テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
第十章 ただいまの笑顔
あの日から三日後――。
結城家の朝。
カーテンの隙間から、やわらかな朝日が差し込んでいた。
ベッドの上では、千弥がくぅちゃんとしろまるを抱きしめながら眠っている。
コンコン。
「ちーちゃん、朝だよ。」
千景が静かに部屋へ入る。
「……んぅ。」
「おはよう。」
「……にぃに。」
まだ少し眠そうな声だったが、以前のような苦しそうな様子はもうない。
千景は額へそっと手を当てた。
「熱は……ないね。」
続いて体温計を使う。
ピピッ。
36.5℃
「よし。」
思わず笑顔になる。
「合格。」
「ごうかく?」
「もちろん。」
「やったぁ。」
千弥も嬉しそうに笑った。
「今日から大学、行ける?」
「うん!」
「でも、絶対に無理はしないこと。」
「はーい。」
「少しでもしんどくなったら電話。」
「うん。」
「約束。」
「やくそく。」
二人は小さく指切りをした。
朝食は、まだ体に優しいメニューだった。
野菜スープ。
トースト。
スクランブルエッグ。
ヨーグルト。
「いただきます。」
「いただきます。」
千景は、千弥が食べる様子を静かに見守る。
一口。
二口。
今日は止まることなく食べ進めていく。
「おいしい?」
「おいしい!」
その元気な返事に、千景は心から安心した。
午前八時半。
いつものように車で大学へ向かう。
「久しぶりだね。」
「うん。」
助手席には、くぅちゃん。
そして鞄の中には、しろまる。
「二人とも一緒?」
「うん。」
「寂しくないね。」
臣桜
561
saon
99
752
「えへへ。」
車内には穏やかな笑い声が響いた。
大学へ着くと、いつもの友人たちが駆け寄ってきた。
「結城くん!」
「久しぶり!」
「体調大丈夫?」
「もう元気?」
千弥は少し照れながら笑う。
「うん。」
「しんぱいかけちゃった。」
「元気になってよかった!」
「本当に!」
先生も優しく声をかける。
「結城くん、無理は禁物だからね。」
「はい。」
「今日は眠くなったら保健室でもいいから。」
「ありがとうございます。」
大学中が、千弥の回復を喜んでくれていた。
その頃。
会社では――。
「社長。」
遥が笑顔で社長室へ入る。
「ちーちゃん、元気そうだった?」
「うん。」
「熱も下がった。」
「よかった。」
千景は朝撮った写真を見せる。
「見て。」
「……。」
遥は思わず笑った。
「朝ご飯食べながら、くぅちゃんにも『いただきます』してる。」
「可愛いでしょう?」
「うん。」
「世界一可愛い。」
「ちかは本当に親バカ……じゃなくて、お兄ちゃんバカだね。」
「兄だから。」
真顔で返す千景に、遥は吹き出した。
午後四時。
大学の授業が終わる。
「じゃあね。」
「また明日!」
「またね!」
千弥はいつものように会社へ向かって歩き始めた。
「くぅちゃん。」
「しろまる。」
「にぃにのところいこう。」
足取りは、病み上がりとは思えないほど軽い。
会社の自動ドアが開く。
「あっ!」
受付の女性が笑顔になる。
「ちーちゃん!」
「こんにちは。」
「元気になった!」
「うん!」
「よかったぁ!」
あっという間に社員たちが集まってきた。
「おかえり!」
「待ってたよ!」
「もう大丈夫?」
「はい。」
「今日は二人もいる!」
「くぅちゃんと、しろまる。」
「可愛い!」
会社中が笑顔に包まれる。
その頃、受付から連絡を受けた千景は、いつものように社長室を飛び出した。
「ちーちゃん!」
「にぃに!」
二人は笑顔で向かい合う。
「おかえり。」
「ただいま!」
「元気そうだ。」
「うん!」
千景は安心したように抱きしめる。
「よく頑張ったね。」
「えへへ。」
そこへ遥もやって来る。
「ちーちゃん。」
「はるにぃ!」
「元気になってよかった。」
「ありがとう。」
三人は顔を見合わせて笑った。
夕方。
社長室でおやつを食べながら、千弥はぽつりと言った。
「にぃに。」
「ん?」
「ちぃね。」
「うん。」
「びょうきだったけど。」
「うん。」
「みんながいてくれた。」
千景は静かに頷く。
「だから。」
「うん。」
「さみしくなかった。」
その言葉に、遥も優しく微笑んだ。
「ちーちゃんは、一人じゃないからね。」
「うん。」
「これからもずっと。」
千景は千弥の頭をそっと撫でた。
「僕が守る。」
遥も穏やかな表情で続ける。
「僕も、一緒に守るよ。」
千弥はくぅちゃんとしろまるを抱きしめながら、大きく頷いた。
「ありがとう。」
夕日に染まる社長室には、三人の優しい笑い声がいつまでも響いていた。
第一部 「結城家のしあわせ日和」 完
けれど、結城家の穏やかな毎日は、これからも続いていく。
結城家の「ただいま」と「おかえり」は、これからも変わらず、温かな家に響き続けるのだった。
コメント
2件
お読みいただいた全ての皆様へありがとうございました。 もしお時間があれば、第二部も是非お読みください!
「第一部完お疲れさまでした…!🥀読んでて心がぽかぽかしました。千弥くんの『さみしくなかった』っていう言葉がすごく刺さって。病気をしても『みんながいてくれた』って言えるの、ちゃんと愛されて育った証だなって思いました。千景さんと遥さんの『守る』っていう約束も重くなくて、優しくて。結城家の『ただいま』『おかえり』、これからもずっと響いてほしいです。第二部も楽しみにしてます🌙」