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翌日の朝、俺が目を覚ますともう都希くんは起きていて、帰る準備をしていた。
「千景、おはよ。」
「おはよ。もう帰るのか?」
帽子を被ってもう部屋から出て行こうとしている。
「うん。…千景、僕もうここには来ない。」
「来ない?どういう事?」
「今日でこの関係は終わり。だから終わりにして。」
一気に目が覚めた。
「いや、だって昨日まで普通に…めちゃくちゃ楽しかったのに…。どうして。」
「何言ってるの?セフレなんて飽きるまでのただの遊びだよ。何人も相手がいるから本当は予定も組みづらいし、そろそろ整理しようと思って。だから千景はバイバイ。」
「バイバイって、なんだよそれ…。」
「そういう事だから。もう連絡して来ないで。コレも返すね。」
都希くんはネックレスを外してテーブルへ置くと、部屋から出て行った。あまりの呆気なさに理解が追いつかず茫然としてしまった。
ショック受けてる場合じゃないだろ!!寝巻きのまま大急ぎで外へ飛び出す。エレベーターなんか待ってられない。非常階段を一気に駆け降りてエントランスのところへ走って行った。
まだ視界に都希くんの後ろ姿が見える。
全力で走った。振り向かない都希くんの腕を掴んで引き留める。振り向かせたけど、帽子で表情は全く見えなかった。
「なぁ!!まだ俺は何にも納得してない!何で急に出て行くんだよ!勝手に終わりなんてさせないからな!」
都希くんは何にも答えてくれない。
「都希…何で?何か言ってくれよ…。」
「千景…。僕は嘘つきだ。…でも君も嘘つきだ。手を離して。仕事行く時間でしょ。」
「嘘つき?」
「ここ、外だからやめて。じゃあね。バイバイ。」
早口でそう言うと、俺が掴んだ手をゆっくり解いてそのまま行ってしまった。
スマホも財布も持たずにこんな格好でこれ以上追いかけても何て言って良いのか分からない。今夜、そうだ。今夜きっとバーに行けば都希くんにまた会える。
そう思って仕事に行った事が、間違いだったと気付かされるのはそのすぐ後だった。
◆◆◆◆
今朝の出来事で仕事に集中出来ずにいた。すると昼間のまだ明るい時間帯にマスターから電話がかかって来ていた。会議中だった為折り返しの連絡をすぐ入れる。
『あ、千景くん?!都希そっち行ってる?!』
「いや、今朝までは一緒でしたけど…。出勤ってまだ後ですよね?今は保育園じゃないですか?」
『それが、バーのカウンターに手紙があって、急に辞めるって。ごめんなさいって書いてあったんだよ!連絡したけど全然繋がらなくなってて。保育園かアパートに居ないかな?』
「な、んで…マジかよ…。すみません。なんとか急いで仕事上がったら知ってる場所探してきます!また連絡しますから!」
『頼むよ。』
すぐに都希くんへ何度も電話をした。
でも繋がらなかった。
着拒されている。
あいつ!何考えてるんだ!!
俺は大急ぎで仕事を切り上げると職場から出た。そのまま都希くんが働いている保育園へ向かった。インターホンを鳴らすと保育士さんが対応してくれた。「知り合いの東都希の事で園長先生にお伺いしたい事がありまして…。」園長先生が出て来てくれた。「他の保護者の目もありますので、こちらへどうぞ。」そう言って空いている部屋へ案内してくれた。
「先生、都希はこちらで働いていますよね?大切な友達なんです。急に連絡がつかなくなって…」「そうですか…本来なら個人情報を教えてはいけない決まりです。でも都希先生を心配してくれる人がいたのね…。良かった。まだ周りの保護者には伝えていませんが、都希先生は先月一身上の都合で退職されました。」
「え?退職??どうしてですか?!」
「理由は話してくれませんでした。私も引き留めたんだけど、本人の強い希望だったので。」
「園長先生、これ、俺の名刺です。ご挨拶もせず申し訳ありません。俺、日渡千景と言います。都希くんとは昔からの知り合いで、でも、俺は昔から知っている事を本人にはまだ伝えていないんです。ちゃんと言わなくちゃいけないのに…。突然来て、本当にすみませんでした。もし、都希くんから連絡が来たらすぐ俺にも教えて下さい。お願いします!」
早々に保育園から出て、都希くんのアパートへ向かった。部屋には鍵がかかっていた。
普段なら保育園からそろそろ帰ってくる時間だ。
「あの…そこウチなんですけど…。」
知らない男性が声を掛けて来た。
「え?」
「ほら。」指差した先には知らない苗字の表札が入っていた。
「あ、間違えました…。」現実に頭が追いつかない。今の今まで「来てたんだ。」そう言って笑う都希が来ると思っていた。
マスターに連絡をした。
『千景くん?!どうだった?!ツキいた?!!』
「…いえ、保育園は退職していて、アパートは他の人が住んでました。先月まではいたのに。いつ引っ越したのか…。着拒もされてるし、都希…どこにもいないです。」
『は?!退職?!引っ越し?!なんで…。』
マスターも言葉に詰まっていた。
バーに行くと彰くんもオロオロしていた。都希が行きそうな宛は何にも無かった。
「千景くん、壮一って覚えてる?」
「はい。都希の部屋に来たあいつ。」
「壮一に連絡したんだけど、来てないし、先月から連絡は取って無いから何にも知らないって。なんかすごく落ち込んでた。」
「そうですか…。あ、じゃあ、あの女の子は?たまに来てた。」
「あー、ジュリちゃんね。お店分かるかも。」
ジュリという女が働いている店に来た。エレベーターで上がり店内に入ると「初回のお客様ですか?」と黒服に聞かれた。
「はい。あのジュリって子に会いたいんですけど。指名で。」
「あージュリちゃんですね、もういないんですよ。」
「え?でも入り口のポスター…。」
「申し訳ありません。先月急に辞めたので、まだ降ろして無いんですよ。かなり人気だったんですけどね。他の子で気になる子はいらっしゃいますか?」
「じゃあ、いいです。帰ります。」
黒服には何も聞かなかった。でもジュリもいない。都希くんはジュリって女といるのだろうか…。俺って都希くんの事、本っ当に何にも分かってなかったんだ。昨日は昼から一緒に居て、俺の高校のアルバム見ながら大笑いされて、都希くんが恋人ごっこをしたいって言い出して、2人で告白し合って、一緒選んだご飯を食べて、ずっと隣に居たのに。夜はお互いの温もりを感じながら恋人同士の様に抱き合いながら眠った。あれは、幸せな夢だったのかな?このまま都希くんと付き合えるんじゃないかと思うくらい幸せだった。それともこれが夢なのか?「バイバイ。」そう言った都希くんの表情は分からなかった。これは全部現実だ。あの幸せな時間も、この虚無感も。頭の中も足元も全てがグラつく。立っていられない。
その日は記憶が無くなるくらい酒を飲んだ。そうしないと、昨日一日中都希くんと一緒に居たこの場所に居られない。都希くんに会いたくて、会いたくて、会いたくて苦しい。悲しくて寂しくてシラフじゃ眠れない。目を瞑っても都希くんとの思い出ばかりがループした。死にてぇ…。この気持ちのまま死んだら今すぐ都希くんのところに飛んで行けるのに…。そんなくだらない事も考えながら、いや、自殺なんてしたら死んだ場所に縛り付けられていつか都希くんがそこを通りかかってくれるまで待つ事になんのかな。すぐ来てくれれば良いなぁ。あ、死んだら都希くんが戻って来た時に抱きしめられないか…。…戻って来るのか?どこにいるんだ?ねぇ…どこにいるの?どこまで戻ったらやり直せる?戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい…。死んだ後の話しにまで飛躍させて女々しく自問自答を繰り返している内に気を失った。
まるで都希くんとの再会すら始めから無かったかの様に、俺の世界からまた都希くんが消え去った。