TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する


「だざい……うちもう無理だぁ」

梨奈は冷たい地面に横たわり、虚ろな目で太宰を見上げていた。唇は乾き、血の気のない指先が草を掴もうとしては、すぐに力を失った。


太宰は何も言わなかった。

ただ、彼女の隣に膝をつき、彼女の額にかかった髪をそっと払った。


「……」


「なにかいいなって……」

梨奈の声はかすれていた。

ゴホッ…ヴ…ゲホッゴ…

喉の奥から血の混じった咳がこぼれる。


「もう喋るな!」

太宰の声が震えていた。怒っているわけではない。

ただ、彼女の命の灯が、確かに消えかけているのを感じていたからだ。


だが、梨奈は微かに笑った。

その笑みは、どこか懐かしく、幼い日の彼女のようだった。


「まえ……死んだら何したいのって聞いたよね」


「嗚呼……」

あれは、たしか初夏の川辺だった。

冷たい麦茶を飲みながら、梨奈はぽつりとそんなことを言った。


「うちはね、ゆーれいになって、天国には行かないんだ〜」

彼女はそう言って、くるくる回りながら笑っていた。

あの時の笑顔が、今、枯れかけた花のように再び目の前に浮かぶ。


「君は黄泉の国なんて信じてるのかい?」


「信じてないよ〜。……でもさ、もしあるなら、うち、行かないんだよ」

梨奈は目を細めた。

「だって、だざいがここにいるでしょ……? だから、離れたくないだけ」


太宰は、答えられなかった。

唇が何かを言おうとしても、言葉にならなかった。

彼女の手を握ることでしか、今は想いを伝えられなかった。


「……幽霊になって、夜の道をふらふら歩いてさ。雨の降る日は軒下に立って、道行く人を驚かせて……」


「……悪趣味だな」


梨奈は小さく笑った。

それが、彼女の最後の笑顔だった。


空が泣いているように、ぽつり、ぽつりと雨が降り始めた。

太宰は動かない梨奈をそっと抱き寄せた。

彼女の体はもう、温もりを失いつつあった。


だが——その瞬間、太宰の頬を何かが撫でた。

風ではない。

雨でもない。

それは、あの日のようにふわりと軽く、彼の涙と共に流れた。


「……本当に、幽霊になったのか」

太宰は空を見上げた。

薄曇りの空の向こう、どこかで梨奈がまた、ふわふわと笑っている気がした。


loading

この作品はいかがでしたか?

93

loading
チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚