「あーーっ!暇!」「いいじゃん。平和ってことでしょ」
「それはそうなんすけど…暇すぎるのにも程度があるでしょ?」
仕事場のソファーにだらしなく寝転びながら、柴原が天井に向かって叫んだ。
「ただいま戻りました」
「あ、お疲れー才木」
「何してるんですか」
「シバが暇すぎて死にそうって話」
「なんかしましょうよー」
「陣内さんは?」
「いつものようにパチンコです」
「あの人も懲りないねー」
「なにかしましょうよー」
才木は荷物を自分のデスクに置き、スマホを見る。通知はまだ来ていない。陣内はまだパチンコをお楽しみ中のようだ。
「なにかしましょうよー」
「うるさいなあ…何すんの?」
「うーん…あ!王様ゲームとかどうです⁉︎」
「王様ゲーム?」
「あれ、才木、王様ゲーム知らない?」
「知ってますよ。くじで王様決めて、番号の人が命令聞くやつですよね?」
「そうそう!紙もあるんで、ちょうどいいでしょー」
「私はパス。ろくなことにならなさそうだし」
「えー2人だけじゃあつまらないっすよー」
「え、僕もやるんですか?」
「え、当たり前じゃん」
「はあ…本当に嫌な命令だったら殴るからね」
「うす!」
柴原は早速机の引き出しを漁り、メモ帳をちぎって数字を書き始めた。
「準備できたっすよー」
柴原、綿貫、才木、それぞれクジを引く。最初の王様は…
「私ね」
「お!綿貫さんっすか!」
「命令…あ、1番が語尾に『にゃん』を付ける」
「1番…僕ではないですね」
「ってことは…シバか」
「うわー!嫌だにゃん」
またクジを引く。次の王様は…
「あ、俺だ…にゃん」
「命令どうする?」
その時、才木のスマホに通知が入る。
「…あ、陣内さん。満足したので戻るそうです」
「ん?…あ!いいこと思いついたっす!…にゃん」
「ん?」
「今から陣内さん戻ってくるじゃないっすか?」
「そうだね」
「はい」
「もう一回くじ引いて、3番だった人が陣内さんとチューとかどうっすか⁉︎」
「は?」
「え」
「それって陣内さんは強制的に誰かとキスしないといけないことになりますよね」
「別にいいんじゃない?パチンコに行った罰として。それはそうとしてシバ。それ本当にいいの?私は別にいいけど…殴ればいいだけだし」
「?いいっすよ?」
「ふうん。じゃあそれで」
「ただいま戻りましたあー」
ちょうど陣内さんが帰ってきてしまった。
「あ!陣内さん!実はカクカクジカジカで…」
こうなった経緯を陣内さんに説明する。
「…はあ?何勝手に巻き込んでんだよ?」
「パチンコに行った罰だそうです」
「シバ、『にゃん』忘れてる」
「…あっ!…にゃん」
「とにかく、陣内さんはそれでいいよね?」
「はー…ったくしょうがねぇな。で、誰なんだ?」
「それはこれからっす!にゃん」
才木と綿貫、柴原はもう一度クジを引く。
「…あれ?これって柴原先輩が王様になった意味ないのでは?」
「へ?」
「うん。シバが王様のまま命令してたら、シバは絶対に陣内さんとキスすることはなかったね」
「…あっっ‼︎本当だ…うわやっちまった…にゃん」
「…どんまいです。柴原先輩」
皆クジを引き終え、中身を開く。命令が命令だからか、皆緊張した顔をしている。
「…私じゃないわね。セーフ」
「俺も違います!あっぶねーにゃん」
「ってことは…才木。お前か」
「…はい。僕が3番です」
「才木頑張れー」
「どんまい!にゃん」
綿貫と柴原は必死に笑いをこらえているようだ。
「ほら、さっさとすんぞ才木」
「うう…」
なんとかこの場から逃げれないだろうかと才木は考えるが、無理そうだなと諦める。
「あーなに?まさか初めてじゃないよな」
「初めてではないですけど…」
陣内が才木の腕を掴む。その手は少し冷たかった。
「そんな顔すんな。キスくらいで死なねぇよ」
顎に指をかけられる。距離が一気に近づいた。
(近い…)
小さなリップ音が部屋に響いた。
「ほら、これでいいか?」
「…なんか2人がやるといやらしいっすねにゃん」
「なんか意外と絵面が綺麗で腹立つな…」
柴原はなぜか「いいもの見た…」みたいな顔をする。一方、綿貫は腕を組んで「なんか腹立つ」とぼやいていた。
(なぜか心臓の音がうるさい。じわじわと体に熱を持つのが感じられた。)
「おい才木、大丈夫か?まあ、先輩とチューなんて嫌だよな」
「え、あ、大丈夫です」
柴原に呼ばれはっと我に帰る。
(ただの罰ゲームだ。そう思っているのに、なぜか落ち着かない。)
理由はわからずじまいだが、柴原と綿貫と話をする。
「…へえ」
陣内はじっと才木を見つめていた。
目がいい彼は、才木の動揺して少し耳が赤くなっているのを見逃しはしなかった。
そして、ニヤリと笑い。
「案外イケるのかもな」
陣内は誰にも聞こえない声でそう呟いた。






