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景色が見える場所を見つけた。
街の方が一望できる。
最初、僕が目を覚ました病院。
僕が働いている剣士の拠点地である剣士所。
僕が住んでいた家…僕は自然と見てしまった。
今、琥珀さんはどうしているだろう。
頬を叩き、怒鳴り、出ていったんだ。
きっと、怒っているか、もう、僕のことを気にしないようにしてるだろう。
もう少し前に行こう。
柵の前まで来た。
ふと、下を見る。
崖になっている。
ーここから落ちたら確実に死ぬだろうー
柵に、この先立ち入り禁止と描かれた紙が貼られている。
柵は簡単に越えられそうだ。
ー死んだらどうなるんだろうー
僕は、柵を乗り越えてみる。
柵の先にはもう、遮るものは何もない。
風が強く吹いている。
今、足がある所のすぐ先はもう何もない。
ー死ぬ瞬間ってどんな感じなんだろう。ー
_へへ、すぐにわかるさ。_
僕はほぼ全てから嫌われた。
もう、何も未練はない。
生きる意味がない。
僕は身体を、ゆっくり前にたおす。
終わりだ。
っ!
ふと、僕の手を、
誰かが掴んだ。
後ろに引っ張られる。
なんだ?
誰だ?
なぜ止めた?
僕は、振り返る。
そこに、ありえない人物がいた。
『え?』
長い、銅色の髪、
琥珀色の、キラキラした目。
それだけで誰かなんて、すぐわかる。
『どうして…』
どうして僕の手を引いているの?
どうして泣いているの?
どうして助けたの?
どうしてここに?
わからない。
僕は俯いた。
『こっちにきて、』
琥珀さんが言う。
僕は動かなかった。
まだ、手を握られている。
その手が、震えていた。
『こっちにきてよ…』
『・・・』
僕は、柵の中に入る。
『何を…しようと、してたの?』
琥珀さんの声も震えていた。
その声は、悲しみの中に怒りもあるように聞こえた。
『もう、わからないよ。』
何もかも、わからない。
全てがわからない。
だから、こう答えた。
『琥珀じゃ、だめ?それとも、琥珀のせい、なの?』
琥珀さんは小さな声で言った。
『もう、何も…全てが、わからないよ!もう嫌だよ!うんざりなんだよ!』
五十嵐と蒼も、僕を危険な目に合わせてたかったんだ。
『みんな、僕を見て睨むんだ!みんな、僕から離れようとするんだ!僕に冷たくするんだ!僕の過去が悪いからなんだろうなぁ!だからみんな僕を悪い人間として扱ってくるんだ!』
鷹也も如月も、無理やり剣士に入れて、利用したいだけなんだ。
『琥珀だって!きっと僕を油断させようとしてるんでしょ!あえてここで止めたのも、僕をもっと苦しませるためで、全て演技なんだろ?』
何もわからない!何も信じられない!
全てが悪く感じる。全てが悪く見える。
全てが嘘で、全てが演技で、全てが僕のせい。
なら、
『僕なんか、必要ない。死ねばそれで良いんだ。散々苦しんだよ。まだ足りないか?もういいでしょ?ダメなら今ここで、苦しませればいい!痛めつければいい!殺せよ‼︎僕はもう抵抗は…しないからさ……。』
もうこれでいい。どうせ死ぬなら、もう苦しんでもいいか。
全てがどうでもいい。
『どうして、』
僕が、悪いんだ。僕が傷つくのは当たり前だ。
『どうして、そんなことを言うの?甘ちゃんは何も悪いことなんてしてないし、傷つくべきじゃない。琥珀だって、周りから睨まれるし、距離だって置かれる。冷たくされる。でも少なくとも、琥珀は甘ちゃんのことを悪くなんて思ってないよ、だから…』
『嘘だよ、僕のことを悪く思わないわけがない!僕に、あんなにずっと隣にいようとしたのも、全て僕に、何かをしようとしてたんだ!チャンスを探ってたんだろ?そうだろ?何をしようとしてたんだよ‼︎』
もう、自分が何を言っているのかわからない。
もう、自分が何を考えているのかわからない。
わからない!
『僕なんか、生まれてこなければよかったんだ‼︎僕が死んでしまえばそれでいいのなら、殺せ‼︎今すぐここで、殺せ‼︎』
もう、暗闇しか見えない。
辛い。
楽になりたい。
『僕なんか…』
『そんなこと言わないでよ!』
僕は驚き、琥珀さんの顔を見た。
『琥珀は甘ちゃんのことを殺したいなんて思ってないし!苦しめたいとも思ってないよ!琥珀は!甘ちゃんのことが大事だから!』
琥珀さんが、泣きながら必死に言う。
こんな琥珀さんを見たことがない。
『甘ちゃんが琥珀を傷つけたことなんてない!夢だって全部、甘ちゃんの心の不安のせいだよ!』
『そうか、ならそれでいい。僕が悪かった。でも今は、疲れてるんだ。もう楽になりたい…』
僕は柵の先を見て言った。
僕の勘違いなら、今琥珀さんを傷つけたことになるだろう。
そんな中で生き続けたいとはとても思えない。
周りから悪者扱いされるのはもう嫌だ。
僕は、気づくと泣いていた。
『だからそんなこと言わないでよ‼︎』
琥珀さんが叫ぶように言った。
僕はまた驚いた。
『どうして、そんなことを言うの!琥珀が辛くて死のうとした時、甘ちゃんは琥珀のことを助けてくれたのに!俺と生きていて欲しいって言ってくれたのに!死のうとするなんて、それが一番ずるいよ!でも、そんなの…あんまりだよ……』
琥珀さんがその場にしゃがみこんで大粒の涙を流し、泣いている。
ー『どうして助けたの?もう、楽にさせてよ!助けても生きる意味なんてない!助ける意味もない!だから手を離して!』
『たとえ!琥珀を苦しませても!それでも!生きていて欲しい!意味なんてなくても!助けてはいけない理由になんかならない!』
『生きたって、辛いだけだよ!もういやだよ!苦しみたくないよ!』
『なら、俺のために生きて欲しい…辛いなら俺が守る!だから生きろ!俺の願いは、琥珀さんに生きていて欲しい!生きる理由ならそれだけでいいだろ‼︎』ー
あぁ、そうか、
何かが、僕の中で蘇る。
ただの一部でしかないかもしれない。
でも、それだけでいい。
今はそれだけで…
僕も、涙を流していた。
『いっしょに生きてよ、最後まで隣にいさせてよ…うぅっ、琥珀が、甘ちゃんを幸せにさせてよ!琥珀のために生きてよ!』
そうだ、
生きる理由ならあった。
辛くても、守らないと。
そう、小さな頃に約束したんだ。
それを勝手に破るのはずるいことだ。
今、僕にできること。
それは…
僕は歩く。
そしてしゃがむ。
『ごめん。いや、ごめんなさい、僕が間違っていた。生きる理由ならここにあった。』
『うん、琥珀としあわせにいきて、』
その言葉が嬉しかった。
『ほんの少し、昔のことを思い出せたよ。』
『そうなんだ。きっと、これからもっとたくさんのことを思い出せるはずだよ。』
僕は琥珀さんの手を取って、
まっすぐ見つめて、
『僕が、琥珀さんを守る。だから、琥珀さんの隣にいさせて欲しい。』
少し間をあけて。
『僕と、付き合って欲しい。』
今言うべきではないと思う。
でも、自然と言っていた。
今言いたかった。
琥珀さんは優しい笑顔を見せてくれ、
『はい、もちろんです!』
そう言ってくれた。
『おうちに帰ろ、甘ちゃん!』
琥珀さんは笑顔のままで言った。
僕も自然と笑顔になった。
家に着く。
『そうだ、頬痛くない?』
琥珀さんの頬を見て言う。
僕が叩いてしまった頬。
『うん、だいじょぶだよ。』
あんなに強く叩いたんだ。
本当は痛いんだろう。
でも、気にしないように気を遣ってくれたのだろう。
やっぱり優しい。
『でも今日はほとんど1人で寂しかったから、たくさんあまえさせて?』
甘えることで許してくれるのなら断る理由はない。
『いいよ。たくさん迷惑かけちゃったから、』
最後まで言う暇なく琥珀さんが抱きついてくる。
『あま〜、ぎゅ〜っ』
予想以上の甘えモードだった。
僕と琥珀さんは今、付き合っているんだ。
でも、あんなことがあった後だ、気まずい。
とりあえず頭を撫でてみる。
『えへへっ、いっぱい撫でて〜。』
僕の手を掴んで、自分で頭を撫でさせる。
でも琥珀さんの笑顔を見ると、やっぱり癒される。
癒しを通り越してちょっと怖いけど。
でも、その時間が30分以上続いた…
夕食の後、
『お手洗いに行きたい、』
とのことで、琥珀さんとお手洗い場に入る。
そしていつも通り、後ろを向いて耳を塞ごうとしていた時、
『今日はこっち見てて欲しい、』
琥珀さんがうるうるさせた目で見てくる。
え”、
今なんと?
見ることになんの意味が?
琥珀さんがそのまま、スカートを下げる。
『っ〜‼︎』
そして、
やめよう。
何も考えない。
いや、何か考えてた方がいいか、
如月さんのことでも考えよう。
手を握られる。
そう、如月さんだ。如月さんが手を握ってきたんだ。
そうだ、きっと。
如月さんが笑っている。
あ、雨でも降っているのかな?
まだ、雨を見たことがない。
うん、楽しみだ!
見てみたいな。
あ、やっぱりいいや。
雨がやんだみたい。
『終わったよ?』
琥珀さんは手を洗う。
お、おわったぁ〜
救われた気分だった
でも…
風呂に入る。
風呂があった….
今、僕が琥珀さんの髪を洗っている。
髪を洗うのを手伝うのはいい。
だが、問題は…
『後ろを向いてください、』
『やだ!』
正面を向いたまま、子供のように駄々をこねる琥珀さん。
やめろォ‼︎
ゆらすなァ‼︎
何とは言わない。
でも、琥珀さんの大きなアレが!揺れてる!
そして、抱きついてくる。
やめろォ‼︎
くっつくなァ‼︎
何とは言わない。
でも、琥珀さんのアレが!当たってる!押し付けられてる!
ヤメテ!
『こ、琥珀さん!胸が!胸が当たってる!』
『甘ちゃんならいいよ、触りたい?それとも揉む?』
何もよくない。
『変態め、』
『ガーン!』
自分でガーンって言ったよ…
甘え方が前以上に酷い。
で、背中もか…
でも、背中を洗う時も正面を向いている。
まぁ、前からこうだったけど…
『洗いづらいんですけど…』
『琥珀のことを抱くようにしたら…』
『嫌です。』
恥ずかしいことを言ってくる。
そして、苦労しながらも、
なんとか終わった。
『胸の方はあら…』
『無理です!』
琥珀さんは残念そうだ。
『ド変態め、』
『ガーン‼︎』
もういいよ!
『はぁ〜』
ため息をついていた。
もう、疲れた。
あの後も琥珀さんに身体を触られまくった。
股間だけはどうにか守ったが、他は全て犠牲になった。
そんな琥珀さんは今、まだ抱きついている。
『あま〜あま〜』
デレデレだ。
僕の認識が間違えているのかな?
さっきまでのは全て普通のことなのかな?
自分の肌を見られたり、触られたりするのって恥ずかしくない?
普通は違うの?
本当に疲れた。
『もう寝よう?』
僕が言う。
『もっとあまえたい〜』
琥珀さんは離してくれない。
でも、僕は部屋の電気を消して、ベッドの上で横になる。
琥珀さんも横になる。
『今日はいい夢が見れるといいね。』
そうだ、
もう、この関係を壊されたくない。
もう、あんな夢を見たくない。
そう思いながら目を閉じる。
と、
頬に何かが当たったあと唇にも、何かがあたる。
琥珀さんが僕の両頬に手を添えて、唇を重ねていた。
長いな。
全然離れない。
寝てるのか?
僕は琥珀さんの頬に手を添えて、離す。
『おやすみのちゅうだよ?』
なんだそれ。
僕は目をゆっくり閉じる。
『おやすみ、あまちゃん、』
ー『ねぇ、狼夢君。あそぼ?』
『何でお前と遊ばなきゃいけないんだよ!あ、間違えた、遊ぶって何するの?』
いつも気を張っていたので、強い口調になってしまった。
『狼夢君は何をしたい?』
琥珀が訊いてくる。
『まず、狼夢って呼ばないで。俺はその名前が嫌いだから。』
親ではない親からつけられた名前。
そいつらも名前も大っ嫌い。
『ごめんね。なら、新しい名前を考える遊びをしよ?』
『なんだそれ?』
よくわからない。
『お互いにお互いの名前を考えて、それを新しい名前として呼び合うの!』
遊びではない気がするけどなんとなくわかった。
でも…
『名前なんてすぐに決められないよ。』
何を基準に名前をつけるのかわからない。
『私はもう、決めたよ。』
『ええっ、』
もう、決まったの?
それ、俺の名前になるんだよね?
大丈夫なのか?
『君の新しい名前は…あま!』
あ、あま?
天と書いてあまかな?
雨と書いてあま?
これはあまり良くないかな、
『甘いの甘だよ、』
は?
マジか…それ……
甘い?
僕の予想が合っているなら…
今の俺と、全然合ってない。
『おいおいおい!もっと真面目に考えてくれ!俺に甘いという要素がどこにある!』
早かったなとは思った。
けど、こんな名前を付けられるとは思ってなかった。
『甘えて欲しいから、甘えたいから甘なんだよ?』
意味がわからん。
甘えて欲しいとか甘えたいとか…ひでぇなおい、
だからずっと後ろをついてきてたのか…
『甘ちゃんは私の名前、考えてくれた?』
思いつかない。
わからない。
あ、
『わから.ない子』
もう、それでいい気がする。
『もう!真面目に考えてよ!』
怒っている。
なら、俺の名前ももっと考えてよ!
『時間が欲しい。』
『んー、わかった、』
ちょっと残念そうだ。
よくわからない
もう、わからない子でいいじゃん。ー
ー俺は1人、帰る。
知らない家。
俺の家ではない。
けど、あそこにしか帰る場所がない。
『はぁー』
ため息をつく。
どうせ、帰っても怒られるだけ。
帰る必要があるのだろうか?
と、
なんだあれ?
何か光っているものが落ちている。
近づいてみる。
これは…
丸い形で薄っぺらい。真ん中に大きく10と描かれている。
10円玉か。
でも、こんな色の10円玉を見たことがない。
いつもの10円玉は光沢のない茶色なのに、
これは綺麗な光沢のある、茶色?
オレンジっぽくも見えるし、光の加減によって一部がピンク色っぽく見えるところもある。
偽物かな?
『・・・』
この色をどこかで…
『あ、』
わからない子の髪。
こんな色だった。
この色はなんて言う色なんだろう?
あのおじさんなら教えてくれるかも、
俺はある場所に向かう。
そこは、弁当屋だ。
『今日は早く来たな、弁当が欲しいのか?』
このおじさんはここに行けば、俺に売れ残った弁当をくれる。
家を追い出されたりした時はここで弁当をもらうことが多い。
『今日は違って、これが何色かを知りたいんです。』
そう言って、俺はさっき拾った10円玉を見せる。
おじさんは10円玉を手に取って、見る。
『これは、本物の10円玉か。色は綺麗な銅色だな。どうした、拾ったのか?』
『はい。』
俺は返事をする。
『銅色っていうんですか?』
『まぁ、そうだな。銅、だけでもいいがな。』
どういろ、どう、
『漢字ってどう書くんですか?』
そう聞くと、おじさんがスマホで見せてくれる。
『なぜ知りたいのかは知らないけど、君くらいの子にはちょっと難しいんじゃないか?』
銅。
「ありがとうございます。』
これで考えてみよう。ー
ー家に帰る、
結局、怒られた。
全て、先生の嘘なのに、
いじめられているのは俺なのに、
今日も俺がいじめたと、電話で先生が言っていたらしい。
俺は立ったまま、テレビの音声を聞いていた。
自然石についての番組。
琥珀石についての紹介、説明をしていた。
俺は、チラッとテレビを見た。
黄色とオレンジ色を混ぜたような色で、
キラキラしている。
!
その色は、
わからない子の目の色と似ていた。
こはくというのか?
漢字は難しいな。
考えてみる。
どう.こはく、こはく.どう、
なんかしっくりこない。
名前っぽくない。
俺は、父に気づかれないように、
父の部屋へ行く。
そして、あるものを探す。
あった。
俺は分厚い本、漢字辞典を手に取る。
俺は見てみる。
と、
銅のページがあった。
どう.あかがね。
と記載されている。
あかがね?
あかがね.こはく、
しっくりくる。
これにしよう。
俺は漢字辞典を元に戻した。ー