込み上げる幸福感に胸にぎゅっと抱きつくと、彼の肩に掛かっていた着物がはらりと床に落ちた。
「……またいつか、着物を着てくださいね」
床から拾い上げて彼に手渡すと、
「では次に着るのは、結婚式でだな」
そう告げられた──。ますます幸せな気持ちに包まれて、その胸にさらにぎゅうーっと抱きつくと、
彼が「ああ、だが……、」と、ふと思いついたように口にした。
「……だが、君のウェディングドレス姿も見たいから、式は神前式にして、披露宴では洋装にしようか」
顔をほころばせて楽しげに話す彼に、「ふふっ」と笑みがこぼれる。
「はい、私も、あなたのタキシード姿がまた見てみたいですし」
社内のオフコレの際のスタイリッシュにタキシードを着こなした彼のことが思い出されると、やっぱりタキシードも着てほしいなと思った。
「私のことはいいが、君はどちらも好きなだけ着たらいい」
「うーん、でも和装もドレスもなんて、なんだか欲張りみたいですよね」
彼はそう言うけれど、実際あんまりあれこれ着ちゃったら、やっぱり困らせちゃうんじゃないかなともにわかに感じた。
すると彼が「いや」と首を振って、
「結婚式の主役は君なのだから、いくらでも欲張りで我がままになっていいんだ」
優しげに微笑むと、私の頭にぽんと手の平を乗せた。
「嬉しい、ありがとうございます。だけど私は、あなたと式を挙げられることが、一番の幸せなので」
「ああ、君との挙式は、私も考えるだけで、この上もなく幸せだよ」
いつか訪れる彼との挙式に想いを馳せると、神前式での紋付羽織り袴姿の凛とした彼の姿が浮かんで、その隣に綿帽子を被った白無垢姿の自分が寄り添って並んでいることを想像しただけで、今から胸がドキドキと高鳴ってときめくようだった……。
終(全完結)