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「…ごめん。俺、心に決めた人がいるから、君とは付き合えない」
「そうだよね。ごめんね!呼び出しちゃって。じゃあ」
そう言って女子は足早に教室を出ていった。
(噂には聞いてたけど、本当にあぁやって断るんだ…)
明日香はそんなことを思いながら、教室に入る。
「晃河、また告白されたの?」
明日香がそう言うと、晃河は驚いた様子で明日香の方を見た。
「明日香…なんで」
「忘れ物取りに来ただけだよ」
明日香は忘れ物を机から取り出してそう言う。
「あぁ…そっか」
晃河はそう言ってカバンを持ってドアに向かって歩き出す。
(帰っちゃう…)
晃河に帰って欲しくないと思った俺は咄嗟に口に出す。
「心に決めた人って昔の俺の事だよね?」
「え?あぁ、うん。そうだけど」
そう言って晃河は足を止め、俺の方を見た。
「俺が男だって知っても使ってんの?その断り文句」
「そうだよ。なんかまずかった?」
「いや、別にダメとかじゃないけど…晃河はその…彼女とか作る気ないの?」
勇気をだしてそう聞いてみる。
「別に。彼女はいらないかな」
「へぇ〜。なんで?」
「なんでって…」
しばらく沈黙が続いた後、晃河は口を開く。
「…そういう明日香はどうなの?彼女とか」
「俺も別にいいかな。まぁ、晃河となら付き合ってもいいけど」
明日香は冗談交じりにそう言う。
「またそう言うこと…」
そこで晃河の言葉は止まり、晃河は下を向いた。そのまましばらく沈黙が走る。
「晃河?」
そう言って明日香が晃河に近づいた時、晃河の顔から1粒の雫が垂れた。
(…晃河、泣いてる?)
「晃河、どうしたの?」
「やめてって言ってんじゃん」
震えた声でそう言う晃河に明日香は慌てて謝る。
「ごめん。そんなに嫌だと思わなくて」
「違う。嫌とかじゃなくて…好きになっちゃうから」
「え?」
一瞬、時が止まった。少しして、晃河はこっちを見て言う。
「あの日、明日香が聞いたでしょ。そういうことしないでって言った時に、なんでって」
「うん」
「明日香の事、好きになっちゃうから。だから嫌なの」
(晃河が俺を?…そんなの、嬉しいだけじゃん)
そう思う俺に晃河は続けて言う。
「明日香が男だって知った時、ガッカリしたの。だけど、好きな気持ちは消えなくて。まだ明日香の事好きで。俺、好きになるのに男とか女とか、関係ないんだなって」
明日香はそういう晃河の目を真っ直ぐ見て言う。
「…好きになってもいいよ。俺の事」
一瞬、驚いた顔をしたあと、晃河は俺から目をそらす。
「そんなの、無理だよ」
「どうして?」
「だって…苦しいだけじゃん。片想いとか」
(違う。片想いなんかじゃない。だって俺は、明日香のこと…)
「…片想いなんかじゃないよ」
「え?」
驚いた表情でこっちを見る晃河を明日香はそっと抱きしめた。
「…俺も好きだから。片想いじゃない」
明日香がそう言うと、しばらく沈黙が走る。明日香がそのまま抱きしめていると、晃河の体が小さく震えているのがわかった。
「…泣いてんの?」
「ん…」
明日香は晃河を抱きしめるのをやめ、晃河の顔を見る。
「晃河の泣き顔見れるのも、俺だけ?」
「…そうだね」
晃河は震えた声でそういう。そんな晃河に明日香はふふっと笑う。晃河もそれにつられてふふっと笑った。
「晃河、好きだよ」
明日香はそう言った後、晃河の口にそっとキスをした。晃河は少し驚いた表情を浮かべた後、ふふっと笑う。
「俺も好き」
夕日の光が差し込む教室は、2人の暖かい空気に包まれた。
次の日、登校するといつも通り晃河は既に登校していた。
そんな晃河に明日香は近づく。
「晃河、おはよう」
「おはよう」
いつも通りの挨拶のはずなのに、少し照れたようにそういう晃河にニヤケそうになりながらも、明日香はニコッと笑って席に座る。明日香は何となく晃河を見つめる。晃河の周りにはいつも通り人が集まっている。晃河も楽しそうに話している。
(俺と付き合ってるくせに他の人と楽しそうにしやがって)
明日香はそんな嫉妬心に駆られる。そんな明日香の隣の席に座る友達の颯人(はやと)が明日香を見て言う。
「なに嫌そうな顔で晃河の事見てんだよ。喧嘩でもした?」
「え?いや、してないけど…」
(なんなら逆に付き合ったし)
そう思った明日香は不意に笑みがこぼれる。
「あれ。今度は笑ってる。もしかして明日香って情緒不安定?」
「違うわ」
「じゃあなんでそんな表情変わってんだよ」
「今はたまたま?」
「たまたまか〜」
そこで話が終わり、明日香は再び晃河を見る。
(そういえば、付き合ったら何するんだろう…)
好きな人が出来たことはあるものの、付き合ったことは1度も無い明日香は恋人になったら何をするのかが分からなかった。
「なぁ颯人。付き合った後って何するの?」
「付き合った後?…ん〜、デートしたり、一緒に帰ったり、あとまぁ、エッチなことしたり?」
「あぁ〜…」
(デート、一緒に帰る、それと…エッチなこと…か。晃河とエッチなこと…)
少し想像してしまい、ニヤける俺に颯人が聞く。
「なに。もしかして彼女でも出来たの?」
「え?…あぁ、まぁ、そう」
明日香のその言葉に颯人は驚く。
「へぇ〜!マジか!よし明日香!今日は彼女出来た祝いに寿司でも食いに行くか!」
「なんだよ彼女出来た祝いって」
「いいじゃんいいじゃん。行こーぜ明日香〜」
颯人は椅子に座りながら明日香の方に寄ってそう言う。
「寿司だもんな。なんか食べたくなってきたわ」
「お!じゃあ決まりだな〜!」
そんな会話をしている2人の前に晃河が立つ。晃河は少しイラついたような顔で颯人を見ている。
(晃河…怒ってる?)
そんなことを思う明日香を晃河は笑顔で見る。
「ねぇ明日香。今日一緒に帰ろ?」
「え?」
(一緒に帰ってくれるのは嬉しいけど…)
「あー、ごめん。今日は颯人と寿司食いに…」
明日香が最後まで言い切る前に、晃河は机にドンッと片手を着き、明日香に顔を近づけながら俺だけに聞こえる声で言う。
「へぇ〜。恋人の俺より友達優先するんだ。」