テラーノベル
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私の「生きる理由」は、スマホの向こう側にいた。
名前は 白瀬ルナ。
白銀の髪に澄んだ声、月のように儚くて、優しい笑顔の女の子。Vtuberとして活動する彼女に、私は一目で心を奪われた。
最初は、軽い気持ちだった。ただの推し。
でも、何気ない「ありがとう」や、「今日も来てくれてうれしいよ」って言葉が、苦しい日々を何度も救ってくれた。
現実は、そんなに優しくない。
学校では目立たず、家でもどこか居場所がなかった。
でも、彼女の配信を見てる時間だけは、本当の自分でいられる気がした。
ルナちゃんは、いつも明るい。でも、時々、ふと画面越しに影が落ちるときがある。
「ルナ、がんばってるつもりなんだけど……ごめんね、今日ちょっとだけ弱音、吐いてもいい?」
そんな時、私はコメントを打ちまくった。
「ルナちゃんはルナちゃんのままでいてくれるだけで十分だよ」
「だいすき」
「いてくれてありがとう」
彼女はそれを読んで、涙ぐみながら「ありがとう」って言ってくれた。
でも、分かってる。
私は、彼女の世界に「観測者」としてしか存在できない。
この距離は、どれだけ思っても、埋まらない。
ある日、ルナちゃんが活動3周年記念で、ファンレターを募集した。
私は震える手で便箋を開き、何度も書いては書き直した。
思いを届けたい、でも、重くなりすぎたらいけない。
「ありがとう」だけじゃ足りない。
それでも──たったひとこと、最後にこう書いた。
「ルナちゃんがいる世界に、私もちゃんと咲いていけるように、がんばります」
そして、その数週間後の配信。
「最近ね、ある子からお手紙をもらって……そこに、“私も咲いていけるようにがんばる”って書いてあったの。すごく、泣いちゃった」
「ルナも、まだ咲ききれてないけど……一緒に咲いていけたら、って思ったんだ」
私は思わず、スマホを胸に抱きしめた。
見えてる。私のことなんて、たぶん特定はしてない。でも、それで十分だった。
あの一言が、私を救ってくれたように、私の言葉も、ちゃんと届いた。
数年後。
ルナちゃんは今も変わらず活動してる。私も少しずつ、自分の人生を歩けるようになってきた。
画面の向こうの「大好き」は、いまも変わらない。
でも、ただの「受け取る側」じゃなくて、私も誰かの光になれるように、生きていこうと思う。
だって私は知ってる。
推しがくれた愛は、確かに私の中で花を咲かせているって。
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