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第八十四話 今年最後の写真
十二月三十一日。
今年最後の日。
湊は部屋の机に並べた写真を、一枚ずつ眺めていた。
写真展に出した写真。
初めて仕事として撮影した写真。
何気ない街の風景。
紅葉の中で笑う人たち。
そして、紬と一緒に撮った写真。
一年間で撮った写真を並べてみると、
不思議な気持ちになった。
高校を卒業した春。
新しい生活が始まった日。
写真をもっと本格的に続けたいと思った日。
初めて自分の写真を誰かに評価してもらった日。
うまくいかなくて悩んだ日もあった。
それでも、カメラを手放すことはなかった。
「……今年、結構変わったな」
湊は小さく呟いた。
写真が上手くなっただけじゃない。
写真を撮る理由が、少しずつ変わってきた。
綺麗な景色を残したい。
それだけだったはずなのに。
今は、人の気持ちや、
その人にしかない時間まで
残したいと思うようになった。
そのとき、スマートフォンが震えた。
紬からだった。
『今年最後の写真、もう撮った?』
『まだ』
『私もまだ』
少しして、紬から続けてメッセージが届く。
『じゃあ、同じ時間に撮ろうよ』
『いいね』
『それぞれの場所で!』
『了解』
離れていても、同じ瞬間を残す。
それは二人にとって、
もう特別なことではなくなっていた。
夕方。
湊はカメラを持って、いつもの川沿いへ向かった。
冬の空気は冷たかった。
けれど、空は綺麗に晴れている。
川沿いを歩く人。
家へ帰る自転車。
買い物袋を持った人。
どこにでもある、年末の風景。
湊は立ち止まった。
昔なら、
もっと特別な景色を探していたかもしれない。
でも今は違う。
誰かにとっては、何でもない一日。
それでも、その人にとっては
大切な一日なのかもしれない。
そう思うと、何気ない景色まで少し違って見えた。
湊はカメラを構える。
そして、シャッターを切った。
同じ頃。
紬も自分のいる場所でカメラを構えていた。
冬の街。
夕暮れの空。
行き交う人たち。
街を照らし始める明かり。
紬も静かにシャッターを切る。
数分後。
二人のスマートフォンが同時に震えた。
『撮れた!』
『俺も』
それぞれが撮った写真を送り合う。
湊の写真には、川沿いに広がる夕暮れ。
紬の写真には、冬の街と空。
違う場所。
違う景色。
だけど、同じ一日の中にある二枚だった。
『今年もいろいろあったね』
紬から届いた。
『うん』
『高校卒業したの、まだちょっと変な感じする』
『分かる』
『でも、ちゃんと前に進んでる気はする』
湊はその言葉を見つめた。
そして返信する。
『俺もそう思う』
『写真も、前より好きになった』
『夢も、前よりちゃんと考えられるようになった』
少し時間が経ってから、紬から返事が届く。
『じゃあ、来年はもっと先まで行けそうだね』
湊は笑った。
『うん』
『でも、まだ途中だけど』
『私も』
その短いやり取りが、なんだか嬉しかった。
夜。
湊は家に戻り、
今年撮った写真を一冊のアルバムにまとめた。
ページをめくる。
春。
夏。
秋。
冬。
そこには、今年一年間の時間が詰まっていた。
そして最後のページ。
今日撮った写真を貼る。
写真の下に、
「2026年12月31日」
と書いた。
その隣には、短い言葉を残す。
「まだ、夢の途中。」
カメラを机の上に置く。
今年一年。
夢が見つかったわけじゃない。
夢が叶ったわけでもない。
でも、
「これを続けたい」
そう思えるものには出会えた。
それだけで、十分な一歩だった。
スマートフォンを見る。
紬から新しいメッセージが届いていた。
『今年最後に、もう一回だけ写真送って』
湊は笑いながら、今日の写真をもう一枚送った。
『来年もよろしく』
すぐに返事が来る。
『こちらこそ』
そして、
『来年も、いっぱい写真撮ろうね』
湊はその言葉を見て、静かに頷いた。
窓の外には、今年最後の夜が広がっている。
一年の終わり。
だけど、二人にとっては終わりではなかった。
それぞれの夢は、まだ途中。
だからこそ、
その先にはまだ見たことのない景色が待っている。
湊はカメラを手に取った。
最後に、窓の外へ向ける。
シャッターを切る。
今年最後の一枚。
そして――
ここから先に続いていく、最初の一枚。
📷 Photo.084「今年最後の写真」
撮影日:12月31日
夢は、叶った瞬間に終わるものじゃない。
追いかけ続ける時間の中で、
少しずつ形になっていく。
二人はまだ、その途中にいる。
そして次の一枚には、
まだ誰も知らない未来が写っている。
――次回、第八十五話「夢の続きを」。
第三章「それぞれの夢」――完。
そして、第八十六話から――
最終章が始まる。
コメント
1件
うわああ…今年最後の写真ってだけで泣きそうになるわ、これ。 湊くんの「夢はまだ途中」って言葉がめっちゃ刺さった。叶ったかどうかより、続けたいと思えるものに出会えたことの尊さ…写真に対する気持ちの変化が丁寧に描かれてて、じーんときたよ。 離れた場所で同じ瞬間を切り取るふたりの距離感もすごく良い。第三章完結か…最終章に向けて、このふたりがどんな景色を見せてくれるのか、もう待ちきれない🔥