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街の喧騒から少し外れた道は静けさを隠すことなく街灯の淡い光と、冬の澄んだ空気だけが目立つ。
「ヒナ、寒いんだろ。」
「んー、ちょっとだけ。」
「鼻赤くなってるぞ。」
「え、マジ??」
「まじ。」
そんな他愛のない話をしながら、ゆっくりと歩いていた。
「あ、明王ちゃん。あそこ!」
指を指した先は田舎によくある遊具とグラウンドが分かれた小さくも大きくもない、そんなありきたりな公園。
遊具もベンチも年季が入っており、イルミネーションみたいな派手な飾りはない。
「ね、あそこ寄ってこーよ!」
手を引くと明王ちゃんは少しだけ目を細めて、公園の方を見る。
「…少しだけな。」
「ありがとう!」
そのまま自然に歩く向きが変わった。
◻︎ ◻︎ ◻︎
「なんにもないね〜。」
「最初から分かってただろ。」
「まあね〜。」
なんとなく歩みを緩めて公園の奥まで目を向ける。
さっきまでの会話が夜に溶けて、街灯の光が静かに影を落としていた。
「改めて言うけどさ、本当にありがとう。」
「あ?」
「これ、ずっと欲しいなって思ってたから。」
私の手には白を基調とした小さな紙袋。その中には今日明王ちゃんから買ってもらったクリスマスコフレが入っている。
「あー、お前ずっとボーナス出たら買う!って意気込んでたもんな。」
覚えてたんだ、と思って少し驚く。
「それに、別に大したもんじゃねぇだろ。」
「安月給の私にとっては大したものだよ。それに、明王ちゃんからのプレゼントだからもっともっと大切なものになったよ。」
そう言うと、明王ちゃんは少しだけ視線を逸らした。
「…気に入ってんなら、それでいい。」
「…あ、明王ちゃん照れてる?照れてる?」
「うっせーよ。」
「ちょっと疲れたかも。あそこのベンチで休も?」
そう言ってベンチに並んで腰掛けた。
「ね、明王ちゃん。」
「あ?」
「今年の私たちのクリスマスは静かなクリスマスだね。」
「まぁ、そうだな。」
街は賑やかだけど少し離れたここまでは届かない。
聞こえるのは風の音と、そして私たちの息遣いだけ。
「誕生日のときに見たイルミネーション、覚えてる?」
「…ヒナが死ぬほどはしゃいでたやつな。」
「明王ちゃんだってなんかキザなこと言ってたじゃん。」
「さぁ?覚えてねーな。」
軽く笑いながらも、あの夜の光景は今でも鮮明に覚えている。
眩しかったのは景色だけじゃなかった。
「あれに比べると、今日って地味だなって思う人もいるかも。」
「別に比べるもんじゃねぇだろ。」
明王ちゃんはそう言って、私の肩に軽く額を預けた。
「明王ちゃん?」
「俺は、こういう方が落ち着くし。」
低い声が、近い。心拍数が格段に跳ね上がる。
「それに、ヒナが隣にいりゃ、それでいい。」
その言葉が、胸の奥に静かに沁みる。
派手なツリーも、光り輝く街も今はここにない。
でも、冷たさを分け合って、静かな場所で肩を並べている。それだけで、私たちは胸が満たされていくのだ。
「…私も、これでいい、かも。」
明王ちゃんは少し間を置いてから、いつものニヤリとした意地の悪い笑みを浮かべた。
「“これがいい”だろ。」
訂正されて思わず笑う。
「そろそろ帰ろうぜ。」
「そうだね、フラペチーノ飲まなきゃ。」
冷えた空気の中で、繋いだ手だけがあたたかい。
誕生日みたいに華やかなクリスマスじゃない。
それでも私たちは、きっとこの静かな夜を、ずっと覚えてる。
それだけで、十分だった。