐十は新しくあいた右耳の痛みを快楽のアクセントにしながら、キルシュトルテの首に必死にしがみついた。
翌朝。
薄明るい部屋の中で、弐十は身体の節々の痛みと、右耳の不快な熱っぽさで目を覚ました。
隣を見れば、満足そうな顔で弐十の腰を抱きかかえたまま、スースーと寝息を立てているキルシュトルテがいる。
「……ん」
そっと右耳に触れてみると、そこにはしっかりと銀色のピアスが収まっていた。触れると少しだけじんわりと痛む。
弐十の脳裏に昨晩のことがよぎり、顔が熟したトマトのように赤くなる。痛かったはずなのに、途中でどうしようもなく気持ちよくなってしまった自分が悔しい。
弐十は赤くなった耳を撫でながら、ぐっすり眠るキルシュトルテの眉間を、ふにふにと指先でつついた。
灰依瀬 @ 不定期投稿
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コメント
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あおいです🌷 読ませていただきました。 「やっぱ怖い」って正直に言っちゃう弐十くんと、ノリで始めたのに真剣な顔でニードル握ってるキルシュトルテさんの距離感、すごく好きです。居酒屋で「俺があけてやろうか」からドンキ行って本当にやろうとしてる流れ、勢いと緊張のバランスが絶妙でドキドキしました。続きすごく気になります…!