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ライン特佐が改めて皆に説明した。
「これから小型船で沖にむかい、沖に停泊している我が軍の高速船に乗り換えます。マーサ連邦の港湾都市まで、およそ2日の旅となります。連邦に入ったのちは空路になるでしょう。もちろん我が国から直接空路でいければ早いのですが、今、空港は閉鎖中です。和が国の問題とはべつに、砂漠地帯で紛争が再発、民間機が撃ち落とされる事件が起きています。やはり現状の国際情勢を考慮すると、高速船での移動が安全と考えられます」
タクヤは聞きながら”また話長い”と思った。
まあ、それはしかたがない、軍とか役所の人って、たぶんみんなそんな感じだろう。
「そして今回は、私、ラインが、みなさんと同行させていただきます」
タクヤは、いちおう王子らしくうなずきを返した。
最初に会ったときから、タクヤは、この真面目な男に対して、違和感を感じていた。悪い人ではないのはわかる。怪我した人たちへの対応も真剣だった。しかし、同行して親しくなれるタイプではない……
全員が小型船に乗り込むと、ロープが外され、エンジンが唸った。
滑るように水路を進む。
水路は「滑るように」快適だった。
しかし水路から海に出ると、いきなり波を受け始めた。
まもなくユリが「ごめんなさい、もう無理、ゆっくりお願いします!」と悲痛な声で懇願した。
船はスピードを半分ほどに緩めたが、それで揺れがおさまるというものでもない。
ユリは床にうずくまった。
そんなユリを気づかいつつ、タクヤは、ふと近くの海中に黒い固まりがあることに気がついた。
イルカだった。
そのイルカは、近づいてくると顔を出して、早口で言った。
《何してんだ? は?》
タクヤが応える前に、やつは水に沈んだ。
そのとき、ユリが走ってきた。一瞬、タクヤは、シロに気づいたユリが喜んで出てきたのか、と思った。
イルカもそうだった。
ちらっと視界に入ったユリの姿に喜んだシロが上体をもたげた。
ちょうどそのとき、海に向けて吐き出したユリの嘔吐物が、つるつるの顔を直撃した。