元英雄は夢を見ない。
「…また君か」
どこか辺境の地で白き翼の戦士は目の前の蝶へ放つ
蝶は知らん振り。
「今度は何しに来たの?お腹でも減った?」
慣れた口調で会話を促せば、蝶は形を作り出す
「会いに来ただけだ。暇だったのでな」
「物好きだねぇ」
「…」
そんな会話をしていると、口を露わにして私の舌へ喰らいつく。
「(相変わらず急だな…)」
この蝶は魂が糧だ、魂ならなんでもいいらしいが、ギャラクティックナイトがお気に入りなのか、最近はここに来ることが多い。
「(やっぱり、この感覚には慣れない…)」
魂を啜られている間は痺れるような感覚がする。最初は苦痛だけだったのだが、最近は工夫しているのか、慣れ始めたのか、苦痛はしなくなり、代わりに快楽がじんわり流れていく。
この形式になって1番最初の時は、お互い慣れていないせいで醜態を晒したことを思い出し、思考をとめた。
「…ほら、終わりだ。」
「あ、やっと終わった…長すぎ、いつも」
「離れたくない程旨いのだよ、ギャラ」
「思い出補正?相棒補正?…どちらにせよ、今は美味しくないと思うなぁ」
慣れないのは、蝶の姿にも言える。
見知った顔なのに、違う。その背中には羽が生えてる。蝶の、翅が。
僕を守り命を落とした目の前の元相棒は、まだ未練タラタラらしい
「今だから旨いのだ。夢を見ない貴様であるからこそ、な。」
「でもバルフくん的には夢見る僕も食べてみたいでしょ?」
「それは…まぁ。」
「僕だったらなんでもいいのか…」
「…」
その問いに黙ってしまった彼を見る、やはり彼はあの時の英雄に未練があるらしい。
「じゃあ見せてよ、君の夢。僕のすべてを見ておいて、自分は見せないなんて許さないんだからね」
「は…っ?!」
己は食べなくていいのだが、まぁ、好奇心というやつだ。
見よう見まねだから、保証はしないけど。まぁ既に死んでるし、いっか!
「やっぱ背中かな?基本的にいつも背中だもんね?」
「待て、私は望んだつもりは」
「僕だって望んでないもーん」
「違…っ、あ、がぅ」
いつも蝶がやるようにして魂を啜り、情報を掴もうとする
何をそんなに隠そうとするのかは分からないが、不器用な彼の事、素直になるのが嫌なんだろう。
「っ、うが、やめ」
「(バルフも弱い方なんだなぁ、僕ほどじゃないけど…)」
「…やめ、ろ。」
「っぬわ、んむ?!」
やりすぎたか、そう思う暇もなく口を塞がれ魂を啜られる
いつものことではあるけれど、怒っているからか、少し雑であった。
「(あ、やば、これは…このパターンは…)」
いつもより強い悦楽に溺れてゆく、もとよりそういう快感に強い方でもなかったから、さらに強く感じる。
「(やばい、何とかしなきゃ、二の舞は勘弁して欲しい。何とか)」
そう思考を回すが何も出てこない。空回りするだけ。
そうしていると舌を噛まれる。
「(い゛っ…)」
いきなり来た鋭い痛みに思わず体が動くと、チャンスと言わんばかりに舌を噛んでくる
何も考えさせないというふうにも見えるその動きに集中して、さらに脳が回らなくなる
そうして酸素も回らなくなると、悦楽に任せて意識を投げ出した。
「…起きたか」
「とっくにどっか行ってると思った…」
「さすがに、やりすぎたからな…」
「しおれるなんて君らしくもない、どったの」
珍しく落ち込む彼に何があったか聞くと、帰ってきたのは意外な答えだった
「…最近、魂が上手く啜れない。」
「はい??」
上手く啜れない、それはさっき経験したギャラクティックナイトだからこそわかるもの。バルフレイナイトの啜り方はいつも通り成功していた。何がダメだと言うのだろう
「なん、というか…お前以外の魂を吸うと癖で、苦痛を混ぜれない。」
「ん?苦痛を混ぜれないとダメなの?」
「…普通なら苦痛しか与えられない。癖となって付きまとわれても困るからだ。」
やる側がそうなったら意味ないだろ…という言葉をしまって、彼の話に相槌をうつ
「スランプ的な?」
「スランプ…とも違うような…」
「じゃあ僕以外喰わなきゃいいのに」
「…は?!」
なにかおかしなことを言ったのかという顔をするギャラクティックナイトに、バルフレイナイトは呆れていた。
「あ、蝶界だとプロポーズだった?ごめんね?」
「勝手に振るな…さっきの言葉に二言は無いな?」
「あごめんちょっとまだ心の準備が…」
「だからそういうことではない…!」
変な方向へ勘違いを続けるギャラクティックナイトを説得し、理由を説明する
「…なーんだつまんないの、驚いただけか…」
「貴様……」
「だってその方が面白いじゃん」
昔から変わらない友の姿に安心しながら返す
「…それで、いいのか?」
「べつに構わないよ、僕的には。」
「交渉成立…だな」
「交渉といえる交渉だった?」
「煩い、細かいことは良いだろう」
少しガサツな友を前に、楽観的な思考を巡らせながら、英雄はそこへ立っていた
これから起こる事象も知らずに…
「ああーっもううざったいな!!」
「しょうがないだろう?」
淵源を巡る英雄…然りギャラクティックナイトは、バルフレイナイトに頭を悩ませた。
何せ己からした交渉…なので、言い返すことができない。
実力で勝つことも叶わない…詰みなのだ。
そして、あの交渉から明らかにふえた訪問回数に、バルフレイナイトの気持ちを少しだけ察した。
『こいつ、さては寂しがり屋だな?』と。
まぁ、口に出せば魂を啜られること間違い無しなので、一旦言わないでおく。
昔から、不器用なのは変わらないから。
「(こうしていがみ合うのも久しぶりだな…)」
このやり取りを楽しいと思う己はおかしいのか、はたまた普通なのか。
生まれてから夢を見なかった己に夢を与えた、目の前の存在は…
まだ、夢を見させてくれるだろうか?
あの時出来なかった夢を、まだ見てもいいのだろうか。
いいじゃないか、夢を見たって。
むしろ、英雄だからこそ、夢をみたい。
夢の見ない己を、もう一度、連れ出しておくれよ。
例外を呼ぶ蝶々くん。
コメント
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グ( ゚д゚)ハッ!(吐血) 尊い…もっとください(強欲な壺)
ふおぉぉぉ…最高ッ…死んでいいですか…?(泣)